にぃにの気持ち
やっぱりというかなんというか。
ちゃんと進行方向をむいているってのは、結構重要なことだったっぽい。とりあえず、わたし的には?
ピニャーシュさんの背中におぶさった状態でフォレチェルに騎乗したことにより、なんとかかんとか騎乗酔いがマシになったのだ。
とりあえず、お腹にしがみついていたときの五倍の時間はもつようになったよ!
まあ、耐えられる時間が長くなっただけなんだけど、あとは慣れじゃないかというのがピニャーシュさんの見立てです。こう……体重移動のタイミングとかをね、覚えたら気持ち悪くならなくなるんじゃないかなーっておはなし。
正直、そんなものを覚えるほどの期間、乗りたくないけどね……
なにはともあれ、本日の行程はつつがなく終了し、今はにぃにと食料調達中。
今は、にぃにと、食料調達中!
はい。
大事なことなので二回となえてみたよ。
「フェリシア、アルキノコの串打ち終わったよ」
「うにゃうにゃ。そしたら、囲炉裏の上に吊るしといてー」
「はいはい。吊るしきれない分は土間に積んどくね」
「よろくしー」
最初のうちはちょっぴり気まずい雰囲気だったんだけど、暖気を求めて大移動中のアルキノコを発見してから空気が一変した。アルキノコはどんな料理も美味しくしてくれるからね。わたし、大興奮ですよ。
このあたりはホントに人が踏み入らない場所みたいで、ありがたいことに美味しい野草がたくさん群生している。当然のように、肉食や草食の魔獣も。
今日の移動もそろそろ終えようかというころになって、おっきなチンギアーレをピニャーシュさんが仕留めた。いままでだったらその日食べる分だけ切り取ってのこりはポイだったそうだけど、今はきちんと調理できるわたしがいるからね。【お庭】でピニャーシュさんとロイさんが解体している間に、わたしとにぃにのふたりで食べれる野草を探している。
「次は何を――っと、フェリシア? 今度は穴掘り?」
「うにゃ。コレは、根っこに火を通すと甘くて美味しくなるやつ」
「なるほど」
【鍛冶場】から戻ったにぃにの質問に答えつつ、落ちてた枝を使ってせっせと地面をほじくり返す。わたしの力が弱いせいもあるんだけど、やっぱり専用の道具じゃないと大変だ。
っていうか、にぃにが手伝ってくれてもいいのでは?
チラッと視線を向けると、不思議そうにこちらを見下ろす鈍色の瞳と目が合った。
「……地魔法で地面を柔らかくしたほうが早いんじゃない?」
「っ!?」
衝撃のセリフに、手から枝がポロリと落ちる。
「魔法使えるようになったの、昨日だもんね」
「うにゃ……」
というか、魔法はまだ使ったことがありません。
マナラップができるようになったのが嬉しくて、アレにもコレにも包みまくったせいで魔力が尽きたので。従魔のフルーツトレントたちにも魔力をあげているからなおさらです。
「まともに練習してない状態で使うのも怖いし、続きは僕が掘るよ」
「うにゃ。ありがと、にぃに」
場所を譲って野草むしりを再開しつつ、にぃにの顔をチラチラ伺う。
何、話そ。
改めておしゃべりをしようと思うと、とたんに言葉が出なくなる。
すごく不思議だ。
ピニャーシュさんとおしゃべりするのに緊張なんてしなかったし、それはロイさん相手でも同じだったのに。
「あのね、フェリシア」
「うにゃっ!?」
「フェリシアがピニャーシュといっしょにどこかの村や街に入るのを反対してるのはさ、フェリシアに意地悪したいとか、僕には閉じこもってろっていうのにズルいだとか、そういうんじゃないんだ」
なんか、急にぶっこんできた!
「ピニャーシュにしろ、ロイにしろ、僕の従者としてずっとそばに居たからさ。神殿関係者はわりとふたりのことをしてるし、そういう目で見たらフェリシアが僕の血縁者だってのはすぐに分かるでしょ」
「おうおうおうおう……なるほど」
にぃにのかわりにわたしが捕まることを心配してたってことか。
「でも、ちょっとはわたしだけ街に入るのズルいって気持ちもあったのでは?」
「それは……どっちかっていうと、引率して入るピニャーシュが、かな」
「ピニャーシュさん?」
「だって、フェリシアが目をキラキラさせてキョロキョロしたり、大口開けて言葉にならない声上げたりするの見られるの、ちょっとズルい」
それって、にぃにが王都に行ったときにやったことだね?
ツッコミが口から飛び出しそうになるのをすんでのところでこらえ、自分に置き換えて考える。
クマ姉の赤ちゃんが大きくなっててって考えると……分からないでもないね。
ソレって、絶対かわいい。そんでもって、その姿を堪能できるのが大人ひとりだけだなんてズルすぎる。
「すごく納得」
「だよねっ! なのに、理由を聞いてロイってば爆笑するんだよっ!!」
「それで、あのボコられ具合かぁ~……」
青タンだらけの顔を思い出し、仕方ないなと苦笑が漏れた。
自分でもワガママだと思っててはいたんだろうに、恥を忍んで理由を話してみたら爆笑されたって……うん。わたしも手が出ちゃうかも。
にぃにとわたしじゃ、振り上げた拳の威力が違いすぎるだろうけど。
「正直、やりすぎたけど……」
「いやいや、その理由なら仕方ない。自業自得で良いと思う」
「それはちょっと……やりすぎはよくないよ」
武神さまの神子だと聞いて、にぃにはオラオラ系なタイプかと思ってたんだけど、案外そうでもないっぽい。というか、武神さま自身、イメージと違って物静かなタイプだったっけ。
想像と現実は違うってことだと思っておこう。
ポツリポツリとおしゃべりをしながら食材集めをしているうちに、にぃにとはだいぶ打ち解けられた。会話の中で、わたしが成人する一五歳~結婚するくらいまでは面倒を見てくれるつもりだという言質も取れたしね。
一番の心配事が解決してホッとしたものの、今からわたしが自立するときのことを想像して涙目になるにぃにには笑ってしまう。
いや、だってね?
わたし、まだ九歳と半年なんだよ?
成人するまでに、まだ五年半も時間があるじゃない。
「結婚相手がその間に見つかるとは思えないし、気が早すぎ!」
「そんなことないよ。フェリシア、結構かわいい方だし」
「身内びいきが早すぎる」
にぃにといっしょに、ワイワイ言いながら【お庭】にもどる準備を始めた。
「ねぇ、にぃに」
「うん?」
「わたしが成人するまで旅を続けたとしたらさ、どこまで行けるかな」
「えー、結構遠くまで行けるんじゃない?」
ザクザクと地面を掘り進めながら、ちょっぴり悩んでにぃにが答える。
「武神大陸とか魔神大陸は?」
今いるのは理神大陸なので、どちらも海とやらを渡らないと行けない遠い場所だ。
どれくらい遠いのかは知らないし、海を渡る方法も分からない。
分からないことだらけだけど、行けるものなら行ってみたいなと思う場所。
「行けると思う」
「魔神大陸、行ってみたいなぁ」
「今から向かうとメチャクチャ寒そう」
かかさまいわく、ずっとずうっと北の方にあるそうだから確かに今から向かうと寒いかも。
東西に向かっても気温は変わらないけど、北は寒くて南が温かいというのは常識だ。
寒い場所にはあんまり行きたくないし、後回しでもいいかも。
「じゃあ、ピニャーシュさんを故郷に送り届けたら行きたいところ、ご相談は?」
「良いね。じゃあ、ソレで」
「最期でいいから、魔神大陸にもちゃーんと連れてってね」
「……うん。喜んで」
「絶対だよ」と念を押したら、にぃにのほっぺがフニャッと緩む。
わたしのほっぺもつられて緩む。
「知らないは、怖いけど楽しみだねぇ」
「たしかにそうかも」
わたしの言葉に、にぃには小さく微笑んだ。




