わたしのお庭
かかさまがくださった空間は、【従魔術】で従えた魔獣が生活するための牧場(?)と、生産系スキル用の建屋がセットになったもの。
「建物はふつうの石材や木材で作ったものが良い? それとも、大木や大きなきのこをくり抜いたファンシーなやつ?」
なにやら要望を聞かれたので、大木をくり抜いたタイプのものを希望してみた。儀式が終わったからか、かかさまの口調がだいぶ砕けたね。
こっちの話し方のほうが喋りやすくてすごく好き。
それはそれとして、わたしのもらった空間のほうが敷地面積的ににぃにの鍛冶場よりずっと大きいのがちょっと気になる。
鍛冶場内でわたしのスキルフィールドを展開すると、牧場モドキの建屋の隣に鍛冶場と修練場のセットがまるで付属品のように配置されるんだもの。わたしの方があとから授かったことを考えると、ちょっと微妙な気分、的な?
でもまぁ――
「……うん。併用できるなら問題ないね?」
にぃにが鍛冶仕事をしたくなったら、鍛冶場を開いてトンテンカンとやればいいし、そうでないときは大樹のおうちでまったりすることも可能だ。なかなか良さげだと思う。
「僕としては、むしろなんとも言えない不条理を感じる」
不条理、とは??
にぃにがなにに不満を感じているのかはよくわからないけど、気にするのはやめておこう。深く掘ると、きっとめんどくさいやつ。
ちなみに、併用している間は武神さま系・魔神さま系の神々はどちらも出入りできるっぽい。さっきから、たくさんの見知らぬ半透明な人がウロウロしてるから、きっとそう。
そうそう。
わたしとにぃには、今、大樹のおうちから少し離れた場所にある東屋の中に居る。そして、かかさまと武神さまの二柱が同席中。
かかさまは瑠璃色の髪とクルクルと虹色に色合いを変える瞳の色白なスレンダー系の美女で、武神さまは緋色の髪と瞳の中性的な美形さんだった。武神さまって、もっとゴツい人を想像してたので、ちょっぴり意外だ。
兄妹神とも、もともとは合わせて一柱の神だったともいわれる二柱の神々は、性別こそ違うもののとても良く似た超絶美形。目の保養になって、とても素晴らしい。
「それはそれとして。グラジオラスはしばらくの間、妹のスキルフィールド内にかくまってもらうように」
「えええ……なんか、それはちょっと……」
武神さまからのお言いつけに、何故か渋る様子を見せるにぃに。一体、何が気に食わないのやら……?
「【魔法鍛冶】をベースにした鍛冶場とちがって、こちらは【従魔術】ベースだからね。生物が居る状態でも移動ができるから、同行者を危険にさらす確率が大きく下がる。せめて、別の土地神の保護領域に移動するまではそうしておきなさい」
「確かに鍛冶場は僕がいないと人が滞在することはできないですけど……」
ゴネるにぃにに理由を説明してあげるなんて、武神さまはずいぶんと心が広い。
ソレはソレとして、この会話で気づいたことがある。
鍛冶場の存在を知ってから、ちょっと不思議に思ってたんだよね。鍛冶場に寝かせておいたほうが絶対に楽なのに、なんで背負って歩いてたんだろうって。
だけど、にぃにが中にいないとダメだから運ぶ以外に手がないわけだ。
なるほど納得。
そんでもって、地味に不便な仕様だね。
「武神があげたアレは、かなり無理矢理辻褄合わせをした上での成果だから、不便があるのはしかたないんだよ」
なんでそんな仕様になってるのかと不思議に思っていると、にぃにと武神さまの言い合いを眺めていたかかさまが、苦笑を浮かべて説明してくれた。
「あの子の所有スキルでは生物は入れられるようなものがないから……一時的に滞在できるようにするのだって結構大変だったはずだよ」
「神さまにも、制約とか制限とかそういうのがあるんだねぇ」
「そういうこと。この世界の中でなら、創世四神は結構自由に力を振るえるのだけれども……それでも限度があるから」
なんだかよくわからないけど、かかさまよりも上位の神さまというのも居そうだな、とボンヤリ思う。
「さて、あの二人のことは放っておいて、フェリシアは従魔を手に入れようか」
「うにゃにゃ」
まだゴチャゴチャ話しているにぃにたちは放っておいて、かかさまと手を繋いで東屋を出る。
「そういえばかかさま、従魔士のスキルフィールドって、みんなこんなに広いの?」
そうそう、スキルフィールドというのは、武術系スキルだったら対応する武具をしまっておける便利空間のこと。料理スキル(愈食の下位スキル)だと、包丁やナベを入れてる人が多い。スキルフィールドに入れておけば、どこでもお料理できるからね!
従魔士の場合、このスキルフィールドに従魔を入れておける。……というのは知ってる。ハズレ村は、フルーツトレントの育樹がメインの農村だったからね。従魔士が多かったんだよ。
「ランクと、従えている魔獣によるね。フェリシアはどんな従魔がほしい? 今なら特別サービスしちゃうけど」
とってもおねだりして欲しそうな表情で顔を覗き込まれたけど、最初の従魔は決めている。
わたしは首から下げた袋の中から種を取り出してかかさまに見せた。
「この子たちが良い」
「……フルーツトレント、だね」
「うにうに」
「なら、家の周りに植えてから活性化させよう」
きっと、ここで育てるならとても大きくなるからと言って、家からそこそこ距離を開けて種を蒔く。大樹のおうちの下だと、日当たりがビミョーだからね!
「スリーズ、おっきくなったらまたたーくさんの実をつけてね」
種を手で包み込み、願い事をつぶやきながら魔力をつなぐ。
地面に埋めて水をあげると、あっという間に地面がぷっくりふくらんで、ニョキニョキ芽が出て小さな苗になる。
続いてフィグとペシェとポムも同じように苗になった。
あとは、わたしが毎日お水と魔力をあげればいいらしい。
「ところで、この空間のことはなんて呼ぶの?」
「うにゃにゃ? スキルフィールドじゃダメ??」
「ふつう、スキルフィールドには入れないからね。別の名前で呼ぶようにした方が良いと思うよ」
「むむむむむ……」
困った。
わたしの頭の中にある未来予想図だと、この空間ってほぼほぼ農園か牧場的なものになってしまう。だって、植物系なら次はポモフェスを植えたいし、生き物系だったらランチューとミルギューがほしい。フルーツトレントの種類も増やしたいね。
あっ、アレだ。フルーツトレントたちの受粉のためにハニブーンも確保しないといけない。
――って、妄想膨らませてる場合じゃないよ。
改めてここの呼び方について頭を悩ませる。
これからのことを考えると、ある程度どんなところに居ても違和感がない呼び方が良いような気がするんだよね。しばらくは旅ぐらしになるわけだし……?
「『お庭』で」
「確かに、どこにあってもおかしくないね」
結局、いろいろな方向での知識が不足しているわたしは、小さな村にあるわけもない名称で呼ぶことにした。だって、大きな街に牧場や農園があるかなんて知らないし、コレはもう仕方ないよね。




