開店準備
翌日は朝も早いうちに、にぃには国神さまの訓練場に出かけて行った。
テコ入れをしようにも、どんな場所か分からなければやりようがないからね。しっかりと情報を集めてもらう予定です。
にぃにたちが出かけている間に、わたしたちはお店の準備に集中です。
国神さまのお手伝いに時間をとることになったから、できるだけ私がいない状態でお店を回せるようにしなきゃいけないからね。しっかりやりますよ。
まずは、パオロ君との打ち合わせだね。
「パオロのスキルは乳製品縛りだから、扱うのはミルギューミルクかメリノミルクだね」
「メリノミルクは採れる量が少ないから、ミルギューだけの方がいいかも」
「メリノチーズは格別だもんね……」
身内だけで消費したい味、分かります。
実際には、一日に採れる量は少ないものの、売りに出しても問題ない程度には入手できるんだけど――まあ、常に余剰があるミルギューミルクの方が管理も楽なのでそっちを使う方向で。
品切れの恐れがないのは、ほんと気楽だからね。
将来、独立したくなった時のためにも自分で考えることを覚えてもらいたいので、『こうしたい』は否定しませんよ。
というか、わたしも何が正解かよく分からないので、失敗してもいい材料(自家製)のみで挑戦してもらうスタンスです。
「提供できるのは、ホットミルク系とミルク系のスープになるけど、どうする?」
乳製品加工で作れるのは、チーズ・ヨーグルト・バター・ホワイトソース・生クリームだけじゃない。
いちおう料理スキルの括りなので、乳成分多めならスープや甘味系も作ることができるんですよ。
料理系だと、ミルクスープ系――ポタージュや乳がゆ(スープ?)。
デザート系は、乳製品を固めて作る系のケーキと、アイスクリームやプリンなどと、案外幅が広い。
ただし、作ることができるのは、『メイン素材がミルク系』であること。
調味料以外に加えられる素材は、全体の三割までかつ二種類以上使用する場合はスキルの範囲から外れてしまう。
「デザート系は冷たいものが多くなりがちなので、時期的に売りづらそう」
「だねぇ」
「無難に、ホットミルクとポタージュ系のスープがいいんじゃないかな」
「じゃあ、それでいこっか」
ちなみに、最後の味の調整はわたしの担当です。
パオロだけだと、まだまだ商品として売れる味に仕上がらないので。きっと、春になるころにはひとりで作れるようになっているはず。なので、それまではお手伝い予定ですよ。
「せっかくだし、ミルク系じゃないスープも作ろうかなぁ」
「いいと思いますっ」
「余ったら自分たちのご飯になるんだもんね。ボクたちが食べきれなくてもロイ兄がきっと、全部食べちゃうよ」
パオロとダニーロの言い分に、思わず笑ってしまった。
ロイさんなら、確かにありえるね。
「じゃあ、ポタージュはパオロが作って。もう一種類は、その日の気分の日替わりスープってことでわたしが作るよ」
それに余った分は、国神さまに奉納するなり自分たちで食べるなり。いくらでも消費できるからね。
「そしたらさ、おにぎりとかパンもお昼ご飯のついでに作れるんじゃない?」
さらにダニーロがそう言って、期待に満ちた目をこちらに向けてきたものだから、最終的に軽食も出すことになった。
アサイチで出すのは、そう。
外で食べる人たちのお弁当のついでってことで!
☆★☆★☆★グラジオラスside☆★☆★☆★
フェリシアに見送られ、渋々ながらも国神さまの依頼をこなすために訓練場の現状確認にやってきた。
国神さまの守護を失う可能性があるということは、リニャーリ王国存続の危機だからね。仕方がないのは分かっているんだよ。
ただ、今日と明日はのんびりと羽を伸ばす予定だったんだよ、僕の中では。
フェリシアがお店の準備をするために、アレコレと考えているのを眺めながらさ。お店的なものをやるのが楽しいのか、いつも生き生きと工夫を凝らす姿は見ていて飽きないし、なによりすごく可愛い。
いつも可愛いフェリシアが、さらに数倍可愛く見えるからね。
本当なら、見逃したくなんてなかったんだよ。
「グラ兄、訓練場ってどんなとこかな」
「さあ……? ただ、利用者が激減してるっぽいから、あんまり期待しないほうが良さそう」
「マジっすか」
ほんと、楽しみにしてたんだけどなぁ……
心の中でぼやきつつ、同行させたマルコとカルロと言葉を交わす。
「ピニャーシュに心当たりがありそうなんだけど……」
「行けば分かるって言ってたっすね」
そう、「行けば分かる」なんだよね。
絶対、原因に心当たりがあるはず。ソレを口にしないのは、実際に体験して答えを出せってことなんだろうけれど……
「答えを知ってるなら、教えてくれてもいいと思うんだけどなぁ」
「ホンソレっすね」
「たしかに」
なんか聞いてるんじゃないかと思ってロイに視線を向けたけれど、不思議そうな視線が返ってきただけだった。
残念。
この反応だと、ロイも聞いてないね。
ピニャーシュは、僕にも言いたくないことはロイにもしゃべらないから仕方がない。
あまり期待もしていなかったから、いいんだけど――ピニャーシュが昔、やらかした可能性が高くなった気がする。
「とりあえず挑戦してみて、不満点の突き合わせをするしかないかな」
国神さまからのお願い事って、どれをとっても厄介ごとだ。
今回のコレだって、結構な無茶ぶりのはず。たぶんだけど、まだなんとかできる範囲内の。
「あ~……めんどくさい」
思わず口からこぼれ出たグチに、カルロが笑う。
「それ、フェリシアさまが聞いたら怒るヤツ」
「う。ナイショにしといて」
告げ口されたら、軽蔑される。
「オイラはいいっすけど、マルコはどうっすかね~?」
「しないよ、告げ口なんて」
口を尖らせたマルコは、「するのは報告」と付け加えた。
「じゃあ、三人でがんばってお仕事しなきゃだねぇ」
「です」
もともと、やらないなんて言う選択肢があるわけじゃないしね。
「オイラもがんばるっすよ」
カルロが言うと、マルコもコクリと大きくうなずいた。




