魔石を作ろう 下
さっきトリーがやって見せてくれたように、魔力水を張った桶に肉片を放り込んでから手を浸す。
暖房をきかせた室内にあったというのに、その水はとっても冷たい。冬の真っ只中だから仕方がないんだけど、尻尾の毛が逆立ったよ。
「これは……たしかに、専用の器が欲しくなるかも」
「でしょ?」
金属製の器だとやっぱり冷たそうだけど、水に手を浸けるよりはマシな気がする。
「でも、最初のうちは、あたしがやってみせたみたいに直接肉片に触れたほうが結晶化がスムーズよ」
「うにゃ」
ジワジワと魔力を放出しはじめて、割とすぐに飽きが来た。
「フェリシア、集中力が落ちてきてるわよ」
「うにゃ……でも、飽きた~」
「こんな高位素材を用意したせいでしょ。もっと真面目にやりなさい」
集中力が落ちてきて、少しでも他に気を散らしそうになった瞬間、即座にトリーの雷が落ちる。
「トリー、すごいね」
だって今、魔力の流れが止まりそうになった瞬間に怒鳴られたよ。
「あんたの集中力のなさのほうがよっぽどすごいわ」
「それほどでも?」
「褒めてない」
そうだね、褒めれてないのは知ってました。
「というか、トリーが魔力の流れに敏感すぎる」
「あたしだって、何年も前から魔石作っているんだもの。コレぐらい分からないとどうしようもないわ」
「巫女に魔力操作の修行はないんだよ~」
必要なのは、神々の気を惹くための舞踊や演奏。それから祝詞の詠み方です。
いちおう、加護神の司るスキル磨きも推奨されてる。
「喋る方に気を回さないっ」
「うにゃぁ~!?」
わたし、お友だちとキャッキャウフフしながらのんびりお勉強ライクな休日を過ごすくらいのつもりだったのに……!!
なんで、お友だちが鬼教師に変身してるのぉ!?
とりあえず、魔石が無事に出来上がるまでの間、トリーはわたしの気が散るたびにシャーシャー威嚇しまくった。
わたしは、トリーの威嚇とかかさまの念話での応援の中、なんとか集中力を保つことに成功したんだけど……。ほんの三〇分ちょっとのことだったけど、気の休まる暇がなかったよ。トホホのホ。
「わたしは、偉業を成し遂げたのだ。……って、言うほど偉大なことじゃないよねー」
なんとかかんとか魔石づくりに成功し、ホットミルクをフーフーしながら肩を竦める。
「あら、じゅうぶん偉業の範囲じゃない? 初めての挑戦で、このランクの魔石を作れるだなんてそうそう出来ることじゃないわよ」
トリーはそう言って褒めてくれたけど、出来上がったのってトリーが作ったのと同じものだよ?
素材的には、頑張ればもっと透明度が高い魔石も作れるらしいし――そう考えると、なおのことすごいと思えなくなってしまった。
「そこまで凄くないでしょう」
「あたしだって町から離れた場所の魔獣素材で魔石を作ったのは初めてだったのに、そんなこと言われるとへこむわー」
「ごめん、そういうつもりじゃなかった」
失言だった!
トリーのの傷ついた表情に、尻尾の毛がブワッとなる。
「知ってる。フェリシアは、自分に関する評価基準が厳しすぎるのよね。ちょっと修正したほうがいいわよ」
「にゃう?」
なんて?
「あなたって、他人が出来て『すごい』って言ったことも、自分のときは『イマイチ』って評価するでしょう?」
「うにゃうにゃ」
まあ、次の機会にはうまくいく方法を考えて挑戦するからね。失敗することの方が多いけど、上を目指しますよ?
「それって、すごくモヤモヤするのよ」
「なぜに?」
不思議に思いつつ、ミルクをペロリ。
「人によっては、バカにされてると思いそう」
「……それは、良くないね」
ひどい冤罪だっ!
自分の出した結果に失望してるだけで、他の人のことを馬鹿になんてしませんよ?
「そもそも、何が気に食わなくて『イマイチ』なのよ?」
「んー……、たぶん、あんまり理解を得られない気がするんだけど……」
「聞いてみてから判断するわ」
「なら、言うけど。|魔神さまに誇れるほどの成果じゃない《・・・・・・・・・・・・・・・・・》から、だね」
案の定、トリーは困惑した様子で首を傾げて固まった。
この言い分は、たぶんにぃになら分かってくれるんじゃないかと思う。にぃにを見てきた、ピニャーシュさんやロイさんも、きっと。
なので、トリーの理解を得たくて口に出したわけじゃなかったんだけど、意外なことに彼女はそのままなにかを考え込みはじめた。
「フェリシアは、他人との関わりを断つつもりはないのよね」
「うにゃ?」
「休みの日に、あたしのことを家に招待するくらいだもの。いわゆる普通の生活を捨てて、神々に祈りを捧げ続けるような気持ちはないように見えるわ」
「まあ、お友達と遊んだりはしたいなぁ」
神殿教室でワチャワチャしながら手習いも楽しいし、今日みたいに女友達を呼んで気兼ねなくおしゃべりしたりして過ごすのも好きだ。
「にぃにの話を聞く限りだと、神殿に入るのも良し悪しって感じがするし、魔神さまにお祈りするのはどこでも出来るからね」
【お庭】の拝殿でお祈りしてもいいし、いっそなくても声は届くし。
わたしとにぃにの場合は、別に神殿に拘る理由がないんだよね。
「なら、処世術として『イマイチ』と思ったとしても、それを口に出さないようにしたほうがいいわ」
「しょせーじゅつ」
「あと『イマイチ」って言い方じゃなくて、『頑張った』に変えてみるのはどう? これなら、同じ成果を出した相手を嫌な気分にはさせないんじゃない?」
「おお、なるほど」
たしかに、ネガティブさのない言葉選びだね。
それに、結果が意に沿わなくても『頑張った』という部分は事実なわけだし、次はさらに『頑張る』んだし、良い言葉だと思う。
「じゃあ、次からは『頑張った』よ?」
「うにゃ。『頑張った』、だね。忘れないようにがんばるよ」
それにしても――
「トリーって、同い年なのにすごくお姉ちゃんっぽい」
「四ヶ月も年上だもの、当然よっ」
ちなみに、弟ばっかり五人もいるのだと、お昼ごはんを食べながら愚痴られた。どうやらわたしは、擬似的な妹枠らしい。




