冬服よりもあったかい
マリアちゃんのお店で、思いもよらない商談がはじまった。
「いやぁ、モリザイカイ町で以前仕入れたんですが、マリーがひどく気に入っていたんですよ。この果物!」
「うまうま、もっと」
どうやらマリアちゃんたちは、【駆け出しマーケット】で交換しまくった果物を手に入れたことがあるらしい。
時期はよく分からないけど、どうやらわたしたちがモリザイカイ町を出たあとのことだったようで、数を仕入れられなかったから家族で食べたそうで――
「でも、ここにいる間しか卸せませんがよろしいのでしょうか」
「そもそも、野菜や果物なんてそんなものですよ。問題ありません」
そういうもんなの?
まあ、デンティゴルにいる間に何度か持ってくるくらいなら問題ないからいいんだけど。
クリスさんの視線を受けて、小さくうなずく。
「では、お互いの条件に付いて詰めましょうか」
「ははは、お手柔らかにおねがいします」
マリアちゃんパパとクリスさんが丁々発止とやり合っているのを横目に、わたしとにぃには部屋を出る。ホントは優雅にお茶会の予定だったんだけど、マリアちゃんに何を買いに行くんだと聞かれて答えたら、倉庫に案内してもらっいつつお買い物相談に乗ってもらえることになったのです。
マリアちゃんのとこにあるものなら、ちょっとお安く(これもクリスさんが交渉予定)してくれると言うので……
「【指南書】は旦那様にご紹介いただく必要がありますが、香辛料などの日持ちするものは当商会に揃っておりますよ」
マリアちゃんパパの商会は、幅広くいろんなものを扱っているらしい。
「倉庫にあるもの以外でも、仕入れたいものがございましたら取り寄せることもできます。お気軽におっしゃってください」
案内してもらった倉庫には、香辛料や異国由来のソース類がたくさん積まれていて胸が弾む。
新しい食材は、大歓迎です!
工芸品や織物なんかも扱っていて、にぃには工芸品の棚に興味津々。
ウキウキしながら品物を眺める姿が、ちょっぴり子供っぽく見える。こんなことを言ってしまうと拗ねちゃうかもしれないけれど、ちょっとかわいい。
最終的に、わたしは香辛料などの調味料系を大量に買い入れた。
もちろん、ミショとショユにお塩の三種はタルでいくつも購入したよ。
人数が増えたから、冬を越すことを考えるともうちょっと欲しいけど――まあ、リニャーリに移動する間に立ち寄る町でも買えるはず。
最悪、塩だけでもたくさん買っておけばなんとでもなるよね。
銀麦や白麦も買い足すことを考えたけれど、こちらはグレイントレントが手に入らないようなら手配してもらおうと思います。
ついでに、生の小魚を毎日千ラーメ分まで家に届けてもらえるように手配してもらうことにした。
マルコ君たちいわく、体長十五センテ前後のお魚は解体の練習用に安く手に入るっぽいんだよね。彼らは毎日、漁師さんからお魚の捌き方を教わりつつ一尾あたり半ラーメで譲ってもらっているらしい。
一日にどれくらい仕入れられるのかは分からないけど、百尾単位でお願いしてみた。
毎日、百尾ずつでも手に入れば、デンティゴルを離れたあとも素材には困らないはずだからね。先行投資ですよ。
そもそもが、小さいお魚さんだって十分美味しいからね。
解体スキル上げに必要なくなったとしても、食べてしまえばいいのでオールオーケーです。
「ところでにぃに。なんであんなに布を買ったの?」
「冬服は必要になるでしょう」
去年みたいに、みんなの分も古着を買えばいいかと思ってた。
にぃにが選んだ生地は、生成りのものが三十九本。一本もあれば一人分の服が作れるから、単純計算でも全員に三着ずつは冬服が用意できる。
「……あの子らをフェリシアの兄弟として遇するなら、僕もそうしなきゃおかしいでしょ」
言いながら顔をそむけるにぃにのシッポが、あんまり突っ込むなと言わんばかりにブンブン揺れた。お耳もちょっぴり伏せ気味だから、きっと照れくさいんだよね?
「にぃにがそう言ってくれると、わたしも嬉しい」
あんまりにも嬉しすぎてにぃにの腰に抱き着くと、揺れてたシッポがお空に向かってピンとなる。お耳はパタパタ大忙しですね、にぃに?
「――あ~……あと、パルミラがヒマそうだし、せっかくだから作ってもらおうかなと」
しばらくアワアワしていたにぃには、咳払いをしてから何事もなかったかのように話を続けた。
「そういえば、服飾師さんだったね」
ピニャーシュさんの娘さんだというパルミラさんは、腕のいい服飾師だったらしい。
まだ未成年だから、見習いだったみたいだけど。
そんでもって、賭け事で借金を作った雇い主に人身売買組織へと売り飛ばされていたところをにぃにが保護したんだよね。
パルミラちゃんは、自己紹介の時にはピニャーシュさんに敵意がありそうな雰囲気だったのに、顔を合わせたとたんに態度がコロッと変わってしまった。
今ではもう、ずっとピニャーシュさんにベッタリ張り付いてて離れない。あのタンカは、ただのツンデレさんだったのかな? よく分からないお姉さんです。
ピニャーシュさんも彼女のことは気にかけてるみたいだけど、基本的にマルコ君たちの指導に時間を使っているからね。割と暇な時間は多そうだ。
「たしかに、空き時間に作ってもらえたらうれしいかも」
「でしょ」
「引き受けてくれるといいねぇ」
にぃにとふたりで笑み交わし、出来上がった服を受け取るときの彼らを思う。
袋を改造して作った服を受け取ったときだってあんなに喜んでいたんだもの。きっと、自分のために作られた服ならもっと嬉しいはず。
「生成りの生地だし、それぞれの好きな色に染めるのもいいよね」
「そうだね。そういえば……魔道具化する場合、魔導染料で染めると燃費がよくなるらしいよ」
にぃに。
それって、私に魔導染料とやらを作れと言ってます……?




