ただいま
会食を終え、港神殿をお暇する前ににぃにが紹介したい人たちがいると言い出した。
「みなさん一階に居られますので、どうぞごゆっくりなさってください」
「お心遣い、ありがたく頂戴します」
神官さまはこの後、お仕事があるのでここでお別れ。
お礼を言って、部屋を出た。
「では、グラジオラスさま、フェリシアさま。ご案内します」
狼人のお兄さんが先に立って歩き始めるのに着いて行きながら、そっとにぃにの袖を握りこむ。
不思議そうな顔で足を止め、わたしを見下ろしたにぃには、一拍置いてからパッと嬉しそうな笑顔になる。
「フェリシア、お帰り。すごく、すごく頑張ったね」
「……うにゃ」
膝をついて目線を合わせてくれたので、にぃにの首にしがみつく。
「わたし、いっぱい、いっぱい頑張った」
「うん」
「でも、ひとりでお買い物行こうとして、ごめんなさい」
「うん。無事戻ってきてくれて、本当に良かった……」
背中に回された腕に、力がこもる。
苦しくならないように手加減してくれているのが分かる強さで。
「うにゃ……ただいま……遅くなってごめんね」
「ほんとだよ。僕が遅くなったらギャン泣きする癖に、自分の帰りが遅くなっても泣くなんてちょっとズルいんじゃない?」
「……コレは、体液」
「間違いじゃないけど、表現がおかしくない?」
スンとハナをすすりあげ、にぃにの肩に顔をうずめる。
そのまま抱き上げられて、背中をポンポンされたのにはちょっと文句を言いたくなったけれど、口を尖らせるだけに留めておく。
「歩けますよ?」
「だ~め。変な隙を見せて、まんまと捕まっちゃったフェリシアに対する罰ってことで」
「なんかズルくない?」
「ズルくないよ」
やっぱり、ズルいと思う。
だって、わたし。にぃにの顔を見ただけで、すごく安心したんだもの。
それをにぃには当たり前の顔して受け入れて、して欲しいって思ってたことをサラっとしてのけた。
にぃにの肩に頭をもたせ掛け、目を閉じる。
なんか、改めて『帰ってきた』気がして。
ほんの一年前には存在そのものも忘れかけてた人なのに、この短い期間ですっかり一緒にいるのが『普通』になってしまっている。すごく……すごく不思議。
にぃにのそばが、わたしの帰る場所になってるなんて。
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狼人のお兄さんに案内された先でまず紹介されたのは、新たににぃにの護衛になった獅子人のリリーさん。
「ロイと共に護衛に就かせていただく、リリーと申します。どうかお見知りおきください」
「彼女はバッジ王国の神殿守護兵として働いていたんだけど、ロイとそのうち結婚すると思う」
「ぼ、坊ちゃんっ」
「すぐにわかることだからね?」
キリっと凛々しく自己紹介したのに、にぃにが余計なことを言ったせいで、リリーさんはあっという間に恋する乙女に変貌してしまった。
慌ててロイさんが諫めようと飛び出してきたけど、にぃには涼しい顔でシッシと手を振り追い払う。狼人のお兄さんが額を抑える様子から、ここまでのあいだ、何度もあったやり取りなのがしのばれるね。
「グラジオラスさま、クソ親父は?」
「今、フェリシアの用事を済ませに行ってる。あとでちゃんと会えるから、自己紹介して」
「ミラよ。人さらいに売られそうになってたトコをグラジオラスさまに救われた。胤だけ撒いてトンずらこいた、ピニャーシュってクソ親父を探してるって言ったら、ここまで連れてこられたの」
フスフスと鼻息高く荒ぶる彼女に、ちょっと怯える。
これからきっと、ピニャーシュさんは試練の時を迎えるようなので、心の中でエールを送っておこう。
……ピニャーシュさん、頑張れ。
きっと、何の役にも立たないだろうけど。
「最後に、さっきから案内役を務めてくれているクリス」
「名乗り遅れまして申し訳ありません、フェリシアさま。バッジ王国神殿管理官補佐をしておりました、狼人のクリスティアンでございます。クリスとお呼びください。グラジオラスさまの行動力に感銘を受けると同時に危機感を覚え、同行させていただくことにしました。非才の身ですが、精いっぱい努めますのでよろしくお願いいたします」
なんか、覚悟ガン極まり系のヤバい目をしてる。
えっと、要約すると『いざという時の行動力はすごいけど、常識部分をフォローする人がいないとヤバくね?』と思ってるってこと?
……確かに、会食のときの会話を思い返すと必要な人材かもしれない。
にぃにもそうだけど、わたしだって一般常識に疎い自覚があるからね。是非とも、そういった知識を学ばせてもらわねば。
「グラジオラスの妹のフェリシアです。若輩者故、足りないものばかりですが、よろしくお導きくださいますようお願い申し上げます」
にぃにに床に下ろしてもらってから初対面の三人に頭を下げると、小さく狼狽した声があがる。
「(グラジオラスさまの妹なのに)謙虚……っ!」
……いや、にぃに。
一体この人たちの前で、どんな態度をとってたのさ?
絶対、第一印象は最悪だったよね、この様子だと。




