トリーの家族
「さて、今度の素材はHランクよ。これなら、飽きっぽいフェリシアでもダレずに魔石化できるでしょ」
トリーは、わたしがお昼ごはんの仕上げをしている間に家まで戻って、普段使っている素材を持ってきてくれた。
ちなみに、内蔵一個で銅貨一枚ですよ?
どう思われます? 高すぎないですか、奥さん。買取金額が銅貨一枚なのに、販売時は肺x2・心臓・肝臓が別売りの銅貨四枚である。正直、トリーのお父さんはぼったくり過ぎだと思う。
「トリーはHランクの魔石なら平均で七つだっけ」
「そうね。Gランクが出来るところまでは頑張ってないわ。父さんの指示は『質なんかどうでもいい、まずは数を作れるようになれ』なんだもの」
その言葉が、素材を無駄にしたくなくて出てるものなのか、はたまたスキルを鍛えるために必要な効率を経験から叩き出した結果から出たものかは知らないけど、とりあえず先人に習うってことで――
お昼ごはんを食べる合間に作っておいた魔力水に肉片を投げ込み、魔石化に再挑戦!
「うん、そう」
「いいわ、フェリシア――とってもいいかんじ」
「――ホラ、もう結晶化したもの出来てきてるっ」
「ああ、なんて素晴らしいの」
「最高よ、あなた」
「なんて優秀なのっ」
トリーに発破をかけられ、おだてられ、褒め殺されつつ小一時間。最初に挑戦した素材よりもずっと格下素材で作り上げた魔石はHランクのものが全部で四つ。倍の時間をかけたのにひとつしか作れなかった格上素材での挑戦を考えると、コレはなんだか『やったぜ』感がある。
トリーも満足。
トリーがご機嫌で、わたしも満足。
これがwin-winってやつだねっ!
「――で、どうだった?」
一瞬だけ、何を聞かれてるんだろうと心の中で首を傾げ、ポンと手を打つ。
「最初のより、結晶化が始まるのが早かったから飽きづらい気がする」
「そう、そうなのよ!」
どうやらわたしの答えは正解だったっぽい。我が意を得たりと、手を打ってトリーは喜んで語り始めた。ちょっと長すぎたので省略するけど、この最下位魔石を作るやり方はお父さんが子どもに教えるように考えた方法らしい。
このお父さんというのが、どうやら魔石づくりが好きすぎるみたいで『世界に広げよう! 魔石づくりの輪!!』という理想を掲げて日々邁進しているっぽいんだよね。こう……自分の『楽しい』を、他の人とも共有したい! ……みたいな。
「もしかして、ソレが理由で【魔石づくり入門】なんてものを量産してたり?」
アレ、どう考えても値段設定がおかしいんだよね。だって、銅貨一枚なんだもの。
ぶっちゃけ、魔石を二個作って売れば元が取れる。
「正解よ、フェリシア」
「めっちゃ赤字なのでは……?」
「あたしもそう言ってるんだけどねぇ……。もうすぐ母さんが帰って来るから、ソレまでの辛抱だわ」
「お母さん、出かけてるの?」
というか、言い方的からするとそこそこ長い間、ヒガシショユ村にいない風に聞こえたんだけど?
「ああ、兄ふたりを連れて武者修行の旅に出てるの。あたしの加護の儀までには帰って来るって言ってたから、そろそろだと思うのよね……」
「それは帰りが待ち遠しいねぇ」
ソワソワした様子が微笑ましくて、思わず笑みがこぼれる。
「そうなの。兄さんたちも、ちゃんと狩人としてやっていけるようになってるかしら?」
なんと、二年も前に旅に出て、それから一度も帰郷していないらしい。
とはいえ、毎月のように手紙は届いているから無事を信じていられるみたいなんだけど……手紙の代わりに半年に一度でも顔を出してくれる方がわたしだったら嬉しい。トリーは違うのかな?
「もっと頻繁に帰ってきてくれたら嬉しいのにねぇ」
うっかり飛び出した言葉を後悔したけど、言った言葉は戻らない。とっさに口を手で抑え、上目遣いにトリーの顔を窺う。
「そう思うわよねぇ? でも兄たちが家に戻ると引きこもるから、性根を叩き直すために必死なの」
「……狩人向きのスキルを授かったんだよね?」
「【気配察知】に【潜伏】、それから【逃走】。弓術なり投擲なりを身につければ、それなりにやっていけそうでしょ? でも、ここにいるとスキルを駆使してだらけ続けるの」
えーっと、だらけられそうな場所に【潜伏】して、探しに来る親が【気配察知】にひっかかったら【逃走】すると、まあそういうことですね?
ある意味完璧に使いこなしてる気がするけれど、ソコはこう……もっと生産的な方向性で活かしてほしいという家族の気持ちの方に共感してしまう。
「それは……なんという才能の無駄遣い」
「正直、どうにかできる性分でもないと思うんだけど……他の弟たちにも悪影響だから、ね」
「隔離が一番の目的かぁ」
っていうか、完全に今までの行動から得たスキルだと思うし、性根を叩き直すのは、かな~り難しそうだよね。
トリー(と弟たち)のためにも、お母さんにはなんとか成し遂げてもらいたいものです。
だってさ、トリーのお母さんにはお父さんを制御するお役目もあるわけだし。まだ子どもな年齢の娘さんに、お父さんの操縦は難しすぎですよ、お母さん?




