借家選び3
『娘が失礼なことをした』と五体投地する勢いのマリアちゃんパパを何とか落ち着かせ、お話を始めるのにちょっと――いや、結構な時間がかかった。
なんか、よく分からないけど疲れたね。
結局、わたしが呼ばれたのはマリアちゃんが『ねぇねに会いたい』と言っていたからだったっぽい。
あとついでに、パパさんがマリアちゃんを引き取りに来た時に、お礼を言っていなかったからと改めてお礼を言われた。
別に気にしてなかったんだけど。
わたしたちの方からは、物件をご紹介してもらったお礼と、別のところを借りることにしたことに対する謝罪をした。
パパさんはわたしたちの希望する物件が見つかったことを喜んだあと、「滞在中に必要なものがあれば手配しますよ」と続けてから「格安で」と付け加えて片目をつむって見せる。マリアちゃんのパパさんは、ちょっと面白い。
思いのほか話が弾んだのと、お邪魔したのが少し遅めの時間だったから、宿に戻ったのはもう夕飯間際の時間帯。今からご飯を作るとお夕飯が遅い時間になっちゃうけど、にぃにがわたしの作ったものが食べたいって言ってたからね。
お宿に戻ったら、すぐに作り始めねば。
「にぃに、お夕飯は何がいい?」
「魚」
「昼間も食べたよね?」
「アレは銀麦がメインでお魚は少なかったじゃない」
そう……、かな?
具材を取り分けてからでないと銀麦が見えないくらい、盛り沢山だったと思うけど。
「……要は、塩焼きのお魚食べ放題的なのがご希望みたいな?」
「ご希望だね」
「なるほど」
そしたら、塩焼きにしたお魚のほかはあら汁とお漬物で良さそうだね。
お野菜はあら汁にたくさんぶち込めばいいし、口直し用のお漬物でも摂れるから。
ほかの人にも確認したものの、にぃにの希望通りでいいっぽいのでメニューはコレで決定です。
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お宿に戻ると、ピニャーシュさんが引率していたメンバーはみんなご飯は食べ終わってた。
今は、それぞれ好きなことをして過ごしている。借家の件は、ピニャーシュさんにだけ話しておいて、他のみんなには明日の朝にでも話せばいいかな。
「それじゃあ、今日は【お庭】でご飯を作るから。にぃにはクリスさんとリリーさんを案内してあげてね」
「ああ……そういや、それも必要だったね」
【お庭】の入り口を開くと、クリスさんとリリーさんの口から驚きの声が漏れた。
にぃにとロイさんが当たり前の顔でふたりを【お庭】に招き入れ、わたしも少し間をおいてそのあとに続く。わたしが入ったときにはすでに入り口から離れたところに行っていてくれたから、クリスさんが何かを喚いている声は聞こえるものの内容までは分からない。
まあきっと、『なんですかこれは~!?』的な方向だと思うので気にしません。そっちの説明はにぃにがしてくれるはずなので、さっさとご飯を作らなきゃ。
速足で台所に向かい、まっさきに銀麦を炊き始めてから次の作業に移る。
にぃにはもう、串に刺した焼き魚を食べる気分になっているだろうからとりあえず一人二本の計算で小さめのお魚を串に刺していく。前にカルロさんが鱗をとってくれたお魚がたくさんあったので、工程が省けるね。
お供え用を含めても全部十四本を刺していくだけで済むから、案外早くこの作業は終わった。
お次は、食堂のテーブルの真ん中にあるフタを外して火鉢を露出させ、火を熾すこと。
熾した火の周りの灰に串を刺して、お魚をあぶり始めたら次の料理へレッツゴー!
台所に戻って、銀麦を炊く火加減を調節したら石窯に火を入れ、中型のお魚を三枚に下ろしていく。
そこそこ大きいし、三尾も捌けば大食漢のロイさんでも充分満足できるはず。
捌いている間に出た頭と骨は、石窯に入れてしまいます。炙ってからあら汁に入れれば、生臭さも飛ぶし、汁に香ばしさが加わって一石二鳥なんだよね。
ちなみに捌いたお魚の内訳は、にぃにとロイさんで一尾。残りの二尾は切り身にして、リリーさん&クリスさん用とお供えに回す計算です。
捌いたお魚の紅色の身に、塩と香辛料をサッと一振り。
白麦粉をまとわせてから深皿に入れてからバターを載せたら石窯に放り込むんだけど――その前に、火鉢で炙っているお魚の面倒を見に行かねば。
炙り魚の串をまわして戻ってきたら、今度はあら汁にとりかかる。
野菜を刻んで鍋に入れ、石窯から回収した魚の頭と中骨と一緒に煮込み始め、石窯にバター焼きにするお魚を放り込んだ。
「むぅ……」
ご飯ももう炊きあがる。
あら汁は出来上がりにもう少し時間がかかるけど、中魚のバター焼きはすぐにできるね。
にぃにたちが戻ってきたら、できてるものから先に食べてもらって、それからご飯とあら汁を追加する形で出せばいい状態だ。
わたし、頑張った。
「ただいま、フェリシア。すごくいい匂いがするねっ」
「にぃにってば、鼻がいいね」
「そりゃあもう、タイミングを図ってたから。お皿運んじゃうね」
にぃには、あら汁の味を調整し終わった瞬間に台所にやってくると、こちらの返事も待たずにバター焼きのお皿を食堂に運んでいく。
「あ、ロイはあら汁のおナベをお願い」
「りょーかい。お、さすがお嬢。今日も美味そうだな。リリーはメシを頼む」
「ロイ、私は何を運びましょう」
「んじゃ、クリスは漬物で」
「了解です」
そして、続々とやってきた皆さんに運ぶべきものを全部持っていかれたわたしは、最後にお椀とお箸を持って食堂に向かうことになったのでした。まる。
いや、ありがたいんだけどね。
あっという間に作ったものが消えて行ってビックリしただけです。




