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借家選び

「ロイ、クリスが近くに来てるから呼んできて」

「りょーかいっ」


 みんなでワクテカしながらご飯を待っていたらにぃに(・・・)が突然そんなことを言い出して、ロイさんが外に飛び出していく。


「いつもながら、グラジオラスさまの【気配察知】は便利ですねぇ」

「でしょ」

「【気配察知】って、スキルだよね?」


 たしか、ピニャーシュさんがマルコ君たちに仕込もうとしているヤツ。


「ブランの大神殿で、必要に駆られて常時発動してたクセが抜けなくてね。知り合いなら近くに来ればすぐに分かるよ」


 ……ん?


「もしかして、狩りに出た時にやたらと大量に獲物を持って帰ってくるのって……」

「できる限り美味しくて比較的近くにいる、手こずり過ぎないランクの魔獣を狙いに行ってるからだね。フェリシアも知ってるでしょう?」

「……言われてみれば、いつもまっすぐ走って行って、そっちの方から帰って来るね」


 なんというか、魔獣の気配に敏感になるスキルだって認識だったよ。

まさか、そこまで高精度な探知までできるなんて想像すらしていない。獲物多すぎ問題の原因は、にぃに(・・・)の食欲のせいだったとは……

 そっか、魔獣を避ける方向だけじゃなく、狩るときにも使ってたんだね。気配察知。


 そうこうするうちに料理が運ばれてきて、給仕の人と入れ替わるようにロイさんがクリスさんを連れて帰ってきた。にぃに(・・・)は「ロイは鼻がいいね」とからかいながらクリスさんにねぎらいの言葉をかける。「いいえ」とそっけなく応じたのに、クリスさんのシッポがちょっと得意げに揺れるのが微笑ましい。


「とりあえず、クリスの報告は食べてからってことで!」


 みんなで「いただきます」と声を揃えてから、それぞれが小皿にお目当てのご飯をよそう。

このお店の売りは、炒め炊きした炊き込みご飯のパエリア。

 にぃに(・・・)がお魚系希望だったので具材は、ガベロ(えび)・アシャリとバリーシャ(二種の貝)・グラキオ(かに)・白身魚と鶏肉・貝柱とランチュウの五種類を頼んでみた。

もう目の前にあるだけで、おぼれそうなくらいに美味しい匂いが襲い掛かって来る。


「うまっ」


 にぃに(・・・)がまっさきに口をつけたのは、見た目的におとなしめな白身魚と鶏肉のパエリア。

お魚とお肉から出る出汁が絡み合い、濃厚な旨味と味わい深さのある一品です。貝柱とランチュウの方も味は違うけど、方向性的には似たかんじでおススメだね。

わたしのお気に入りは二種の貝を使ったパエリアで、なんというかしみじみとした味わい深さがある。もちろん、ガベロやグラキオのパエリアだって間違いのない味なんだけど。


 全員が心行くまで食べてから、食後のお茶をしながらクリスさんのご報告に耳を傾ける。

どうやら、にぃに(・・・)が挙げた最低条件を満たす物件は、四件もあったらしい。


「一つ目は本当に倉庫ですね。漁港地区にあって、井戸と共用トイレがあるのと借り賃が安いのが取り柄です」


 古い建物なので雨漏りがないのはいいのだけれど、隙間風が気になるらしい。

床鳴りもうるさいから、クリスさん的にはNG案件みたいです。

お家賃は、ひと月で千ラーメ。


「二つ目も倉庫ですが、警備の者用に宿直室があります。一つ目のものよりも新しいので、隙間風も許容範囲内ですね」


 NGポイントは、一つ目の倉庫よりもお高くて、お家賃が三千ラーメなところ。


「三つ目は、漁師向けの借家になります」


 ここは割とおススメらしい。

煮炊きする場所もあるし、共用の井戸やトイレがそこそこ近く、魚介の解体作業なら軒先でできるらしい。

難点は寝具がないことだけれど、ベッド枠が四台ある。ベッドで寝る人以外が雑魚寝すれば、全員は眠れる程度の広さがある。

お家賃は二千ラーメと、ちょっとお安く感じる。

実は、全員入るとギチギチになる狭さなのでは?


「最後の四つ目は、漁港地区にほど近い場所にある倉庫兼用の居住施設です」

「それは……なんか、高そう」


 だよねー。


 しかも、全員個室が使えるだけの部屋数があって、食堂と厨房、ついでに水浴び場に井戸やトイレまで完備らしい。無料なんてありえない。


「実は持ち主がグラジオラスさまと面会したことのある商会長なのです。最近になって新しく別の建物を用意したそうで、今月いっぱいでしたら無料で貸してくださるとか」

「あからさまに怪しい」

「まあ、当然ながら条件というか、お願いがあるようですが……」


 にぃに(・・・)は、ソレを聞いて『ホラきた』って顔をした。


「僕に?」

「いえ、フェリシアさまに」

「うにゃ? わたし?」

「なんでも、娘さんがとても会いたがっているので、一度、店に顔を出してほしい、と……」

「娘さん?」


 はて。

わたし、この町に知り合いなんていませんよ?

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