新入り
秋の終わりごろ、あたしが暮らすヒガシショユ村の小神殿に新しい神官見習いが赴任してきた。
その方は犬人のヌンツィオさま。
ご年齢はあたしより四歳年上の一三歳で、元々は隣国に所属していた方らしい。
「全く、とつぜん迷惑な話だよ」
ヌンツィオさまが赴任してきたことに文句を言うのは、狐人のジョス。あたしとは同い年(といっても半年遅い)の九歳だ。
そんな彼の母親は、小神殿で長年巫女を務めている。ジョスは、母親が村を守る結界を維持する仕事をしていることを鼻にかけていて、同年代や年下の子どもたち相手に威張り散らす――率直に言って性格の悪い子だ。
なぜか自分も母親と同じように、神様から特別なご加護を授かると思い込んでるイタい子でもある。
個人的には、神々だって自己中で身勝手な人なんてお呼びじゃないと思うのだけど。
まあ、加護者の子は【加護の儀】で特別なご加護を授かる確率が高いと言うし、その日が来たときにどうなるか楽しみにしてれば良いのかもね。
こんなことを考えるあたしも相当性格が悪いと思うから、きっとご加護を授かるようなことはないと思う。別にご加護なんて授からずとも、堅実に生きていけばいいだけなんだから問題ないわね。
「そもそもが非常識だろう? 修行中の身でありながら、隣国に引っ越してくるだなんて」
「……まあ、それはそうかも?」
いけない。
思わず相槌打っちゃった。
いやでも、実際問題、巫女や神官の見習い期間の生活費はすべて国から支給された予算で支払われるそうだだから、つい……ね。非常識って部分にはつい同意してしちゃったのよ。
うっかり相槌を打ったせいで、ジョスの口からは我が意を得たりとばかりに悪言雑言が飛び出す飛び出す……よくもまあ、そこまで悪口が言えるものだとついつい感心しちゃう。見習いたいとは欠片も思わないけど。
「でも、そろそろ少しずつ赴任する神官さまが増え始める時期だよね」
「そうよねー。今年中に東に村落を立ち上げて四神結界を新しく張るんだもの」
ヒガシショユ村は、今、拡張工事の真っ最中。
東の魔獣領域に狩りに出るための拠点として運用するために、村から街へと規模を広げている。
街として必要な規模にするにあたって、必要になるのは【四神結界】だ。
【四神結界】は、方角に対応した創世四神を祀る小神殿と、結界の支点になる中央神殿で祈りを捧げることによって効果範囲を拡大させる。
ただ、それぞれの方角にある小神殿で祈りを捧げるのはひとりでいいけれど、中央神殿では最低でも四人の巫女か神官が必要になるらしい。
なので、中央神殿を担うことになるヒガシショユ村神殿が増員されるのは当然のことだったりする。まあ、ジョスが気に食わないのは、神官さまが増えることじゃなくて――
「よりにもよって、【愛し子】だよ!? ずっとこの村を守ってきた母さんをないがしろにしてるっ」
そう、要するに自分の母親よりも格上の神官(見習い)が派遣されてきたのが気に食わないだけなのよね。正直な話、法神の愛し子だというヌンツィオさまでなかったとしても、今の巫女さまよりも格上の神の加護を授かった人が派遣されてもジョスは同じセリフを吐いてたと思う。
母親(を隠れ蓑に自分)が一番じゃないと気がすまないのよね、ジョスって。
「それよりもあたし、【加護の儀】のためにも魔石作成スキルの腕を磨かなきゃ。ご加護なんてそうそう授かるもんじゃないんだから、手に職ついてないと将来こまるもの」
「そうだよねぇ。僕はショユ工房を継ぐ予定だけど、トリーは将来的に独立しなきゃだもんね」
「そうそう。今のうちに修練を積んでおけば、【加護の儀】のときにスキルを授かりやすくなるんだもの。遊んでなんていられないわ」
ジョスの文句を黙って聞き流していた鼠人のアルドがあたしの話に乗ってくると、ジョスはその話題を鼻で笑って口を開く。
「ご加護を授かる希望のない一般人は哀れだねぇ~」
「はいはい。そーですねー」
ほんっと、めんどくさい男だわっ!
その後、つらつらと自分の血統の良さについて語り始めたジョスを置いて、ふたりそろってこっそり逃げたのは言うまでもない。
――にしても、まさかヌンツィオさまの弟君が同い年だなんて。面倒なことになりそうだと思いつつ、そっとため息を押し殺した。
冬に入り、ヌンツィオさまの弟君をなんとか穏便に神殿教室のグループ内に迎え入れることに成功。
ホッとしたのもつかの間で、少し落ち着きはじめた時期になって、さらに追加でもうひとり新顔を迎え入れることになるなんて思いもしなかった。




