にぃにの希望
たまにはにぃにに添い寝してあげることにして、きのこのベッドに潜り込む。
実はずーっと気づかないふりをしていたんだけど、にぃに、わたしと一緒に寝たそうだったんだよね。
当然だけど、夫婦的な方向じゃないよ?
にぃにの中ではわたしって、大神殿に連れて行かれる前の五年前――四歳のころで時が止まってるんだと思う。扱いが割と、小さい子に対するものなんだ。なので、単純に、庇護対象を愛でたいだけなんだろうなと思います。
「そういえばさ――」
おとなりでゴソゴソモゾモゾしていたにぃにが、ふと、思い出したように呟いた。
「僕も、森羅神さまのお言葉にちょっと泣きたくなったことがあるんだけど、聞いてくれる?」
「うにゅ?」
森羅神さまって、にぃにになんか言ってたっけ?
「僕、別にナベ職人、目指してない……」
不思議に思いつつ聞いてみたら、確かに言ってた! ナベ職人!!
わたしに説明しろって言ったときだよね?
にぃにが動揺してたのは、その呼び方の方にか……!
そして、そんな変な呼ばれ方をする羽目になった原因、二重にわたしのせいですね?
「……なんか、わたしのせいでゴメンナサイ」
あの呼び方は、最近、わたしのためにナベを量産しまくってたせいだよね。
しかも、わたしの察しが悪すぎたからにぃにが解説させられたんだし。単純な『ゴメンナサイ』なんて言葉じゃ色々足りないんだけど、他の言葉が思いつかない。
「別に、フェリシアが謝る必要はないよ」
にぃにが、小さく笑う。
「フェリシアのために鍋や包丁をアレコレ作るのは、楽しいからいいんだけどさ。さり気なく刺してくるよね、森羅神さま」
たしかにそうだね。
アレは、アレだ。『マキを割ったような性格』ってヤツ。ちょっと勢いが良すぎて、『マキを爆散させたような性格』に進化……退化? しているような気がしないでもない。
「あの呼び方ひとつでさ、『お前はどうすんだ?』って聞いてんだよ。僕だって、望んで足踏みしていたわけじゃないのにさ」
「ソレは、意訳し過ぎでは?」
と、言ってみたものの、それもちょっとありそうな話かも。
「実際問題、にぃにがしたいことってあるの?」
こう、長期的な意味でね。
とりあえず、ブラン王国を飛び出す羽目になった元凶の人は罰を受けることになったみたいだし、もう気にしなくてもいいんだと思う。この先、ピニャーシュさんを故郷に連れて行った後、にぃには何をしたいのかな?
「あ、もちろん、わたしのお世話とかは抜きにしてね」
「バレてるっ」
むしろ、なんでバレないと思ったの?
「にぃにが長く経験してるのって、鍛冶仕事だよね」
「そうだねぇ」
「鍛冶屋さんとか、なっちゃう?」
「……んー、どうだろう」
「武器でもいいし、防具でもいい。お鍋や包丁、他の職人さんが使うような小道具も作れるよね」
「今のリストだと、ホントにナベ職人にちゃっちゃいそう」
にぃにの笑いを含んだ声が、明かりを落とした部屋の空気をかすかに震わす。
「狩りもするようになったでしょ? 狩人さんは、どう?」
「そっちはまだまだだなぁ。獲物は見つけられるけど。でも、体を動かすのは結構楽しい」
「そっか」
結構、熱心に狩りに行きたがると思ってたんだけど、本人的にはそうでもないのか。
「うん。……そうだね、狩人として身を立てるよりも、ピニャーシュみたいに教える立場に惹かれるかも」
「ほうほう」
そういや、ピニャーシュさんってオトンの剣の師匠だったんだっけ。
最近、親子ほどの年の差のある娘さんに手を出すケシカラン男という認識に切り替わってたもんだから、すっかり忘れてたよ。
「ロイもさ、ピニャーシュに弟子入するまでは我流で、剣を適当に振り回すだけだったから大変だったんだって。魔獣を仕留める代わりに、自分を仕留めかけたことも何度もあるらしいよ」
「それは……」
「今はちがうよ?」
「うにゃ」
でないと、にぃにの従者はムリですよね?
「ピニャーシュは細身の刀で洗練された技をふるうタイプだけど、ロイは野生の獣を思わせる荒々しさがある剣なんだよ。使っているのも大太刀だしね。戦闘スタイルがぜんぜん違うけど、どちらも源流は同じ――なんか、すごくない?」
ごめん、にぃに。
すごいポイントは、良く分からなかった。でも、わからないなりに、鍛冶仕事系の話をしてたときにはなかった熱は感じたよ。なら――
「それじゃあ、にぃには人に教えられるくらいに技量を磨かないとね」
こっち方面に、背中を押そう。
きっと、それが今のにぃにがやりたいことに近いはず。




