【海の恵み停】
ちょっぴり息苦しさを感じて、目が覚める。
「にぃに、くるしぃ」
「……んぅ」
息苦しさの原因は、にぃにの腕の中に閉じ込められているせいだった。
頭の上をふさがれた上に胸の上に腕が乗っていれば、そりゃあ息苦しいわけだよ。テシテシと腕を叩いて離してもらおうと思ったのに、むしろそのまま抱き寄せられて密着度がアップする。
「にぃに、わたしはそろそろ起きないとまずいんだけど……」
「もうちょっとだけ」
頭のてっぺんに、頬ずりされる感覚。
ノドを鳴らして繰り返す動作に、『あ、今日は離れる気がないな』と遠い目になった。
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結局、にぃにはわたしを抱え込んだまま午前中いっぱい眠り続けた。
当然ながらわたしも二度寝して、お昼過ぎまで寝コケましたとも。にぃにが離れないんだから仕方がない。
それに、にぃにもわたしも、疲れがたまっていたんですよ、きっと。
「おはよう、ロイ、リリー。なんかいい匂いがするね」
寝すぎて眠い目をこすりつつお宿に戻ると、ロイさんとリリーさんがイチャイチャしながらお昼を食べてて、食べ物の匂いを嗅いだ瞬間に、わたしとにぃにのお腹がグゥと鳴く。
「坊ちゃん、お嬢、おそかったなぁ」
「グラジオラスさま、フェリシアさま、おはようさん」
「僕たちの分はなさそうだし、ロイがソレを片付けたら出かけたいな」
どっかの屋台で買ってきたらしき食べ終わった串が山になっているのを見て、にぃには小さく鼻を鳴らす。
まあ、ロイさんがこの量で足りるわけがないよね。私たちが腹減りでなくても、どのみち食事をとりに行く予定だったんだろう。
ちなみにマルコたちは、朝一番でピニャーシュさんに連れられて漁港に出かけたらしい。
今日も、たくさんお魚を解体してくるんじゃないだろうか。将来がかかっているとはいえ、みんな、頑張り屋さんだなぁ……
あ、ピニャーシュさんの娘のパルミラもマルコたちと一緒に出掛けているそう。
そして、この場にいないクリスさんは、漁港地区に二週間だけ借りられる家がないか探しに行っているらしい。
言われてみれば昨日の晩、にぃにが『この際倉庫でもいいから、煮炊きができる広い部屋がいい』だなんてわがままを言っていたね。
まさか、探しに出かけているとは……
【お庭】の食堂で十分にぃにの希望が叶うから、そんなに大きな部屋は必要ないと思います。
「ところでフェリシア。どこかおススメのお店があったりしない?」
「食べたいものによるよ」
「僕は当然、魚!」
そんな気はした。
「オレは量があればなんでも」
ロイさんはそうだよね。
「ウチも味が良ければ割となんでも」
リリーさんは、好き嫌いはなし……と。
「そしたら、海鮮系のチュルンか銀麦かパンのどれか一つを選んで」
「そもそもが、チュルンって何?」
「白麦を練ってひも状にしたものを茹でたヤツ。最初、見た目でウワッてなったけど、美味しい」
白くて長いミミズかと思ってビックリしたんだよね。初めて見た時は。
絡めるソースによっては、普通にミミズに見えたし……
「ん~……じゃあ、無難に銀麦で」
「うにゃ」
デンティゴルは海の町だから、魚介類を扱うお店はたくさんある。
こういっちゃなんだけど、一般家庭のお母さんが作れるレベルから「さすがプロ!」と言いたくなるお店までバリエーションが良くも悪くも豊かなんだよね。
そんな中、今日にぃにたちを案内したのは【海の恵み停】。
海鮮系の炊き込みご飯が売りのお店です。
一番混む時間帯はもう終わっているのであっさりと席に通され、本来なら四人分の料理を五種類頼む。大食漢のロイさんがいるからね、ちゃんと食べきれるはず。
建物自体は年代物だけれど小奇麗な店内には、すでに美味しそうな匂いが充満している。
にぃには、お店に入った時点から期待感にお目々キラキラのシッポがピーンとなってるし、ロイさんはロイさんで舌なめずりが止まらない。
ふたりとも、食いしん坊が過ぎるのでは?
リリーさんの反応はウットリした目でお鼻をヒクヒクさせるだけ。
男性組と比べると、控えめで上品な反応です。
ところで、ロイさんと同じ獅子人のリリーさんは、頭の形が分かるくらいに毛足の短い美人さん。
背丈はロイさんよりも少し低いけれど、体つきがほっそりしていて格好よく見える。男装したら、メチャクチャ女の子にモテそうです。
こんな美人さんなのに、いったいロイさんのどこが良かったんだろうね?




