ヒガシショユ村
たどり着いた先にあった村には、思っていた以上に簡単に入れてもらえた。
「こんな季節に、ちんまい子を連れて旅なんてするもんじゃないよぉ」
という、白湯を用意してくれたおばちゃんの言葉からして、【加護の儀】前にしか見えない子ども連れだったことがスムーズに迎え入れられた要因だったっぽい。
まぁね。
もうすぐ一〇歳だというのに、もっと幼い子と間違われることもある小柄なわたしなので、ソレもまた仕方なし……。でもね、気持ち的には十分お姉さんなつもりなんですよ?
どうしても、見た目ばかりは変えようがない。ちょっぴりションボリさんです。
フーフーしながら白湯を飲んでいる間に、大人たちの間でお話し合いが終わったらしい。
「で、この条件でよろしいですかな」
「ええ。雪解けまでの間、こちらでお世話になります」
村長さんの用意した紙ににぃにが何かを書き込んで、お取引は終了。とりあえず、春が来るまではこの村に滞在させてもらえることになったみたいでホッとする。
交渉の結果決まった滞在条件は、このみっつ。
その一 ミルギューミルクを希望者に販売すること。
その二 狩りの成果は、必ず村の買い取り所に卸すこと。
その三 魔獣の群れや盗賊の襲撃があった時には、村を守るために尽力すること。
その一のミルギューミルクの販売については、冬場の食の彩りを増やすためにぜひ! ということだった。
この村にはミルギューがいないから、普段は他の村から買ってきているらしい。
わたしがここまで乗ってきていたミルギューだけでも、一日に結構な量の乳嚢を産み落とすからね。それが路銀に化けるのなら、むしろ喜んで売っちゃいますとも!
その二は、村に滞在する狩人さんに必ずお願いしていることみたい。
辺境で売るよりも内地の方が高く売れるからってよそで売られてしまうと、たぶん村としては狩人を滞在させる旨味がないんだろうね。まぁ、そういう条件をつけるのは理解できる。
その三は、居住するにせよ滞在してるだけにせよ、自分の身を守ることに繋がるので当然というか……むしろ、この条件が必要なことにビックリだよ。もしかして、逃げちゃう人とかいるの?
なにはともあれ、難しい条件でもないからあっさりとにぃにも納得した。
しかも、お店を開くのが前提条件だから、店舗付きで広めの物件にしてもらえる。
ただこの広さって、ミルギューの居場所も含めて決めてくれたんだよね、きっと。【お庭】があるおかげで、それほど広い場所が必要ないって言えないことが、ちょっぴり心苦しい気分です。
あ、でもね。お店ではミルギューミルク以外のものも売っていいみたい。だから、ランチューの卵も一緒に販売しようかなって思ってる。ランチューも、毎日たくさん卵を産んでくれるからね。四人家族じゃ食べ切れないんだよ。
まぁ、ソレはソレとして。滞在することになる空き家に案内してもらう間に、わたしは案内役のお姉さんから村のことをアレコレ聞き出すことにした。
「おねーさん、わたしたちがお買い物できるようなお店もあるかなぁ?」
お店をやってほしいって言い出すくらいだから、きっとあると思うんだよね。
「あるわよ。と言っても、あなた達みたいに流れてきた人のじゃないけど」
おおおっ、やっぱりあった!
ハズレ村より、ずっと都会だ!!
「どんなお店?」
「鍛冶屋は武具専門店と鍋屋があるし、雑貨屋には普通の雑貨だけじゃなくて呪符や魔道具も置いてある。魔石屋もあるから、両替はそこでできるよ」
なんか、寝物語でしか聞いたことがない言葉が飛び出してきたよ。
雑貨屋さんはアレだ。
行商のおじさんが開くお店の大きいバージョン! 行商だと、お塩やハニみたいな調味料と、古着なんかを売っていたっけ。だいぶ前に穀物の在庫はなくなっているから、魔石屋さんで現金を手に入れたらいの一番で穀物は仕入れないといけない。
「調味料とか穀物類は雑貨屋さん?」
「調味料? うーん……塩は雑貨屋だけど、ショユはウチの村の特産品だからね。ショユ工房がたくさんあるよ」
「ナント」
どうやら、雑貨屋さんで穀物類は売ってないっぽい。
ソレはソレとして――
「……ショユって、工房によって味が違うの?」
「いろんな工房のショユを試してみて、結構違うから」
「そっかぁ、楽しみっ」
ショユも欲しかったので、コレはコレで良い情報だ。
「穀物や豆がほしければ、トレント農家で直接交渉になるんだけど……。良かったら紹介しようか? 滞在中に自炊するなら必要だよね」
「ぜひ、お願いしますっ」
お姉さん、なんていい人っ!
喫緊の課題だった穀物問題。お姉さんのお陰で解消しそうです。




