第一印象はアテにならない
ピニャーシュさんが明後日のミルク販売のお休みを勝ち取って(?)来てくれたので、今日はにぃにといっしょに神殿教室に向かうことになった。
次のミルク販売は五日後だからね。せっかく遠出するので、神殿教室を五日間お休みして魔獣領域の近くまで行くことになったよ。今日のミルク販売が終わったらすぐに出発すれば、一番近い魔獣領域の端っこにはたどり着けるっぽい。
なので、五日目の朝に現地を出発したら神殿教室が終わるころまでに帰宅できるんだって。
……ええ、モチロン移動はわたしとピニャーシュさんのふたりだけですが、ナニカ?
だって、そうするのが最短だって言われたら、ケロンしないように頑張るしかない。自分の希望で出かけるんだから、仕方ないね。
というわけで、巫女様――狐人のジーナさんににぃにといっしょにご報告。ジーナさんはジョスくんのお母さんなんだけど、ジョスくんと違って本当に穏やかな女性だ。
ジョスくんもねぇ……最初の印象だと似てるように見えたんだけど、実態はずいぶんと違うっぽい。
物柔らかな物腰を装いつつ人のアラをつつきまくるタイプで、正直、苦手。苦手を通り越して、嫌いなタイプかも。
第一印象って、案外アテにならないね。
「お休みは結構ですけれど……。もしよろしければ、遠出の間、フェリシアちゃんをお預かりすることもできますよ?」
ジーナさんは頬に手を当て、心配そうに眉をひそめる。
にぃにとわたしの間を移動する視線から、『なにもこんなに小さな子を危険な場所に連れて行かなくてもいいでしょうに』的な気持ちが伝わってくるね。
でも、わたし。
いちおうは加護の儀も終わっているし、十歳に手をかけてる年齢ですよ? 心配しすぎだと思います。
「ジーナさん、グラジオラスさまがご一緒するのですから大丈夫ですよ」
「でも、季節も季節ですし……」
たしかに今は冬真っ盛り。
それほど雪深くなる地域じゃないみたいだけど、雪がチラつく日も珍しくない。普通に考えれば心配するのは当たり前か、と考えを改める。
「グラジオラスさまがいらっしゃれば大丈夫だと、私は存じ上げております」
「そう、ですか……。ヌンツィオさまがそうおっしゃるのでしたら……」
犬人神官のヌンツィオさんにニッコリと圧をかけられて、ジーナさん、撃沈。
神殿内での力関係から、コレ以上の抗議を諦めることにしたみたいだ。
ちなみにヌンツィオさんは知識神さまの愛し子で、神殿内では神子に次ぐ高位神官。
神子がいない場合、大神殿の巫女・神官を束ねる立場になることも多い役職らしい。まあ、この順位付けも加護神の位によって変わるっぽいんだけど――知識神さまも創世四神の次に偉い神様だからね。ヌンツィオさんの場合は、神殿内ではにぃにの次に偉い人になるってことで間違いない。
なお、わたしを連れ出すことを渋っていたジーナさんは、にぃにはヌンツィオさんが個人的にお世話になって人だと聞いている模様。
まさか、神子だなんて思ってもいないんじゃないかなぁ。
知ってたら、たぶん、何も言わずに頷いたと思う。
「グラジオラスさま。五日後の、ご無事の帰還をお待ちしております」
「ありがとう、ヌンツィオ。お土産、期待してて」
なので、ヌンツィオさんの言葉に鷹揚に頷くにぃにのことを、ちょっぴり非難めいた感情が垣間見える目で見てるのも仕方ないんじゃないかと思います。
彼女にとって、最も目上の人間はヌンツィオさんなので。
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「――というわけで、しばらくお出かけしてくるよ」
「まあ……一度通ってきた場所に戻ったところで問題ないわよね」
「うにゃうにゃ」
「でも、風邪とかしもやけには気をつけなさいね? 凍死とか、絶対ダメよ」
「うにゃ。まかせて、ちゃんと気をつける」
「なんでかしら、逆に不安が増したわ」
お昼ごはんを食べながらトリーにご報告しておいたら、なんかめちゃくちゃ心配された。
風邪と凍死は大丈夫だと思うけど、雪にはたくさん触れる可能性がある。しもやけしないように、対策しなくては。
ウンウン頷きつつ、大きなお芋をパクリンちょ。
今日のごはんも、とっても美味しい。
「いいなー、村の外、行ってみたい」
「村の外なんて危ないだけだよ、アルド。町中では小さいランチュウだって、ちょっと村から離れるとこ――んなに大きくなるんだからっ!」
村の外に興味を示す鼠人のアルドくんに、犬人のレオルドくんが両手をいっぱいに広げて説明してる。
ランチュウも魔素の濃い場所では巨大化するけれど、レオルドくんが言うほど大きくならない。ウチの座布団が最大サイズです。まあ、襲ってこられるとメチャ怖いんだけど。
「フェリシアって結構どんくさいから、心配だわ……」
「……否定できないけど、わたしの分の運動神経はにぃにが持ってるから、タブン平気」
実際、どんくさい自覚がある。
トリーの心配もごもっともだと言うしかないので、にぃにを引き合いに出して誤魔化した。
え? ジョスくんが発言してないって?
あの子は『自分は君たちとは立場が違いますから』的な顔をして、巫女様たちと食べてるからね。この場に居ないんですよ。その方が気兼ねせずに食べられるから、誰も不在を気にしません!




