育樹師協会 下
銀麦トレントの購入を決意したのはいいものの、どれを買うかでまた悩む。
「もっちりしていて甘みが強いのもいいけど、バランス型の旨味と甘さが程よく同居してるのも美味しいよね。どっちがいいかなぁ」
あっさり系で形が崩れづらいのもあるんだけど、個人的には物足りなく感じる。
なので、最終的にはこのふたつのどちらかがいいと思うんだよね。
「僕はバランス型にしといたほうがいいと思う」
「そのココロは?」
「一番、順当だと思うから。もっちり食感が好きじゃない人もいるでしょう」
「なるほど。それじゃあ、バランス型で」
それでもまだ、候補は十個も残ってる。
にぃにの言う通り、きっと妥当な味なんだろうなぁ……
「そして、もち麦の存在に心が揺れます」
「フェリシア、ソレは止めとこうか」
「なぜに!?」
「そんなにしょっちゅう食べるものでもないし、買って済ませる方が良い気がする。なんか、フェリシアが食糧庫に貯まったもち麦をどうやって消費するか悩む未来が見える気がするんだ……」
ソレはただの妄想だと思います。
「だってフェリシア、ミルギューミルクだって持て余し気味じゃない」
「う……」
「毎日食べる銀麦はともかく、もち麦はやめておこう?」
ミルギューミルクのことを言われると、返す言葉が出てこない。
実際、毎日どうやって消費すればいいか悩んでいる。
バターにしたり、ヨーグルトにしたり、チーズももちろん作っているけど毎日産出されるものだからね。一向に減らないんですよ。
使う量よりも、明らかに増える速度の方が早いからね。
しかも、バターや生クリームなんて、作るとスキムミルクが大量生産されるという罠までついている。悩みに悩んで、今では粉の状態にしてお茶を濁している始末です。
アレもどうやって消費しようかね……?
「……じゃあ、バランス型の銀麦だけにしとく」
「それがいいと思う」
「かわりに、もち麦百ケロ買ってね」
「えっ!?」
ギョッとした顔でわたしを見るにぃにに、ニヤリと笑う。
「ウソ。十ケロでいいよ」
「えええ……? 結局、買わせるんじゃない」
「うにゃ。もう、おこわを食べる気分になってるので確定です」
干してあるアルキノコと貝柱のもちもちおこわ、絶対に美味しいよね。
「おこわ……おこわか。イイね」
どうやら無事に、にぃにのお財布を緩めることに成功したっぽい。
しめしめとほくそ笑んでるところに、追加で白麦の分が手元に届いた。
やれやれ、また悩ましい時間がの始まりですね?
楽しい悩み事なので、大歓迎ではあるんだけどね。
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最終的に購入するのは、バランス型の銀麦と、パン用・白チュルン用・揚げ物用の白麦が生るグレイントレントを購入することになった。
やったね!
チュルンもパンも作り放題だよ☆彡
「この四種をお願いします」
「はい。Dランクのグレイントレントですね。……間違いなく受け取れるか確認いたしますので、こちらの板に手をのせてください」
受付の横にある板に手を触れるとすぐに、「はい、もう大丈夫です」と言われた。
「確認できましたので、支払い後にお譲りいたします」
にぃにが大金貨を二枚、示されたトレイの上に置くとリスおじさんが事務所の奥にいそいそと持っていく。
ちなみに、代金は立替てもらったけれど、あとできちんと返済予定です。
何もかもをにぃにに甘えるわけにはいかないからね。お金はちゃんと返しますとも。フェリシアちゃんは、自立できる女ですよ。
しばらくして戻ってリスおじさんは、トレイの上に大銀貨を八枚と一緒に金属板と鍵のような形に加工された魔石が乗せていた。
「こちらの金属板に記入されている内容と、ご希望のグレイントレントの情報に相違ないかお確かめください」
一枚ずつきちんと目を通して間違いないことを確認すると、金属板に鍵型の魔石が取り付けられる。
「引き渡しはこの者が行います。トレント系は年に一度は株分けができますので、順調に育つようでしたら育樹師協会にお譲りいただけるとありがたく思います。どうか、大事に育ててください」
リスおじさんは猪人おじさんを紹介すると、そう言って頭を下げた。
あとはもう、猪人おじさんのお仕事らしい。
「では、こちらへどうぞ」
先に立って歩きだす猪人おじさんのあとを、にぃにと手をつないでついて歩く。
販売されている魔樹は町の外にあるらしく、案内された先は門の外。簡単な木の柵の内側にはグレイントレントだけでなく、さまざまな種類の魔樹が植えられている。
見たことのない果樹なんて、ついついジッと見てしまう。
あれ、どんな味がするんだろうね?
興味津々です。
「まずは銀麦からになります。先ほどお渡しした鍵を魔導ロックに押し当てて、封印の解除をおねがいします」
わたしが選んだ銀麦のグレイントレントは、なかなかご立派。
丈こそにぃによりもちょっと低いくらいだけれども、ワサワサとたくさんの実をつけた枝はとてもじゃないけどこんな重量は支えきれませんとばかりに垂れている。
今はちょうど収穫期寸前だからね。
第一回目の刈り取りは、割とすぐに出来そうだ。
猪人おじさんに言われたとおりに鍵を押し当てると、グレイントレントはちょっと驚いたように枝葉を揺らした。
「では、適当な枝を握ってください」
その言葉に頷いて手近な枝を握ると、「お手に触れさせていただきますね」と一言断ってから猪人おじさんの手がわたしの手を上からそっと包み込む。
「魔獣を従えるときと同じように魔力を流してください」
言われたとおりに魔力を流すと、グレイントレントは素直にわたしの魔力を受け入れてかすかに光りを放った。
『これからよろしくね』と声をかけると同時に、グレイントレントはスキルフィールドの中に消えていく。
これで、譲渡終了だね。
「スキルフィールドに入れてしまうと、移植先では苗木になってしまいますがよろしかったのですか?」
「はい、大丈夫です」
本来なら従魔を囲っておくためのスキルフィールドは、かかさまに改造されて【お庭】になっているからね。【お庭】から外に出さなければ、さっきと同じ状態から成長するだけですよ。




