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座布団

 湖の畔で遊んだあと、ピニャーシュさんとロイさんを残して【お庭】にもどると、わたしはさっそく従魔たちのところへ駆け出した。


「あ、にぃに(・・・)! 時間があまったし、今日のお昼ごはんはわたしが作るからねっ」

「りょーかい。楽しみにしてる」


 お昼ごはんはにぃに(・・・)とロイさんと二人して作ってくれることになってたけど、今日は午前も早い時間に移動を終えたからね。腕によりをかけて美味しいのを作っちゃいますっ。


 むふふのふ。

みんなのほっぺを落としてやるんだから♪


「ランチュウ、どこかな~?」


 お昼のメニューを考えつつ探しているのは、お熱を出す直前に手に入れたランチュウたち。

三日前に【お庭】に戻る直前に、にぃに(・・・)といっしょに捕まえたっきりだから、【お庭】の中でどうしているかがメチャクチャ気になってる。


 スキルフィールド内で過ごしている従魔は、基本的にご飯を上げる必要はない。なぜかというと、従魔士の魔力が食事代わりになるからだ。

 わたしの場合、魔力を食事の代わりにすることもできるけど、【お庭】の中に植物が生えていれば草食の子だったら魔力を補給してあげる必要はない。肉食や雑食の子には、別口で生肉とか卵なんかの動物性タンパク質を用意してあげれば、やっぱり魔力をあげる必要がなくなる。


 でも、やっぱりきちんとゴハンを食べたいと思うんだよね。


 野良で駆け回ってた子を捕まえたんだもの。とつぜん「食べなくても死なないから、今日からゴハンなしっ」って、結構ひどいと思う。なので、何かしら食べさせてあげたいんだよね。


「これからの季節でも、茶麦草だったらきっと育つよね」


 まだ草一本生えていない【お庭】を眺めてひとり言。

【お庭】で畑を作ってもいいよってかかさまが言っていたから、普通の植物もきちんと育つはず。魔草とか魔樹は従魔にしないとダメだけど、茶麦草は普通の植物だ。タブン大丈夫。

味はイマイチだけどわたしたちも食べれるし、いざというときのために多めに種を蒔いといても良いかもしれない。なんてことを考えつつ、春に花咲くフルーツトレントの区域を訪れた。


 本来なら植物系の魔獣は、スキルフィールドに送らずにそのまま地植えしてお世話する。

だって、スキル内に入れてしまうと疑似的に時間が止まって成長できなくなるんですよ。

 わたしの場合はスキルフィールド内で生活することもできる状態なので、【お庭】(こっち)でも成長可能だったのでそのまま地植えした。


 なんせ【お庭】に植えると、植えた場所の周囲が一年中開花時期の気温になるそうなのだ。開花→受粉の手順さえふんでしまえば、外の季節は関係なしに収穫できるのがとってもオイシイ。


 春に花咲くチェリントはまだまだ小さな若木だけど、昼間はぬくぬくで居心地がいい。そのせいなのか、わたしが探していたランチュウは、チェリントの根元付近で思い思いに眠りこけていた。


「いや……ヘソ天て……。野生、どこいっちゃったの?」


 手足を広げて弛緩しきったその姿は、まるで座布団!

体長五〇センチのランチュウが四匹、お腹を上にした状態でグデーンと弛緩しきった状態で転がっている。どうやらこの子たちは、ほんの数日前まで野良だったことなんてものの見事に忘れてしまったらしい。


「まぁ、天敵もいないしねー」


 スピスピと寝息を立てる黄色い座布団の横にしゃがみ込み、お腹を撫でつつ魔力を注ぐ。生命活動を維持するための魔力は勝手に持っていかれるけれど、卵の量や質・従魔としての成長を促すためには別口で魔力を与えないといけない。四頭のランチュウ全員のお腹をまさぐりながら魔力を供給し終えたけれど、結局、一頭も目を覚まさなかった。


「ゴハンは……夕方でいいかな?」


 アゴの下を撫でてやると、お口がモゴモゴ小さく動く。

ちょっとおもしろくなってきて、お鼻をツンツンしてみたら、ベロが出てきて鼻先と一緒に指をペロリと舐められた。


「うひひゃっ」


 ちょっと、こしょばいよ。


  

☆★☆★☆★☆★



 なんとなく、在庫のお肉ががたっぷりあるランチュウ料理を作る気にならなくて、今日のお昼はチンギアーレの生姜焼きに決定!

きっとアレだ。ランチュウたちを可愛がり倒した直後だから、なんとなく気詰まりな気分なんだと思います。

ソレと比べるとチンギアーレには可愛らしさはカケラもないし、従魔に同族も居ないからね。気にせず食べれるよ。


「お醤油とお味噌も持ち出しときゃ良かったなぁ……」


 村の備蓄庫(火を放ってない)には、一年分の穀物と冬越用に貯め始めてた肉類や調味料があったんだけど、爆睡していたせいで回収できなかったんだよね。にぃに(・・・)たちが誰かから逃げてるっぽかったし、【鍛冶場】の存在も知らなかったから、取りに戻りたいとは言えなかった。


 まぁ、村なり町なりに立ち寄れれば簡単に手に入るんだろうけど。


 醤油も味噌も、たいがい自分の家か集落単位で作ってるものだ。

わたしも、作り方自体は知っている。材料さえあれば作るんだけど、出来上がりにはそこそこ時間がかかるんだよね。魔法を使っても、醤油は一~二ヶ月。お味噌は早いので一週間、かな。

 うん。自作する前に買うなり物々交換するなりして、多少の在庫は手に入れたい。自作は……そもそも、材料を手に入れてからの話だもんね……。……【お庭】に植えるか。


――さて、午後は何をしようかな?


優先順位を考えよう

 午後になり、狩りに出かけるにぃに(・・・)とロイさんを見送ると、わたしはさっそく溜まりに溜まった野草の処理に取り掛かる。鮮度自体はマナラップのおかげで保たれているけれど、きっちりアク抜きをしないと食べれないものばかりが残ってしまう。こういうのは、時間に余裕があるときにまとめて処理するものなのだ。


「ピニャーシュさんはどうするの?」

「ワシは……久しぶりに一人稽古でもするかの」

「うにゃ。そしたら、温泉の方に冷たいお茶を用意しとくね」

「おお、ありがたい」


 わたしの【お庭】にある冬エリア(仮称)には、なんと温泉がある。

ロイさんが五~六人はごろ寝できるくらい広い温泉はピニャーシュさんのお気に入りで、朝稽古のあとやお夕飯前に通っているほど。冬の気候に合うフルーツトレントは従魔にしていないけれど、ランチュウたちもしょっちゅう温泉を堪能しているというのはピニャーシュさん情報だ。もちろん温泉は、わたしもお気に入り☆彡


 体を動かしたあとは水分を取ったほうがいいから、早めに用意しようと暖炉にも火を入れる。季節的に、昼間から部屋を暖める必要はないんだけど、カマドはすでに全部使ってる。お茶を淹れる用のお湯を沸かすには、暖炉しか空いてる場所はない。


「なんか、思ってた以上に忙しい……?」


 お茶を淹れるために、吊るしてあったハーブを手に取り、ふと気づく。

思いつく順にあれこれ手を出してたら、いつまでたっても仕事が減らないのでは?


「溜まってるお仕事、書き出したほうがよさげだね」


 何日間かは午後がフリータイムだといっても、思いつくままに作業をしていると、きっとまた体力切れでバタンキュってなってしまう。そうならないように、きちんと予定をたてよう。


 とりあえず今日は、オオアマウコギのアク抜き第一弾を終わらせるのは決定事項。

茹でこぼしてから流水にさらす作業が三回は必要な野草だから、コレだけでもまともにやると結構な重労働だ。

 幸いなことに、魔神さまからいただいた木のおうちには貯水タンクがあるからね。ここに魔法で水をためておけば、放水ノズルをひねるだけでお水がジャージャー流れてくれる。いちいち井戸から汲まずに済むので、とっても楽チン♪ 排水機能付きの大きな桶があるから、お水は流しっぱなしでも良いんだよ。コレもすごく便利だ。


 一回目の茹でこぼし→流水にさらす作業に入ると、次に湯がく用のお湯を沸かしつつ溜まっている作業を書き出し始める。


 ・野草の下処理

 ・木の実の分別・天日干し・搾油作業など 

 ・肉類を種類や部位ごとに分け、保管する  

 ・フルーツトレントの肥料づくり

 ・【お庭】に穀草の種を蒔く(種を入手する必要あり)

 ・スープベースの作り置き


 【お庭】でできる作業はこんなもんかな?

お部屋の掃除は何故か汚れないから必要ないし、お洗濯もクローゼットとやらに服をしまうだけで次の日にはきれいになっているので考えなくてもいい。この二つの家事がないの、メチャクチャ助かるよ。


 書き出してみると大した量の用事がないように見えるものの、野草の種類がやたらと多い。そんでもって、きっと毎日チマチマ増えてくことまで予想できる。ということは――


「野草の下処理は、種類ごとに大ナベ一個分溜まってからやることにしよう」


 現時点ですでにどれも大ナベ一個分はあるという事実には目をつぶって、次の項目へ。


「木の実――果物系はそのままマナラップを更新しつつ保存でいいけど、どんぐりとかストンプナッツは処理が必要だね。殻を割るのはわたしだと厳しいから、にぃに(・・・)たちにお願いするとして、その前の分別と天日干しはわたしがやらないと」


 天日干しするとなると、ザルが必要だ。

ザルを編む用のツタとかも集めないとダメだね。分別自体は野草の茹でこぼし作業中にできる分だけやっていけばいい。


「肉類の仕分けとかはわたしじゃなくてもできるね。にぃに(・・・)たちにお願いしよう」


 三番目の項目はバッテンでけしておく。


「肥料づくりは……ロイさんあたりに協力をお願いしてみる方向で」


 生ゴミじゃ足りないだろうし、枯れ草集めとか、毎日の撹拌作業とかが必要になるので力持ちそうなひとにお願いしたい。コレは、今日からやるのはムリだね。明日以降ってことで次。


「穀草の種を手に入れないとだ」


 ピニャーシュさんとの移動中の休憩時にでも種を探して、それからの話になるから後回しっと……


「骨スープは、にぃに(・・・)と骨肉の闘いが必要だね。骨だけに」


 どういうわけか、にぃに(・・・)は鍛冶仕事に骨を使うらしい。

そのせいで、良い出汁が出そうな部分を解体のたびに持ってかれちゃってるんだよね。お料理に使う分も残してほしい。


「なにはともあれ、優先順位はコレでいいかな」


 1 野草の下処理と木の実の分別・天日干し

 2 【お庭】に穀草の種を蒔く(種を入手する必要あり)

 3 スープベースの作り置き

 4 フルーツトレントの肥料づくり

 5 木の実の搾油作業など


 今日の作業は、1だけで良しっ!

さて、続きに取り掛かろうっ!

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