閑話 リリーのフェリシアさま観察記
【神子】というのは、思っていた以上に特別な存在であったらしい。
フェリシアさまとグラジオラスさまが合流した翌日の夜、ウチとクリスはそれをいやというほど見せつけられた。
まず、フェリシアさまが魔神さまから授かっている【お庭】だ。
案内された【お庭】の、広大すぎる敷地にまず驚かされた。
これは【従魔術】をベースに作られたスキルフィールドで、従魔たちだけでなく人が居住することもできるらしい。スキル所持者のフェリシアさまだけでなく、彼女が認めた相手ならば無制限に宿泊できる、一見するとただの大木にしか見えない木のお家なんてものもある。
木のお家の内部には、居住施設だけでなく様々な加工施設に保存庫がある。
これは魔神さまが、フェリシアさまの過労死を回避するために特別にご用意なさったものだそうだ。
そんなものを用意されるほどの何をしてるのかと言うと、フェリシアさまが主に行っているのは畜産業らしい。
従魔師としての才を授かったフェリシアさまは、ランチューやミルギューなどの食材を生み出すタイプの従魔を多く従えている。収穫物は早期に使い切るか、保存に向いた形に加工する必要があるのだが――なんというか、その収穫物が多すぎるようなのだ。
「神子さまが、畜産業など……」
虚ろな目でクリスが呟いた。
だが、神々の与えた才が【従魔術】であり、かつ、同時に授かっている才を知れば納得するしかない。
「【癒食】と【調理】スキルなら、そちらを活かすためにもこうなるのは必然では?」
「フェリシアは村で女衆に教わっていたらしくて、料理の腕も悪くないよ」
ソレはとても楽しみです。
なにはともあれ、神々が収穫物の加工施設を用意した理由には納得しかない。
そんなわけでウチは、「フェリシアさまは、神々に愛されてますね」で【お庭】の施設についてはすべて流すことにした。
そして翌日。
フェリシアさまの働きぶりを観察した結果、ウチは【お庭】の施設が必要不可欠なものだと心の底から納得していた。
脱いだモノをしまうだけで、汚れが浄化されるクローゼット。
型から外したチーズを置いておくだけで、最高の状態まで熟成させてくれるチーズ棚。
原料を入れるだけで、酒やヨーグルト、バターなどに加工してくれる謎道具。
内部のモノの時が止まる保存庫。
人がいなくなると清掃された状態になる、部屋や浴室。
ゴミを入れれば勝手に肥料に変換し、【お庭】内の土地に漉き込むダストボックス。
ハニブーンにおとなしく収穫されるフルーツトレント。
これらは、フェリシアさまが健やかに神子としてのお役目を果たすためにはどうしても必要な代物だったのだ。
もう、完全に農村暮らしが身に沁みついているのだろう。
朝早くから起きだして、従魔の世話をしつつ落ちている乳嚢や卵を拾い、保存庫に入れるだけならまだいい。
それだけでなく、乳製品や干果に加工することまでしている。そうでなくとも、基本的には三食手作りの食事を用意しているというのに……これは、彼女のやりたいことを代理でこなす人間か道具がなければすぐに過労で倒れてしまう。魔神さまが過保護になるのも、頷くしかない状態である。
なにせ、朝晩の神楽の稽古をサボるわけにもいかないのだから。
というか、むしろそれらの作業を手伝おうとしないグラジオラスさまとロイに苛立ちを感じた。
あなたたちも、少しは手伝えば良いのでは?
当然のことながら、私は全力でフェリシアさまの仕事を手伝うことにした。
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「それにしても、これだけの食材を貯めこむだけというのも少しもったいないですね」
つい、余計な言葉が口をついて出たのは、フェリシアさまの護衛に就くことになって六日目のことだった。
「そうなんだよねぇ。にぃにもたくさん魔獣を獲って来るから、お肉も余剰がたくさんあるし……」
「そういうフェリシアさまも、コルルーポたちに海鮮系を集めさせていますよね」
「どきぃっ!!」
「アレも、だいぶ溜まっておりますし、余剰なのでは?」
フェリシアさま。口笛、吹けていませんよ。
「それは置いといて」
「とりあえず、そろそろ集めさせるのは止めても良いのでは? 冬ごもりの準備にしても過剰です」
「うぅ……考えとくぅ」
イカ耳ションボリ涙目なフェリシアさまも可愛いな。
でも、やめる気はありませんね? 目がすごく泳いでいますよ。
「むしろ、冬ごもりするんだから穀物類は在庫を増やさないとだし。植物系の魔獣のタネも種類を増やして備蓄しといた方がいいんだよね」
「ふむ……。なら、先日お伺いした商家に一部を卸しましょう。それで手に入れた金子で穀物なり穀物系のトレントなりを購入すればいいのでは? クリスがそういった交渉は得意ですので、任せればいいと思います」
そして、この方法ならフェリシアさまの負担が増えない。
完璧な答えだと思ったのだけれども、フェリシアさまにはご不満がある様子。うーん、なんだろう?
「バター・ヨーグルト・チーズ・乳酒はマリアちゃんのところに売ってもいいんだけど、買ってもらえる上限はあるでしょう? ほら、予算があるだろうし」
「とりあえず上限を攻めつつ、支払いの一部を穀物などの現物にすれば現金という面ではなんとかなりそうですが……まず、クリスに交渉させましょう?」
「うにゃ」
ふむ……商会に売るのは問題ないけれど、何か一歩足りない雰囲気っぽいですね。
「もしかして、フェリシアさま。露店を出したいとか思われています?」
あ、シッポとお耳がピンと立ちました。
コレはどうも正解っぽい。もしかして、ウチの仕事がやりづらくなることを気にして言い出せなかったかんじだろうか。そんなの、気にすることはないのに。
「露店を出されたいのでしたら、ウチのことはお気になさらず出店なさってください。手伝いと護衛の両立が難しいですが、フェリシアさまのやりたいことを禁止するつもりはありませんから」
「お手伝いはなくても平気。でも、ホントに大丈夫?」
「問題ありません」
とはいえ、グラジオラスさまの許可は必要なのですが。
ニコニコと楽しそうな表情で、なにをどういう形で売ろうかと悩んでいるフェリシアさまはいつもとまた違った可愛さがあるなと思いつつ頬を緩める。
こんなにほのぼのした護衛任務は初めてだなと、しみじみ感じる今日この頃です。
今の生活は、とてもいいと言わざるを得ない。
こんな日々がこれからも続きますように。




