そして、わたしは旅に出る
亡くなった巫女様――オカンが張っていた結界が効力を失う前に村から逃げ出す。
そう決めたら、わたしの行動は早かった。
まずは村中の家を巡って、自分が使えそうな道具類を探して回る。どの家でも、みんな口をそろえて自分が助からなかったら家の中の者は自由にしていいって言ってたからね。
泥棒じゃない。泥棒じゃないよ。
大事なことだから、二回心の中で唱えとく。
みんなの許可はもらってるんだから、悪いことじゃないのだ。大丈夫。
ちなみに、もらっていく道具類を詰め込んでいるのは、オトンが狩りの獲物を運ぶために使っていた背負い袋。この袋は【重量軽減】の効果がついたマジックバッグなので、これさえあれば本来持てる以上に荷物が運べる。
ただ、この袋。
体の大きなオトン仕様だから大きすぎるのが難点なんだよね。逆に言えば容量が多いってことなんだけど。
この際、物理的にかさばるのは我慢して、入るだけ荷物を詰め込んじゃおう。そうしよう。
多分、きっと。多い分には困らないはずだよね。
お鍋やナイフなんかの金物は、買うとわりといい値段がするからコレは、全部持っていく。
行商のおじさんがつけてたお値段、ちゃんと見てたからね。村から出たことのないわたしでもお高いことは知っているのだ。ちなみに毎回ナイフが持ち込まれてきていたのは、十歳になると執り行う【加護の儀】の日にナイフを贈るのが伝統だから。
大きな街だと、【加護の儀】を受けてからやっと見習い仕事を始められるようになる。
だから、大人の仲間入りを祝って生活必需品でもあるナイフを贈るのだ。
……え?
ウチみたいな小さな村の場合、草むしりができるようになったら畑仕事の手伝いからお仕事生活のはじまりはじまりだよ。子供の手だって、無駄にはしません!
そんなわけで、ナイフは村人とほぼ同じ本数が集まった。
ただ……一本一本の重さは大したことがないのに、何十本も集めてみるととても重くって。ズシリとした重みを感じるのと同時に、死んでしまったみんなの顔を思い出して涙が出た。
「――オカンとオトンのナイフは自分で使おうかな」
グスグスとしばらく泣いて少し気持ちが落ち着くと、袖で涙を拭って、独りごちた。
オトンのナイフは大きすぎるくらいだけど、オカンの方はちょっと大きめ程度だから十分使えそう。
「いいよね、もらっても。……そう、【加護の儀】のお祝いの代わりってことで」
口に出してみたら、結構いい案のように思えた。
なんだか、オトンとオカンが一緒にいてくれるみたいでいいよね。
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とりあえず集めるだけ集めた物資なんだけど、さすがに全部は持ってけない。全てを並べてから状態が良さそうなものを選んで、オトンのマジックバッグに詰めていく。
回収してきた金物は、毛皮に包んで荷物の一番下の外側にまとめて入れる。背中が当たる場所には、お塩がたくさん詰まった皮袋。
コレは小さな袋に分けて入れた。使うたびに大きな袋を出したり入れたりするのは面倒くさいからね。もともとは素焼きのツボに入ってたんだけど、ツボが割れると危険で危ない。その点、革袋なら安心だよね。
「――マナラップができたら、もっと荷物をコンパクトにまとめられるのになぁ……」
マナラップと言うのは、魔力の膜で対象物を包み込んで生鮮食品を保存するために必要な技術のこと。
【加護の儀】を終えて魔法を使えるようになったら、まず最初にこのマナラップの練習をする。日々の生活でこまめに使う技術だからね。結構重要なのだ。
「次の春だったら、わたしもマナラップのやり方、教われてたのに」
わたしも、あと半年――春になれば【加護の儀】を受けられるはずだった。【加護の儀】さえ受けてれば、マナラップくらいできるようになってたかもしれない。もしかしたら、【製剤】スキルを授かってて、今回の熱病でオトンやオカンを助けられたかも。
……なんてね。
たらればなんて言っても仕方ないんだけど、そうだったら良かったのにと思わずにいられなくってやるせなさにため息を吐く。
ちなみに【加護の儀】は、神々から魔法とスキルを授かるための儀式。コレを終えてやっと親の付属物から準成人として扱われるようになる。十五歳になったら成人で、結婚もできるようになるんだよ。
「とりあえず、目的地はおっきな街にあるはずの孤児院、だよね」
考えても仕方がないことから思考をそらすために、直近の目的を声に出したら、またため息が出た。
「せめて村の大人が、誰か一人でも生きていてくれたらな――」
……そうしたら、その人が親代わりになってくれたんだろうけど。
またしても、すでにどうにもできないことが頭をよぎり、頭を振って思考を散らす。
ウチの村みたいな小さな村では、子供はみんな『村の子』だ。基本的に子供のことは村の大人が総出で行う。子供はみんな、どこのおうちで寝起きしても良かったから、ついつい甘えが顔を出す。
もう、そうやって甘えられる相手なんかいないんだからしっかりしなくっちゃ……がんばろう。




