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工房入りの現実

 ソルベル王国のデンティゴルを出てから四十四日目のお昼過ぎに、わたしたちはリニャーリ王国の王都にたどり着いた。祠巡りをしつつ、五日進んで一日お休みという日程だったわりには早く着いたんじゃないかな。

人通りの多い主街道を、馬車を使わずに進んだのも、早かった理由かもしれない。



☆★☆★☆★☆★☆★☆



 道中はずっと、ダニーロ君とパオロ君のスキル上げのお手伝いをしていた。


 パオロ君は魔石作成と乳製品加工スキルを習得していたんだけど――魔石作成は、スキル上げを始めた当日にランクがEからBまで三段階も上昇して、もうビックリ!

高濃度の魔素水が用意できれば、割と楽にあげられるスキルなのだと納得しつつも、自分の時を思い出して、ちょっと遠い目になってしまった。


 いや、うん。

分かってるんだよ?

大変だったのは、【加護の儀】で授かったスキルじゃなかったからだってことはさ。

でも、それはそれとして、最初から高ランクで授かったスキルもカンストしていない身としては、ちょっと複雑なきもちです。

 乳製品加工の方は、ちょっとランク上げに苦戦気味なので、少しホッとしてしまっていたりする。

そっちがやっぱり普通だよな、と思ってしまって……ね、つい。


 マルコ君たちが解体スキル上げに苦労していることを考えると――って、よく考えてみたら、マルコ君たちがスキルを得たのも割と最近のことだったね。爆速過ぎると思っていたけれど、案外、おかしい上がり方でもなかったかも?


 なーんてことを、【加護の儀】の翌日。夕飯時に垂れ流していたら、パルミラちゃんにすごく呆れた顔をされてしまった。


「言っとくけど、加護者のスキルの上がり方って元々異常よ」

「まあ、うん。そうかも?」


 というか、かかさま(魔神様)が前に『成長率が高い』的なことを言っていたね。


「その上で、スキル上げだけに集中できる環境を整えているじゃない」


 ソレはアレだ。

【加護の儀】直後では、身体系・精神系ともに低いから能力値をあげる必要があるからですよ。コレは、どんなに成長率が高くても同じなんだけど――


「ふつうはその、『スキル上げに集中できる環境』を確保するのが難しいの。分かる?」

「……何故に?」


 コテンと首をかしげると、深々とため息をついてからパルミラちゃんはその原因を語り始めた。


「授かったスキルは、たくさん使わないとランクが上がらない。コレはいいわね?」

「うにゃ」

「コレは、ミラがいた工房だけじゃないけどね。基本的に、入って一年は針を持たせてもらえない」

「にゃう?」


 ソレは、工房に入った意味がないのでは?


「なら、何をするの?」

「掃除・洗濯・野菜の皮むき」

「……パルミラちゃんの入った工房って、お料理屋さん?」

「普通に仕立屋よ」


 ちなみに、一年経ってやっと針を持たせてもらえても、雑用は全く減らず、針仕事の練習用に渡されるのは雑巾用のぼろきれだけ。仕上げるノルマがあるという、嫌なオマケ付き。

そもそも雑用だけでも一日仕事なので、雑巾を縫う量もたかがしれている。


「たしかに、その環境がベーシックだとしたら、ウチは恵まれてるかもねぇ……」

「そうよ。カルロなんて、すぐにミラの腕なんて抜いちゃうわね」

「あれっ!? オイラ、もかして褒められてるっすか!?」

「むかつくーって言ってるの」

「ええっ!? なんでっすか~!!」


 パルミラちゃんとカルロが、イチャイチャし始めた。

おなじ兎人同士、仲が良くていいことです。


 ふたりのことは放っておいて、モグモグしながら考えるのは、今聞いたような環境だとスキルランクが低い人はスキル上げなんて夢のまた夢なのでは? ってこと。


 パルミラちゃんは、現在の裁縫のランクがA。

すでにランク的には頭打ちで、あとは実際に作ったりデザインしたり?

スキルに頼らない経験を積む段階らしい。

 パルミラちゃんいわく、スキルを上げ切ってからが、むしろ本格的に身に着けたスキルを極めるためのスタートラインだそうです。ちょっとビックリ。


 でも――実のところ、その言葉には納得できる部分も多い。

スキルランクが上がると、生産系なら作業が早く進められるようになるし、戦闘系なら思惑通りの動きができるようになる。魔法の場合は、少ない魔力で効率的に運用できるようになるんだけど……使い方は人それぞれだからね。

高ランクになったから高度なことができるようになるかというと、そうじゃないんですよ。


 実際、魔道具作成スキルはSSSランクになったけど、わたし、複雑な魔道具は作れないしね。


 複雑な魔道具というのは、アレです。

【加護の儀】で授かったスキルや身体・精神能力を可視化するプレートとか、狩人組合とかでデータ管理するのに使っているプレートみたいなヤツ。

アレ、どうやって作っているのか全然分からないんだよね……

とりあえず、魔導基盤に魔導チップをはめ込むのよりは難しそうなのだけは分かっている。

そんなわけでトニエ神国に着いたら本格的に魔道具の勉強もしたいなーとひそかに思っているんですよ。まあ、巫女修行のために神殿入りするつもりなので、その後になるのかもだけど。


 そんなことを考えつつ、スキル上げのお手伝いをしている間につつがなく旅路は進み。わたし的にはあっという間にリニャーリ王国の王都・エーマンに着いたという訳です。


 え、スキル上げのお手伝い以外に、わたしが何をしていたのかって?

日課をいろいろと神楽舞のお稽古のほかは、ハムやベーコン、それからポモフェスの水煮と生干しを量産していたよ。

ついでに、スープベースも大量生産したからね。

冬の間、食べ物に困ることはありませんっ!

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