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楽しければソレでヨシ!

 病み上がりということで、今日は移動にそれほど長い時間を使わなかった。

たぶん、お昼ごはんを作るのに必要とする程度の時間だったと思う。


 わたしのせいで足止めを食らってしまった二日間のロスを考えると、もっと午前中ギリギリまで移動に費やすかと思ってたんだけど……

国境からまっすぐに離れる南方へ向かってみたら、ちょうど大きな湖にぶち当たったので「今日はここまで」ってことになったのだ。明日からは湖沿いに西に向かうっぽい。


にぃに(・・・)にぃに(・・・)! お外、おっきい水たまり!!」


 【鍛冶場】のお社で神楽の練習をしているにぃに(・・・)のもとにすっ飛んでいって、ご報告。神楽を舞う人の姿があるのに音楽が聞こえるのはおかしいだなんて、初めて湖を目にして興奮しきってきたわたしは気づかなかったのだ。「え!?」って驚いた顔してわたしを見たにぃに(・・・)が、お琴を奏でていた武神さまの方に視線を向けなかったら、きっとそのままにぃに(・・・)に飛びついてたと思う。


 にぃに(・・・)もギョギョギョ。

 わたしもギョギョギョ。

 そして、武神さまは微笑ましげに目を細めてこちらを見てる。

 なかなかのカオスな状況である。


 なるほど。

今朝、神楽のご指導を魔神さまに願い出ると良いと言ってたのはこういうことか。アレは、自分が武神さまに神楽のご指導を賜っているからでてきた言葉だったんだね。


 わたしは現実逃避ついでにそんな事を考えて、ハッと気づいて頭を下げる。


「武神さま、しつれいしましたっ」

「いいよ、気にしないで。

 それよりも、グラジオラス。妹ちゃんといっしょに湖を見ておいで」

「でも……」

「続きはまた明日でいいでしょう?」

「えっと……じゃあ、はい。行ってきます」


 わたしを見て、武神さまを見て、わたしを見て――というのを何度か繰り返して、やっとにぃに(・・・)は気まずげなようすながらもお稽古を翌日に回すことにした。


 え、いいのかな?

にぃに(・・・)が武神さまにお願いして、神楽の指導をしてもらってたんだよね?

明日に回して、ホントに良いの??


 差し出された手に戸惑いつつ、武神さまの方に顔を向けると、すでにソコはもぬけの殻で。武神さまは忽然と姿を消してしまっていた。


「あの、その、あのね……? お稽古中に邪魔しちゃって、ゴメンナサイ……」

「うん。武神さまはああ言ってくれたけど、次はしないようにね」

「うにゃ……」


 神々と神子の交流を邪魔するなんて、絶対やっちゃいけないことだもの。ちゃんと肝に銘じます。



☆★☆★☆★☆★



 森の中を渡る風が、ザザザと音を立てて通り過ぎていく。

同じ風に乱された水面がキラキラとおひさまの光りを反射して、木肌のような模様になった。


「ぅ……わぁ……」


 思わず、と言った様子でにぃに(・・・)は声を漏らし、遠くの方まで続く水平線の先を見通そうとしているみたいに目を細めてる。


 こんなにでっかい水たまり、やっぱり見たことないよね!


 ピニャーシュさんもビックリしてたくらいだ。当然、にぃに(・・・)も見たことないだろうと、大急ぎで呼びに行った甲斐がある。


 え?

水たまりじゃなくて湖だろうって?

どっちも水が溜まって出来てるんだから、わたし的には一緒だよ?

ちょっと、規模感が違うだけ。

んでもって、しょっぱくなければ海じゃないと思ってる。でもまあ、一応、他の人の認識に合わせた呼び方はするけどね。


 しばらくの間――とりあえず、わたしが地面に落書きを始める程度には長かった――目を湖に釘付けにされていたにぃに(・・・)が再起動した。ひどくゆっくりと右へ左へと視線を巡らせ、それからわたしに視線を向ける。


「すご……なんなの、コレ!?」

「すごごごごいでしょー」

「うん。すごごごごごごごごいっ! おっきい湖だねぇっ!!」

「おっきいよねぇ!!」


 両手をぎゅっと握って目をキラキラさて、にぃに(・・・)はすっかり興奮状態。ちょっぴり頭の悪そうな言葉回しは、きっと「すごい!」って気持ちが溢れてるせいなんだろう。

わたしはとても寛大な気持ちで同レベルの言葉を返す。


 あれ? なんかやたらと楽しくなってきたね?


 アホっぽい言葉の応酬は、どうやら興奮状態を伝染させる効果があったらしい。

すっかり楽しくなったわたしは、テテテと大して広くもない野原の端へとケラケラ笑いながら駆け出した。


「にーに! ここまで来ても、はしっこみえないよー!!」

「ほんとだ」


 野原の外れにニョキッと生えてる木にもたれかかって、右左。

最初の場所と変わらぬ景色がちょっぴり不満で口を尖らす。

すこしくらい、景色が変わってもいいと思います。


「じゃあ、あっちは?」

「見てくる~!!」

「あっ、足元気を付けて!」


 反対の端に向かって駆け出すと、にぃに(・・・)があとを追いかけてくる。


 なんか、おいかけっこみたい!


 さっきの不満はあっというまに記憶の彼方。

つまづきかけた勢いを利用したキャット前方一回転をキメて再度走り出す。


 大人の人?

なんか、笑ってみているね。

なにはともあれ、楽しければソレでヨシ! ですよ!!

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