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わたしのあこがれ

 創世四神の皆さまがお戻りになられた後。

後片付けをしながら、しょんぼりため息を吐く。


「森羅神さまのおっしゃってたことを考えてるの?」


 食器を洗う水音の合間に、にぃに(・・・)の気遣うような声が落ちる。


「ソレもあるんだけど、色々と失礼なこと考えてたなーと……」

「悪意があってのことじゃないから、気にしてないと思うよ」

「うにゃ……」


 でもね、やっぱり思うわけですよ。

『森羅神さまって、味音痴なんだろうなー』とか思ってたの、バレバレだったのかな―とか。正直、不敬どころの話じゃない。

 神々って、わたしたちの心の中が分かるのかな? 分かるとしたらどの程度?

考え始めるとキリがなくって、考えれば考えるほどに怖くなる。


「あの場に居た神々は、心の中を読んだりしてないと思うよ」

「……にゅぅ」

「ただ単に、フェリシアが考えてることが顔に出まくってただけだね」

「……そんなに?」

「正確には、目・耳・尻尾の動きでだいたい分かる。特に森羅神さまの神獣はネコ属が多いから、余計じゃないかな」


 そういえばそうだった。

魔神さまの神獣はネズミ系で、武神さまはウサギや鳥系。理神さまは犬系の神獣を従えてることが多い。森羅神は、ほとんどがネコ系の神獣だったね。

猫人も耳や尻尾の動き方は、ネコ属に分類される魔獣や神獣と大差ないっていうし――そりゃあまあ、筒抜けになるよね。


「フェリシアの加護の儀は僕が執り行ったから大丈夫だと思うけど、さ。直近で僕みたいなケースがあったからね。きっと、同じことが起こる可能性を心配してくださってるんじゃないかな」


 にぃに(・・・)は話しながら、すっかり動きが止まってしまったわたしの手からお皿を取って、代わりにジャブジャブ洗い始めた。


「……にぃに(・・・)、わたしが神殿に出仕したいって思ってるの、知ってた?」


 大神殿でひどい目にあったせいで、にぃに(・・・)が神殿仕えに忌避感があるのを知ってたから言えなかったんだけど……

森羅神さまが、神殿に入る可能性を考慮にいれた助言をしてくれたから、思い切って聞いてみる。


「小さい頃にそう言ってたのは覚えてるけど――今でも巫女になりたいの?」

「ちょっとだけ」


 ウソです。

ホントは、オカンみたいな巫女になりたい。

 場所にはこだわらないけれど、できることなら、気軽に出歩いてトレントのお世話を手伝えるくらい、小さな――小さな村の巫女がいい。


「それは、なぜ?」

にぃに(・・・)みたいに、祝祭用の衣装を着てみたいな―と……」


 オカンとオトンが儀式のたびに対になって舞を舞うのが、ずっと、憧れだった。

 日に三度のお祈りで、巫女服をまとって祝詞を上げ奉納するオカンの姿に、自分も将来こうやって神々に祈り捧げるようになるんだろうと想像してた。

 村が滅んで、その未来は見えなくなってしまったけれど、それでも憧れは消えてなくて。

にぃに(・・・)が祝祭用の衣装を纏った姿に、『ずるい』って強く思ったのはほんの一月前の話だ。だから、コレは半分ウソじゃない。


「――……ピニャーシュを、故郷に連れて行ったら検討しようか」


 随分と長い沈黙の後で、にぃに(・・・)は言う。


「オトンの生まれ育った国なら、ブラン王国の大神殿みたいなことはないかもしれないし」

「……いいの?」

「ただし、神子ではなく下位の巫女として出仕すること」

「? 神子じゃだめなの?」

「下位の巫女なら、最短で一年もあれば村の小神殿を管理する仕事には就けるようになるからだよ」


 基本的な催事の作法や祝詞は最初の一年で叩き込まれるため、ここを乗り越えた時点で小神殿への赴任を希望することができる。しかも、赴任先は修行を積んだ神殿の所属する国に限らず、だ。

 そんでもって神殿に出仕するのがムリだと思えば、この段階で市井に職を求めることもできる。

もちろん、二年三年と修業を続けることにより、神殿や大神殿に所属することを目指すこともできるんだとか。


 これが神子だとそうはいかない。

最低でも三年。理想的には五年以上かけて、神々に捧げる音楽や舞の腕を磨くことになる。そうして大神殿の要として、神々と人との間の架け橋にならなくてはいけない。


「――と、教え込まれるのがテンプレートらしいよ」


 なお、情報源は森羅神さまだそうです。


「巫女や神官なら割と候補が多いから融通がきくけど、神子になると国にひとりもいないなんてこともザラだから洗脳・ハニートラップなんでもござれな勢いで留めおこうとするのが多いんだって」

にぃに(・・・)はむしろ、ハニートラップで逃げ出したよね」

「欲なんて、人それぞれだよ」


 ソレはそうだね。


「お祈りも奉納も【お庭】でできるし、融通のきく巫女一択なのは理解できたよ」

「それじゃあ、次の条件ね。ふたつ目の条件は、僕を従者として連れて行くこと」

にぃに(・・・)のシスコン」

「妹の心配をして何が悪いの? それに、万が一ブラン王国の二の舞いなんてことになりそうなら、問答無用で連れ出すからね。そばに居ないと都合が悪い」


 まあ……にぃに(・・・)自身の身に起きたことを考えると、仕方ないかな。


「うにゃ。そしたら、従者が認められない場合は諦めるしかないね」

「そうなるね」


 そしたら、従者を断られた時点で、巫女になるのはムリってことか……


「そのときはまた、別の国に行って再挑戦すればいいよ」

「え?」


 とつぜん、諦めかけた道の先に光が差したようで――半ば信じられないような気持ちでにぃに(・・・)を見上げた。


「お返事は? フェリシア」

「うにゃ……じゃなくて、えっと、はいっ!」


 にぃに(・・・)の表情は心配そうにくもってて、無理矢理笑みを作ろうとしてちょっぴり失敗してる。反対したいと思っているのに、わたしの気持ちを考えて妥協しようとしてくれてることが嬉しくて、思い切りにぃに(・・・)の腰にしがみついた。


「わっ!?」


 嬉しすぎてボロボロ泣き出したわたしに慌てたにぃに(・・・)が、お皿を拭いた付近で涙を拭おうとして「これじゃない!」ってなって余計に慌てたり、ソレを見てわたしがゲラゲラ笑ってしまったりなんてこともあったけど――本音を話せて良かった。


 わたし、巫女さまに――オカンみたいに、なれるかもしれない。

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