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閑話 リリーの神子さま観察記

 ウチにとって、グラジオラスさまの第一印象は『生意気そうでふてぶてしい男の子』だった。


 大神官長さまの護衛として同行した鉱山町で牢に捕らわれていたその少年は、【神子】を名乗っていた。赤の神官服は武神系の神官であることを示しているけれど、高位の祝福を授かっている加護者は神殿に帰属するものです。好き勝手にうろついているものではない――と教わっていたのだけれども、少年はそのまま大神殿に護送され、部屋を与えられた。

 後で知ったことだけれども、ウチが最初に感じた印象は極度の人見知りで、警戒心が強い性格からだったらしい。

弱みを見せぬように強がっていたのが、『生意気でふてぶてしく』見えた原因だと聞いて微笑ましい気持ちになったのはナイショの話である。


 この時点では個人的に、久しぶりに見た同族の青年(ロイ)の方が気になって仕方がなかったけれど、それはそれ。だって、割と好みのタイプだったんだから仕方がない。



 そして、グラジオラスさまを大神殿に迎え入れた数日後。

第一印象が第二印象にとってかわられる。新たに上書きされたのは『恩知らずで傲岸不遜な独裁者』というものだった。


 なにせ、大神官長さまに救ってもらったはずなのに、グラジオラスさまは土地神さまと結託して、その恩人を排除したのだから当然だろう。

その時の態度の高飛車なことといったら……グラジオラスさまに協力していた狼人のクリスが思わず頭を抱えるほどで、思わず吹き出してしまったのはナイショだ。


 まあ、それがグラジオラスさまの独断だとしても、土地神さまがそのお言葉に従っている以上、右に倣えとなったのは仕方がない。だって、神殿の人間だもの。

ただ、土地神さまが神子だとしても人の子に従っていることに納得がいかず、グラジオラスさまの従者の青年(ロイ)に問いを投げた。


「たとえ神子といえど、土地神さまがアゴで使われているのはなぜでしょう」

「ああ、アレなぁ……。ウチの坊ちゃ――グラジオラスさまいわく、武神さまが土地神さまに神子の指示に従うように申し付けたらしい」

「最上位神の指示とは言えど、仮にも神なのに……?」

「ちなみに、国内の神殿の健全化が武神さまからのご指示だそうだからもっと荒れるぞ」



 実際、荒れた。

まずは神殿の在り方がそれまでのものから一変し、出自が優先されていた階級が実力ベースのものになる。

神官や巫女も、ご加護に与えられた祝福の強さと、祝福した神の階位によって順位付けがやり直しになった。


 要は、神々の声を聴ける(可能性が高い)者が各神殿の大神官となり、人による忖度で決まっていたアレコレが規則によって動くようになったわけだ。

神殿内でも割を食うことが多かったウチは、とても――とても、神殿内での息がしやすくなった。


 ちなみにこの頃はもう、グラジオラスさまの評価が『傲慢ではあるが高潔な人物』に書き換わっている。

なにせ、国王の元に直談判しに赴き、人身売買組織の摘発を行いながらも様々な改革を為したのだから。

グラジオラスさまの株が、暴騰待ったなし状態になるのも仕方ないだろう。




 そうしてひと月にも満たぬ短期間のうちに、ガッツリと様変わりした大神殿からグラジオラスさまが出立する日。

ウチはロイと共にその後ろに侍るようになっていた。

なお、グラジオラスさまに協力して改革にあたっていたクリスと、人身売買組織から救出された兎人(とじん)の少女も一緒である。


 大神殿内での地位も向上し、隊長格への昇進も打診されていたのだが……どうしてもグラジオラスさまにお仕えしたいと思ったのだ。ちょっとだけ、いい雰囲気になっていたロイのことも理由にあるけれど、それはちょっとだけ。ちょっとだけである。


「リリーには悪いんだけど、妹と合流出来たら彼女の身辺を守ってほしい」

「妹君を……ですか」


 なんでも魔神さまの神子であり、人身売買組織の存在が露呈することになった原因でもあるとのこと。

護衛対象が女性なら、たしかに同性のウチに話がくるのも理解できる。まあ、理解できるのと喜ばしく思うことは別の話なのだけれども……



☆★☆★☆★☆★☆★☆



 そして、ソルベル王国の港神殿で引き合わされた妹君――フェリシアさまは、庇護欲をそそられる小柄で愛らしい少女であらせられた。

挨拶で口にされた言葉まわしも、頭を下げる楚々とした仕草も、グラジオラスさまとは全く違う。

顔立ちも含めて、なんというか、本当に兄妹なのかと疑問に感じるほどだ。似ているのは、髪の色くらいなのでは?


 人懐こいタチなのか、グラジオラスさまのように人見知りする様子もない。

ニコニコと笑顔を向けてくる彼女はとても愛らしい。グラジオラスさまの目が、ちょっと妹を見るものと違う気がするものの、気のせいということにしておく。


 うん、たとえ妹に恋慕していたとしても、手を出さなければセーフだろう。

たぶん。

それにアレだ。

グラジオラスさまの想い人でもあるということは、ウチとしても守り甲斐がある。フェリシアさまの方は、完全に『兄』を見る目でしかないから、ちょっと、なんというか気の毒になるぐらいに温度差があるのが不憫ではあるけれど。

まぁ……グラジオラスさま自身、まだ自覚がなさそうだし問題はなさそうではある。


 なにはともあれ、フェリシアさま本人への好感もある。

護衛対象に敬意を払えないと、やっぱりどうしてもモチベーション的なものが保てないからこれはとても幸運なことだろう。

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