魔石を作ろう 中
「道具と材料は用意してある?」
「うにゃ。材料は、|頑張って魔力を込めたお水《魔力水Cランク》に、水を入れる器でしょう。それから、昨日にぃにが獲ってくれた、ランチューの内蔵!」
魔力水は、いつもなら水魔法で百リットは出てくる水一リットの中にギュウギュウ魔力を押し込んだもの。ナント、水魔法のランクと同じランクの魔力水を作るために、Cランクの保有魔力と同量の魔力が必要になる。
今日は朝から、二リットほど用意しておきました!
「水を入れる容器は桶でもいいんだけど……できれば、魔力伝導率の良い金属製がオススメよ」
「なぜに?」
「毎回、水に手を突っ込まなきゃいけないから、手がふやけたりアカギレが出来たりで大変なのよ」
「……ソレは辛い」
今度、にぃにに相談してみよう。
「材料はランチューで十分よ。お手軽にどの季節でも手に入るから鉄板ね」
「逆に、他の魔獣の内臓だとなにか変わるの?」
「実は、結晶化の難易度が変わるわ」
むむむ? ソレだと、ちょっとまずいかも。
「用意したランチュー、外で獲ったヤツなんだけど……」
「う。どのランク?」
「ソコに転がってる子達と同サイズだね」
なんだか、見るたびにいつも眠っているウチの従魔を指差す。村の中を走り回ってるランチューのサイズを思い浮かべたトリーの眉が、困惑したようにひそめられる。
「あたしだと、もしかしたらキツイかも……」
やっぱりか。
村で捕獲できるランチューは、通常一〇センテ~二五センテくらい。ウチの子たちは、どう見ても一メータ超えの大物だ。明らかに、魔獣としての格が違う。
ちなみにH~Gランクの魔獣は、たいがい捕まえた人のおやつになる運命です。なので、ハラヘリなちびっ子がその家の食料庫の守護者になりがちだ。
「というか、どこまで獲りに行ったのよ、あんたのお兄さん」
「騎獣訓練のついでだったから、そこそこ遠くだったんだろうねぇ」
「コレだから、旅の狩人ってやつは……」
たしかに。言われてみれば、村で暮らしてた頃とだいぶ感覚が変わってるかも……
村レベルだと、端から端まで歩いてもせいぜい二〇〇メータだったけど、魔獣領域で二〇〇メータは目と鼻の先だ。フォレチェルに乗ってたりすると、一瞬だよね。
「そしたら、今から町中で探す?」
「えー? 寒い外に出るのは嫌よ、あたし」
「奇遇だね。わたしもです」
そんなわけで、用意した素材を使うことになりました。仕方がないよね。
暖炉にガンガン薪を入れて温めまくっている部屋から出たら、死んでしまうもの。
「最後に素材になる内臓だけど――」
「部屋から出してあるからとってくるね」
部屋の温度で痛むからと、従魔スペースにおいてある内臓を取りに行く。
普段は【お庭】に居るミルギューたちは、トリーがいる間は従魔スペースにいてもらっている。居心地は悪いと思うけど、念の為、アリバイ作り的な?
「なんか、あからさまに必要なものがわからないから全部取っておいた感じね?」
「うにゃ」
だって、必要なものって考えたときに漠然と【内蔵】って思い浮かぶんだもの。せめて、種類が思い浮かんでくれたら下処理も楽だったんだけど……
「全部、血抜きやゴミ取り済みだよ」
「さすがは調理系スキル持ち……って言いたくなる完璧さだけど、必要なのは【肺】【心臓】【肝臓】のみっつよ。他はいらないわ」
「んじゃ、いらない部分は戻してくる」
「そんなゴミ、どうするのよ?」
「ここに出しといたら臭くなるでしょ」
それに、きれいに処理した腸にクズ肉詰めて焼くと美味しいのだ。せっかく、完璧な下処理をしてあるんだから有効活用せねばですよ。
「というか、必要なのもほんの切れ端程度しか使わないわよ。使う分だけ取ってから戻してくればいいじゃない」
「なるほど、トリー賢いね」
「それほどでも……あるでしょうっ」
自慢げに髪をファサッとやる姿に思わず吹き出す。
「失礼ね」と、怒ったふりをするとこまでがお約束だね。
おふざけを終えると、トリーは肺をほんの小指の先程度だけ切り取ってみせる。
どうやら、一度に使うのはこの程度ということらしい。
「他の部位を使う場合も同じくらい?」
「そうよ。あたし程度の魔力保有量だと、ほんとに少しで十分なの」
ちょっとその言い方は嫌だなと思いつつ黙って頷く。
自分も同じくらいの量を確保して、残りを元の場所に戻しに行った。
それにしても……加護の儀前だと言うのに、スキルらしいスキルを使えるトリーは十分にすごいのに。『あたし程度』なんて言い方、しないでほしい。
「下処理の終わった肉片をこう――魔力水の中に放り込んで、しばらく水に馴染ませるの」
「うにゃうにゃ」
「五分から一〇分経ったら、水を経由して魔力を肉片に押し込むのよ」
魔力水に手を浸し、人差し指を肉片に押し当てつつ、トリーは気合を入れて魔力を放出しはじめた。
肉片に触れていたら水経由じゃなく直接的にトリーの魔力が注入されそうだけど、案外そうでもないっぽい。ジワジワと水かさが減りはじめ、肉片の一部が膨張し始める。
「はい、できたっ!」
大きく息を吐き、額を拭う仕草をしたトリーの手の中には丸くて透け感のある灰色の球体が乗っていた。あと、結晶化出来ずに残ったらしき肉片も。
「おおお~っ」
魔石って、こうやってできるんだ!
思わず感嘆の声を上げつつ拍手をすると、トリーも満更でもなさ気な様子で頬を緩める。
「いつもならもっとたくさんできるんだけど……。やっぱり、高ランクの素材だと結晶化は難しいのね。ひとつしか結晶化しないだなんて……」
不満げに口を尖らすトリーだけど、このときのわたしにその魔石はとても素晴らしいもののように思えて、考えるよりも前に「ねぇねぇ、その魔石。売ってくれない?」という言葉が飛び出していた。
「いつものより透明度は高いけど、なんの加工もしてないわよ?」
「トリーが作った、コレがいいの」
「いつものと値段が違う気がするから、父さんに相談してからでもいいかしら?」
「うにゃ」
魔石屋さんを営んでいるトリーの家にとって、トリーの魔力は無料じゃないということだ。
魔石を作るために消耗した魔力には、対価が必要だってことである。
「それじゃ、後で買い取らせてください」
「いいわ。明日の神殿教室のときには確認して持ってくる」
とりあえず、商談成立。
「それにしても、魔石って色合いで値段が変わるんだ?」
一律で十個で八銅貨だと思っていたので驚きです。
「当然じゃない。はは~ん、さてはあんた。村の子どもがお小遣い稼ぎで作ってくる、一番ランクの低い魔石の値段しかしらないんでしょう?」
「そうかも。十個で八銅貨なんだと思ってた」
「父さんが数稼ぎのために、魔石作りの入門書を量産してるからね。村の子が気軽に手を出せるランクの分だけ買い取り札に大きく書いてるだけよ」
ほかのランクは、買い取るときにきちんとお見積りをとるらしい。
「それより、フェリシアもやってみなさいよ。ちょっと素材のランクが高すぎて、成功率は低そうだけど――そうね、一時間くらいかけてじっくりと挑戦すれば、イケるかも?」
「結構な無茶を言うね」
トリーが提示してきた一時間って、わたしの魔力回復速度予想を元に言ってるね?
実際、五分ごとに一割ずつ魔力が回復するから、最短で四五分。気を散らさずに集中できれば成功するかもしれない。
「フェリシアの場合、魔力の回復速度も早そうだから、つい。でも、一瞬でも魔力の供給を止めてしまうとそこで失敗が確定しちゃうのよ」
「むぅ……それは、頑張ってみるしかないね」
なんか、ご期待を寄せていただいているようなのでやってみようじゃありませんか。




