魔素結界
自分の役割が明確になると、ずいぶんと気持ちが軽くなるもんだ。
寝込む前よりもゆっくりとした足取りで森を駆けるフォレチェルの背に揺られつつ、フワァとおっきなあくびをひとつ。ピニャーシュさんにおんぶしてもらっている状態だから、適度にあったかくって眠くなる。
「いつも言うておるが、眠っても良いのじゃぞ?」
あくびの音に気づいたピニャーシュさんがそう言ってくれるけど、ここで寝るわけにはいきません。
「まじゅーがれたら……【お庭】……」
に一緒に逃げ込まにゃいと……ムニュムニャ。
半分寝落ちかけてて呂律が怪しい。あわててアタマをプルプル振って眠気を追い払う。
「魔獣がでてきたら、一緒に【お庭】に逃げ込まないとだからねむれまふぇんっ」
「フェリシア嬢が気を張っておるから、魔獣は出て来ぬじゃろうなぁ……」
「うにゃにゃ?」
いやいや、魔獣、出るはずでしょう?
だって、今いるのって端っこの方だ言っても魔獣領域。たくさんたくさんたーーーーーーくさんの魔獣がうろついているはずの場所だもの。……でも実際のところ、村を出てからわたし、従魔にしたランチュウたちしか見てないな。なんでだろう?
「良くわかっていないようじゃが、フェリシア嬢が魔素結界を張っておるからじゃぞ?」
「まそけっかい……って、巫女さまや神官さまが神殿でお祈りして作るアレだよね?」
わたし、そんなものを作ったこと、ありませんよ?
「そう、それじゃ」
「結界の作り方なんて、オカンから教わってないよ?」
ついでに言うなら、かかさまからも聞いてない。
そもそもが魔素結界って、神殿があって初めて機能するものだって教わっているから……移動中は、ムリじゃない?
「グラ坊が同行していても同じじゃが、魔素の濃い魔獣領域にいるにも関わらず神殿内にいるのと変わらぬほどに空気が澄んでおる。神子は、神殿と同様に空気の浄化を行えるのではないかと思っているのじゃが……」
「えええ……?」
聞いたことないよ、そんな話。
「ワシの体感ではそうじゃというだけで、勘違いかもしれんがの」
なーんてお話をしたので、お昼ごはんを奉納しつつかかさまにお伺いを立ててみた。
「ホントのところ、どうなのかなぁ?」
『フェリシアちゃんは毎日、朝と昼には「強い魔獣に遭遇しませんように」夜には「今日も魔獣に遭遇しなくて嬉しかった」……ってお祈りしているからね。当然、フェリシアちゃんを中心にして魔素結界を発生させているよ』
「え、そうなの!?」
『あと、兎人のおじいちゃんの推測通り、神子は神殿がなくても魔素結界を発生させることができるよ』
なんというか……ピニャーシュさん、すごい。わたしなんて、魔獣に遭遇しなくて助かるな―ってくらいのことしか考えてなかったよ。
『ちなみに、魔獣狩りをしたいのならお兄ちゃんみたいに結界のサイズを絞ったほうが良いけれど、移動速度を重視するなら今のままの規模にしておいたほうが安全かな』
「にぃにも自分が魔素結界を張れるって知ってるの?」
「さぁ……? もしかしたら知らないかも。武神が気を回してサイズ調整してるかもしれない」
武神さまも、結構過保護。
でもまあ……神々の寵愛ってそういうものなのかも。
「もし、わたしが狩りをするようになったら、かかさまも武神さまみたいに気を回す?」
『そうだね、やるかも。でも、フェリシアちゃんは自分からすすんで命を摘み取るタイプじゃないかな』
そうかもしれないな。かかさまの評価に、なんとなくホッとする。
他の誰かが狩った獲物の数を競っていたとしても、わたしはきっとソコに混じるのは難しい。狩りをする力量の有無じゃなくて、生きるために必要になる以上の命を狩る意味を見いだせないからだ。
狩りの腕を競うのは、やりたい人だけでやれば良い。
磨いた技を試し、自分の力量を推し量るために競い合うのは別に悪いことじゃないと思うので。にぃにとロイさんがどっちがたくさん狩ったか競争してるのは、ちょっぴり微笑ましいしね。
『フェリシアちゃんが狩りを望まないうちは、無意識のうちに最大範囲で魔素結界を張って歩くことになるんじゃないかな』
「そっか。かかさま、教えてくれてありがとう」
『どういたしまして』
かかさまの気配が薄くなる。
【お庭】はかかさまに拡張していただいたものだから、その気配が完全に消えることはない。どこにいてもかかさまを感じられるこの【お庭】が、わたしはとても好き。
ホントはもっと、かかさまと対話できた幸せに浸っていたいけれど、気合で目を開けにぃにたちのところに戻ることにした。
お昼ごはんを食べながら、さっき聞いたことをご報告せねば!
そしたら、明日から移動中に眠たくなったら心置きなく寝てしまえる。いや、ピニャーシュさんはたぶん怒ったり文句行ったりしないと思うんだけど、ケジメ(?)みたいな。
「あのね、あのね。魔神さまにお伺いしたんだけど――」




