ベッタリさん
季節はあっという間に冬に入った。
毎日、移動しながらせっせと採集作業に精を出した甲斐があり、冬~春先までは余裕で食べていけるだけの食料が集まった――ような気がする。
なんで不確定系なのかって?
集まったのは、野草と肉・魚がメインなんだもの。当然ながら、村から持ち出してきた銀麦はとっくの昔になくなっていて、最近の主食はもっぱら長芋だ。
……え? 【お庭】に撒いてた黒麦と茶麦はどうしたって?
ここまで来るまでの道中で、運良く手に入れたミルギューたちがモグモグしてる。こう……もうすぐ実がつくかな? って程度に育ってきたところでムシャムシャと。
【お庭】って、そもそもが従魔を隔離しておくための異空間だからね。
ソコに生えているものを従魔が食べるのは当然と言えば当然の話だ。それに、モギュモギュしながら幸せそうにしているのを見てしまうと、食べないでとも言いづらい。それに、ミルギューのお陰で食べ物のバリエーションも増えたからね。ソレだけでも、ウチの子になってもらった甲斐があるというものです。
ちなみに、ミルギューは従魔にできたけれど、ハニブーンはダメだった。
あのあと、二つほど巣を見つけて挑戦してみたんだけど――多分、従魔術のランクが足りなかったんだろう。一生懸命、絆の糸を伸ばしたもののペーン! とばかりに跳ね返されるばかりでどうにもならなかったのだ。
ランクDでイケるはずなんだけど、居住領域が違うからハニブーンもランクアップしてるのかも。実際、わたしが知ってるハニブーンよりも身体が一回り大きかったような気がしないでもないんだよね。
「あっ!」
すでに魔獣領域は出て、隣国に入っている。
雪もちらつくようになっているから、すでに積り始めた雪に埋もれかけた道らしきものを見つけたから、そこを辿ってすすんでいたのだけれど、やっと人里にたどり着けたらしい。視線の先に、いくつもの煙がたなびいているのが見える。
「もうちょい行ったら、村ありそうっ」
「もうちょいってどれくらい?」
「さぁ?」
「どれどれ、僕も見てみよっかな」
そういうのとほぼ同時に、にぃにがミルギューの背中にヒョイと飛び乗ってきた。後ろに座るのは良いんだけど、なにをドサクサに紛れて抱きついてるのかな?
「あ、ホントだ。そこそこ遠そうだね」
「うにゃにゃ~」
「というか、フェリシア寒いんじゃない? 随分と体が冷えてる」
「へーきー」
「また熱を出すと大変だから、僕のマントに包まってなさいっ」
にぃにってば、最近になって、また距離をドカンと詰めてきた。
最初の頃はほぼ無言で、こっちをじっと見定めてるみたいだった。ある日突然ベラベラおしゃべりするようになって、それと同時に、くっつかんばかりの位置に座るようになったんだよね。
そんでもって今回。
これもきっかけが全然わからないんだけど、突然、スキンシップが増えた。頭を撫でるのはまだいいよ? でもね、抱っこしたがるのは勘弁してほしい。わたし、もうすぐ一〇歳になるレディですよ?
同じマントに包まって、縦に並んで顔を出してもいいのは、六~七歳くらいの子の話だと思うんですよ。でも――
「予定通りだったらなぁ……」
小さな声で、こんな風に呟くのはちょっと反則だ。抗議、しづらくなるじゃない。
にぃにはもともと、大神殿に行くことなんて、これっぽっちも考えていなかった。オトンやオカンだってソレは一緒だったと聞いている。
そもそも神殿長の部下の人が、たまたまド田舎にある村の【加護の儀】の日に訪れていただなんて偶然だとは思えない。絶対、最初からオトンとオカンの子どもが加護者になる可能性が高いと思って突撃してきてたよね。そんでもって、実際に加護者になったにぃにを半ば無理矢理かっさらっていったのだ。
マチガイナイ。
そのおかげで親の死に目にも会えなかったにぃには、唯一残った肉親であるわたしにベッタリんこと……
まぁ、そういう事情を考えると、ねぇ……にぃにが落ち着くまで、我慢するしか無いのかな、と思わないでもない。ただ、ね。これ以上、ベッタリんこ状態が悪化しないといいなと思わずにはいられない。わたし、あんまりベタベタされるの、好きじゃないんですよ。
かかさまだったら、大歓迎なんだけど。
なんだか、大きすぎる弟をあやしている気分になりながら、わたしはため息をこっそり飲み込んだ。




