にぃにってば……
翌日の朝、ご飯を食べつつ昨日の晩に前倒しで加護の儀を行ったことを報告した。
「加護の儀の結果、フェリシアは魔神さまからのご寵愛を賜ったよ」
「おお~! 兄妹そろって最高位の神々の寵愛なんてすげーな。加護の儀をやるなら、俺らも起こしてくれりゃ良かったのに」
ピニャーシュさんは片眉をピクッと動かしただけだったけれど、ロイさんはひどく大げさに悔しがる。
「フェリシア嬢、ご加護を授かったこと、お祝い申し上げる」
「ありがとう~」
堅苦しい言葉回しだけど、ピニャーシュさんが心から祝ってくれてることが分かったので笑顔でお礼の言葉を返す。ロイさんからも「お嬢、おめっとさんっ」という言葉といっしょに、ちょっと乱暴な手つきで頭を撫でられた。祝福してくれるのは分かるんだけど、もうちょい優しくお願いしたい。激しすぎて、ワワワってなっちゃうので。
「それで、フェリシアも僕の鍛冶場と同じようなものを授けていただいたんだけど……ちょっと、外に出て確認してきてほしい」
食事が終わったところで出された指示で外に出ていってすぐ、ロイさんだけが大慌てで戻ってきて「坊っちゃん!?」と叫んだのには笑ってしまった。いやだって、そのあと言葉が続かなくってアワワとなってるんだもの。とりあえず、ものすごく驚いたんだろうなってことだけは伝わってきた。
「隣領に入るまで、グラ坊はここに滞在してもらえればありがたいところじゃな」
しばらくして戻ってきたピニャーシュさんが、そう言いながらにぃにを見る。
「ほら、ピニャーシュさんも武神さまと同じ意見だよ、にぃに」
「えええ……」
「こんだけ広けりゃ、鍛錬も捗るだろ? 坊っちゃんは何が不満なんだ?」
昨日の晩、武神さまからも同じことを言われてたんだけど、結局わたしのお庭に滞在するのは嫌だの一点張りだったにぃに。ピニャーシュさんとロイさんからも同じことを言われても、やっぱりお庭に残るのは嫌らしい。
「なんでそんなに嫌なのかなぁ……?」
――きっと、ひとりでお籠りしてたら武神さまが遊びに来てくれると思うんだけど。
わたしが逆の立場だったら、大喜びでお籠りしちゃうんだけどね。だって、魔神さまが会いに来てくれたらメチャクチャ嬉しいもの。理解不能がすぎる。
「………………ぃ」
そんな事を考えていたら、お口をへの字に曲げてたにぃにがやっとなにか喋ってくれた。
「なんて?」
よく聞こえなかったから聞き返すと、ご不満顔でまたお口をつぐむ。
「……ははぁん」
「なにさ」
「うんうん、言わんでも大丈夫。俺も一緒に留守番してやっからなっ!」
「えっ!? そんなこと、頼んでないっ」
ロイさんニヨニヨ、にぃにはワタワタ。
肩を抱き寄せて頭をワシャワシャ撫でくり回されて、にぃには真っ赤な顔で抗議している。
お恥ずかしいんですか?
お恥ずかしいんですね?
とりあえず、ぶんむくれた表情よりも、今の子供っぽい怒り顔のほうがずっといいのは間違いない。ホッとした気分でピニャーシュさんの方に視線を向けると、長いお耳が土間の方に向かってピコピョコ動く。
――そっちに行けってことかな?
じゃれ合ってるにぃにとロイさんをチラッと見て、「後片付けしてくるね」とひとこと付け加えてから立ち上がる。そのまま土間で洗い物を片付けていると、ピニャーシュさんもやってきてお皿を拭くのを手伝ってくれた。そんでもって、お片付けが終わったら庭から外の世界に連れ出されて、ピニャーシュさんの騎獣(フォレチェル)の背の上に。なんか、ものすごくサラッと流れるように誘導されてたよ。ビックリだね。
「……いいの?」
「うむ」
フォレチェルは森の中を颯爽と走り始めたけど、わたしはにぃにが気になって仕方がない。
「あとでお庭に戻ったら、にぃにに絡まれない?」
あんなに自分抜きで移動されるのを嫌がってたのに、まるっと無視して強行ですよ?
ぜったい、戻ったらブーブー言うなりなんなりされそう。
――やだなー、めんどうだなー、戻りたくないな―。
なにせわたし、にぃにのことをほとんど知らない。
ネチネチと根に持つタイプなのかもしれないし、喉元過ぎたらスッキリ忘れちゃうタイプなのかもしれない。どういうタイプか分からないから、すんごく不安。
「道中、村や町には立ち寄らず、朝昼晩の食事時には庭に戻ればグラ坊も文句はないじゃろう」
「うにゃ……?」
「ハズレ村を出てから五年。領都で暮らしておったと言えど、大神殿の外に出ることは許されんかったからの……」
「……にぃにも一緒なら?」
「気にせんじゃろうな」
「……」
ソレって、わたしが自分よりも先によその村や町を散策したり買い物したりするのは許せないってこと?
――にぃにってば、心せまっ!!




