日課
今日は、みんなで大移動。
朝一で今のお宿から、漁師の借家に移動することになった。
騎獣に乗れる人に分乗しつつ西区に向かうんだけど、騎獣術を練習している四人組は、短い時間でもスキル習得につなげたいといって頑張っている。
乗れない組のパルミラさんは父親のピニャーシュさんに、ダニーロ君とパオロ君はクリスさんと同乗している。
わたしも従魔に乗って移動しようと思っていたんだけど、問答無用でにぃにのフォレチェルの背中に乗せられた。無念なり。
「フェリシアさま、フェリシアさま」
「移動先って、どんなところですか?」
「西区にある漁師さんのお家だよ。毎日あそこまで移動するのは大変だから、そっちにお引越しすることにしたんだよ」
「うわぁ、助かるっす!」
「捌ける数が増えるな」
ポクポク歩く騎獣の背に揺られつつ、一日ぶりにマルコ君たちと言葉を交わす。
昨日はお寝坊しちゃったから、なんのかんので顔を合わせる時間がなかったんだよね。
「新しい宿に着いたら、【お庭】に移動するからそのつもりでいるように」
「なんか、今日から朝一番でサラさんとルカさん、ダニーロ君とパオロ君の四人に護身術を教えてくれるって」
「おおっ」
「ホントにっ!?」
静かにやる気をみなぎらせるサラさんとルカさんとは対照的に、ダニーロ君とパオロ君は嬉しそうに歓声を上げた。その一方で戸惑いの声をあげるのはマルコ君とカルロさんだ。
「え、オイラとマルコは!?」
「君らは加護者だからね。僕やフェリシアと一緒に神楽の練習」
「オレたち、神官になるつもりはないんですが……」
「っす」
「でも、フェリシアの役に立ちたいんでしょう?」
「……はい」
「なら、神楽も含めた神職の仕事を覚えてもらった方がいい。護衛だけなら本職がいるからね」
チラッとリリーさんの方に視線を向けたのを見て、マルコ君が口をつぐむ。
「でも……」
「言っておくけど、神職に就くのと神職に求められる知識を学ぶのは別の話だよ」
「なんか、普通のお仕事をしている加護者もいるんだって」
ブラン王国でどうだったのかは分からないけど、かかさまが言うにはそういうものらしい。
「本来は、『加護者の行動は何人たりとも妨げてはならない』ものらしいからね」
ブラン王国では、間違いなく無視されていた原則っぽいね、ソレ。
にぃにが五年も大神殿にいたことを考えても間違いないはずです。
「その理屈だと、オイラがカグラ? を覚えなくてもいいんじゃないっすか?」
「そうだね。学びたくないなら好きにしていいよ」
にぃにの言葉は静かだったけれど、なんだか切り捨てるような響きがあってお耳が勝手にペタンとなった。
「……フェリシアさまのお傍を離れなくても良いんですよね」
「今のところは。まだ、正式に君たちを受け入れると決めたわけではないよ」
「でしたら、喜んでご指導賜ります」
「そう」
なんか、『合格』的な副音声が聞こえた気がしてにぃにを見上げる。
表情は――いつもと変わらないね。でも、シッポの揺れ方がちょっと機嫌よさげかも。
「え、マルコがやるならオイラもやるっす!」
「そう? なら、ふたりとも励むように」
今の「そう」は、副音声にするなら『及第点』?
もしかしたら、『要観察』かもしれない。シッポの動きがやや乱暴です。
にぃに、カルロさんはいい子ですよ?
ただ、今は全力投球したい方向が違うだけだと思います。
借家についたら、サクッと中を見て回ってすぐに【お庭】にレッツラゴー!
全員がお庭に入ると、デンティゴルに滞在している間のことについて、わたしの従者(?)を希望している六人ににぃにから話があった。
要約すると、内容はこんなかんじ。
その一 毎朝一時間、決められた訓練を行うこと。
にぃには、フェリシア・マルコ・カルロの三人に神楽の指導をする。
フェリシア・マルコ・カルロは、基本的に毎日、神楽の練習に励む。
サラ・ルカ・ダニーロ・パオロの四人は、ロイとリリーから体術の指導を受ける。
その二 訓練後の一時間は、自由時間になること。
フェリシアが食事の支度を行う間は各自自由に過ごしてよい。
ただし、フェリシアの気分により外食になることもある。
その三 フェリシア・マルコ・カルロは、夕方に一時間、神楽の練習をすること。
ほかの四人は各自自由に過ごしてよい。
一日に二回も神楽の時間があるので、わたしだけでなく、マルコ君とカルロさんもガボーンだ。
「あ、オレ、フェリシアさまの食事の支度を手伝いたいですっ」
「それじゃあ、この後で一緒に作ろうか」
「はいっ」
という訳で、今日から毎日朝と夜に神楽の練習をすることになった。
ちょっと泣きたい。




