ハニブーンの巣
湖に背を向け、東に進むこと数日。
お魚獲りへの情熱が落ち着き始めたころに、わたしが欲しくてたまらなかった従魔候補が見つかった――らしい。
「ほら、あの木の枝の根本に巣を作ってるんだけど――フェリシア、見えてる?」
にぃにに言われて見上げたものの、わたしの麺はソレらしいものが見つけられない。
「なんて巧妙な擬態能力……っ!」
「いや、そこそこ巣に出入りしてんのに見えないってことは、お嬢、目が悪いんじゃないか?」
「顔の角度と方向はこちら側に――まっすぐ見上げた先の手前にある枝の太さと比べて、その根本が太すぎる、というのは分かるかの?」
「……?」
言われてみれば、そうかも? と思わないでもないけれど、いまいちピンとこなかった。「ならば――」と前置きしつつ、ピニャーシュさんが図解で説明してくれて、やっと理解する。眼の前にある巨木の枝を違和感なく包み込むようにして上下に広がっているのが、わたしが求めるハニブーンの巣なのだと。
いや……村にもあったんだよ? ハニブーンの巣。
でも、従魔士のおいちゃんが従えていたハニブーンの巣はこんなに大きなものじゃなかったと思う。家の軒下の一角で収まるものだったはずなんだけど……?
「近づくと巣から一斉にハニブーンが飛び出してくるはずじゃが……」
「むぅ……」
口をとがらせ、巨木を見上げる。
さすがにこの位置からだと従魔術の範囲外だし、そもそも群れの規模が大きすぎる。
ハニブーンは群体で従属させるタイプの魔蟲だ。いまの従魔術ランクでは、この群れのほんの数%も従えられればいい方だろう。
きっと、それでもわたしが必要とするよりも規模の大きな群れになる。
「……わたしには分不相応なので、諦めで」
「ならば、早急にこの場は離れることにしよう」
せっかく見つけたのに、諦めるしか無いなんてションボリがすぎる。
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「フェリシアは、どれくらいの規模の巣だったらイケそう?」
「うにゃ??」
「次に巣を見つけたら、群れの規模をイケる範囲まで減らしたらどうかなって」
「なるほど」
にぃにいわく、今日見つけた群れの半分の規模なら、ピニャーシュさんとロイさんと協力して余分なハニブーンを退治できるっぽい。
「全滅させないでも、フェリシアが女王を手に入れたら【お庭】に逃げ込めばいいでしょ」
「そうだけど……」
「なら、野生のハニブーンは諦めて蟲師から買おう。今の時期なら、街で肉や魚が高く売れるんじゃない?」
雪が降る季節になれば、ハニブーンも巣に引きこもって出てこない。その時期だったら安全に必要な分だけ捕まえられるんだけど、寒い中森で行動できるかどうかって聞かれると「ムリ」というしかないと思う。ムリというか、そんな寒い場所に行きたくないというのが正解だけど。
「ミルギューとグレントも買う予定でしょう? そんなに稼げるかなぁ……」
「お魚の在庫を半分売れば……?」
「対外的に見せられる一番大きな入れ物がオトンのリュックしかない時点で、そんなに売りに出したら怪しさ大爆発だよ、にぃに」
「おっきな手押し車を作ったら?」
「多少マシだろうけど……お魚は月に一度売りに出せればいい方なのでは?」
こう、移動時間とかそういう方向でね。すでに湖を離れて一〇日は経っているというのに、未だ人里にたどり着けないのだからお察しだ。
「むしろ、売り出すのが肉ならまだごまかせるかも」
「お肉よりお魚のほうが美味しいじゃない」
「それは……うん、そうだね」
その点に関しては、完全に同意できる。
とはいえ、同じ猫人系のロイさん(獅子人)は肉至上主義者だ。そして兎人のピニャーシュさんに至っては、熱烈な野菜びいき。
コレを踏まえて考えるなら、あんがいお魚は不人気だって可能性もある。
お魚が高値で売れると決めつけるには情報不足だ。ってなことを話したら、「……なんか、フェリシアって意外といろいろ考えてるんだね」と、微妙に失礼なことを言われたのだった。
にぃにって、わたしのこと、お馬鹿な子だと思ってるのかな?
そうだとしたら、結構悲しい。




