みんな兼任
にぃにと再会した日の晩、これからのことについてみんなでじっくりと話し合った。
最初の議題に上がったのは、マルコたち六人の扱いについて。
なんか、マルコたちが奴隷船からの脱出からの間にわたしへの恩を強く感じていたらしい。
それは私が思っていたよりも強い気持ちで、生涯をかけての恩返しを志すほどのもの。なんとか側近くで使える方法はないかとピニャーシュさんに相談してたようで、解体術や騎獣術を学んでいるのはそのための努力だったっぽい。
ピニャーシュさん、そのお話、初耳ですよ?
それを聞いたにぃにの、『役立たずはいらない』と言うスッパリ切り捨て発言にはビックリしたけれど、「春までの間、研鑽を積むように。それまでの間は同行を許す」と続けられてホッとした。
いや、恩返しなんて望んでないし、従者? だとか 侍女? みたいな人を連れ歩き気なんてない。
でも、それはそれとして、今のがんばり具合を見る限り、春までには自立できるようになるんじゃないかなーと思ったので。……うん、【加護の儀】を再来月に控えているダニーロとパオロも、三ヶ月――約四ヶ月もあればなんとかできるはず。
とりあえず、この件は春まで保留だね。
春までの間、彼らは引き続きピニャーシュさんの指導を受けることになった。その上でマルコとカルロはロイさんから護衛の心得を、サラとルカはクリスさんから従者としてのお仕事を学ぶっぽい。
なんか、課題が増えてるみたいだけど、がんばれー。
お次の議題は、旅程の確認。
最終目的地自体は、トニエ神国で変更なし。
このまま寄り道せずにまっすぐ行くのなら、冬になる前に目的地に到着することは可能なんだけれども――にぃには冬の間、リニャーリ王国の王都に滞在したいらしい。
ソルベル王国(今いる国ね)とトニエ神国の間にある国だから、別に遠回りをするわけでもないんだけど……うん、なんで?
「バッジの国神さまに聞いたんだけど、リニャーリの国神さまが訓練場を作っているらしいんだ」
「それで、そこに冬の間こもりたい……と」
「そういうこと」
施設は有料で、利用者のランクによって利用料が変わるっぽい。
ピニャーシュさんいわく「スキルの育成はできるが、経験が積めるわけではないつまらない場所」だそうだけど、むしろマルコたちには良さそげだ。
チラッと彼らの方に視線を向けると大きくうなずき返してきたから、きっとやる気。
やる気があるのはいいことです。
「今から向かうとなると、どれくらいかかるの?」
「明日の朝一で出発するのでしたら、三週間~ひと月でリニャーリの王都に着くでしょうが……」
クリスさんが予測をおしえてくれているのを遮るように、「勘弁してよ」とにぃにの声が割り込んだ。
「フェリシアがいなくなってから、ず~っと駆けずり回っていて疲れたし、しばらくのんびりしたい」
「……とのことですので、来月の終わりまでに到着できればよろしいのかと」
そう、だよね。
にぃには、いっぱいいっぱいわたしのことを心配して、あちこち駆けずり回ってたんだもんね。心労もあったかもしれないけれど、体の方だって疲れているに決まってる。
そんなことも考えられないだなんて、わたし、ダメダメすぎ……
「お嬢、お嬢。坊ちゃんの『のんびりしたい』はどっちかっつーと、お嬢と一緒に海遊びしたいの方だから」
ショボンとうつむいたところで、ロイさんがそんなことを言い出した。
「ロイ、疲れているのは本当だよ。でも、フェリシアすごい楽しみにしていたでしょう、海に着くの」
「うん」
「だから、僕も楽しみにしていたんだ」
なんか、口に出してくれてなかったものの色々と考えてはいたらしい。
港町での散策とか、食い倒れツアーとか、これはどちらもまだ途中。セーフだよ、セーフ!
でも、浜遊びもリストにあって、チビたちと一緒にすでにやってしまっていたことがちょっと後ろめたい気分になった。
ああ、でも。
今回はわたしも目一杯遊んでもいいのでは?
保護対象だった子供たちはもういないんだし。だとしたら、ソレはとても楽しみだ。
町の散策と食い倒れツアーだって、大勢で行ったらもっと楽しい。
「みんなで並んでお魚釣りもしたいよね」
「いいね、ソレ」
なんだかとっても不思議だね。
にぃにの周りにも、わたしの周りにも人が増えたはずなのに、前と変わらない空気感。
「でも、にぃに」
「うん?」
「ほかの人の意見は効かなくていいの?」
他の人というのは、主ににぃにについてきたクリスさんとかリリーさんだね。
「クリスは従者として、リリーには基本的にフェリシアの護衛をしてもらう形で雇用した形だからね。僕の行動がよほど常識はずれでない限りは『ダメ』とは言わないよ」
「『否』は申し上げませんが、助言はさせていただく所存です」
クリスさんとリリーさんは、にぃににとって雇っただけの人ってこと?
「ピニャーシュさんやロイさんとは違うの?」
「ふたりとも護衛ではあるけれど、ピニャーシュは爺や役を、ロイは兄貴分を兼任しているようなものだから――半分、家族みたいなものだよね」
ピニャーシュさんとロイさんは、雇い人扱いじゃないんだね。
「クリスさんとリリーさんは?」
「クリスは友達、リリーは兄嫁を兼任……じゃない?」
「なるほど」
友達と家族は違うけど、兄嫁は微妙なところだ。
「逆に聞くけど、フェリシアにとってあの六人はなに?」
にぃにが親指で示して見せるのは、マルコたちの方。
「庇護対象、かな」
とりあえず、今はまだ。
春になるまでは、たぶんそのまま。そのあとはまだ未定だけど……
「にぃにが合格を出したら、『半分家族』になると思う」
視界の端で、みんなの耳やシッポが嬉しそうに揺れる。
マルコとパオロはお空をピーンと指すように、サラとダニーロはブンブン激しく左右に揺れて。カルロとルカは、お耳がピココと恥ずかし気に左右に揺れる。
「――というわけでマルコたちは、毎日とは言わないけれど、三日に一度は遊びに付き合うように」
そう言って、ニッと笑うにぃにに、わたしも大きくうなずいた。
マルコたちはみんな頑張り屋さんだけれども、頑張り過ぎちゃうところがあるからね。気を抜くことは必要だし、自分から息抜きをできないならしなきゃいけない状態にもっていけばいい。
そもそもにぃには、春までに完璧な仕事ができるようになれって言ってるわけじゃないからね。
適度に気を抜きつつ前を向いて頑張ればいいんだと思う。




