本日開店!
看板を持って外に出ると、まだ薄暗い時間なのに、すでに通りを歩く人の姿がチラホラ見える。
「フェリシアさま、窓開けました」
ダニーロの声と同時に、周囲が少し明るくなった。
「もう、おナベも出しちゃいますか?」
「うにゃ。軽食の見本も出しちゃって」
「はいっ」
テイクアウト部屋で荷物を広げ始める音を聞きながら、傍らに立つリリーさんを見上げる。
「看板、全然見えないね」
「ですね~。やっぱり、明かりは着けた方が良さそうです」
窓を開けたことによって正面方向には光の筋が伸びているけれど、横はぜんぜん明るくない。
どちらかというと、すぐそばに明かりがあるせいでより暗く見えている。昼の明るい時間帯はいいけれど、明け方や夕方はこれではちょっと困りものです。
今日のところは念のため、四時間ほど保つ程度に魔力を込めてほんのりと看板を発光させてみることにした。
「ん~……もうちょい明るめにした方が良いのでは?」
「うにゃ」
リリーさんの指摘に従い、二回ほど魔法を重ねて調整を終了。
「明日からは、この光量を目安にすればいいね」
「ですね。明日からは、グラジオラスさまにお願いしましょう」
「ええ~! リリーさんがいれば大丈夫でしょう?」
「今日は許容しましたが、そもそも視界が確保できないような時間帯に女二人で外に出るのは不用心が過ぎるんです。明日からはグラジオラスさまにお願いしましょう」
リリーさん自身にも危険だと遠回しに指摘され、泣く泣く諦める。
なんというかね、暗い夜道に出る背徳感的なものがすごくこう、イケないことをしている感じで、ドキドキして楽しかったんですよ。でもまあ、人様に迷惑をかけてまですることではないよね。仕方がない。
夜道なら【お庭】の中でも歩けるけれど、アレはダメです。
ドキドキしない。
完全に安全が確保されてるから楽しくないんだろうなぁ、きっと。
『好奇心はにゃん殺し』。
知ってはいるのに、どうしてもやりたくなってしまうのはなんでだろうね?
困ったものです。
扉を開けたまま中に入り、テイクアウト部屋へと移動する。
部屋の中は、温まり始めたミルクの甘い匂いが充満し始めていて、なんだかとても幸せな気持ちになった。
「では、フェリシアさま。ウチはこっちにいます」
「うにゃ。境のドアと窓は開けっ放しにしておくね」
「よろしくお願いします」
テイクアウト部屋はそこそこ広い。
体の大きい大人ふたりが入っても余裕があるほどです。でも、さすがに体が小さめの子どもでも三人も入っていると、大人が入るのはちょっとキツイんだよね。
仕方がないので、護衛のリリーさんは大部屋で売り子をしながら待機してもらうことになっている。
交代要員はピニャーシュさんとロイさんです。
ちなみに大部屋では、武具や呪符のほかに保存のきく食料も販売する。
ポモフェスの水煮や、ジャーキー類もたくさんあるからね。うっかり、全力で作ってしまったせいでガルゥジャーキーしか出せないんだけど。
なんというか、アレです。
今回のお店の場所的に、あまりお値段の張るものは置いても売れないねってことになったんですよ。仕方ない。
仕方がないので、これからDランク品のハムやジャーキーを量産するよ。
お店の中がスッカスカでさみしすぎるので!
お肉なんて、ほんとは生のまま売れたらいいんだけど、取り扱うためには精肉組合に入らないとダメなんだよね。なので、調理or加工したものしか取り扱えないんですよ。
ちょっと、メンドクサイ。
コレはパンも同じで、パンを取り扱う場合はパン組合に入る必要がある。
かなりメンドクサイ。
「さて、今日は初日だからね。ホットミルクとポタージュスープは無料で振る舞うよ」
気合を入れるつもりで声を張ると、パオロとダニーロが「「はい、フェリシアさま!」」と声を揃える。
ふたりとも、すでにいい感じで気合が入りまくっているね。
「そういえば、同じ人がもらいに来たらどうしますか?」
「気にせず振る舞う」
場合によっては、相手の顔を見てる暇もないかもしれないからね。
「さすが」
「うん。さすがだね」
ニコニコ笑顔でささやき合ってますが、なにか勘違いをしているね?
お替りオッケーの理由は、『気前がいいより』も『いい加減』と言った方が正解ですよ。
「ただ、明日からは有料だよって、ちゃんと伝えてね」
「「はいっ」」
うん、いい返事。
きっと今日は大忙しなので、張り切っていくよ~!!




