浜遊び 1
誰にとっても嬉しいことに、今夜の宿にと決めた祠から歩いて行ける場所に小さな砂浜があった。
大事なことだから、もう一回言っちゃうよ?
お泊りする場所のすぐそばに、みんなで遊ぶのにちょうど良さそうな砂浜がある!
今日はもう日も陰る時間帯だから浜遊びは無理だけど、明日なら早い時間から遊べそう。
それに、目的地も近いことだし、一日くらいならここでまるっと遊んでしまっても良いのでは?
あとで、ピニャーシュさんとも相談してみよう。
とりあえず現状は、「もうすぐ日が暮れるから、明日ね」で流すしかない。
みんなが期待していた砂浜が眼下に広がっているんだから、一刻も早く遊びたいって空気感も仕方ないんだけど。
ソルベル王国において祠は、村や町をつなぐ街道の中間地点に建立するものらしい。
今夜の宿に決めたここも、村と村の間――ちょうど、前の村を早朝に出ていたらお昼時ぐらいに到着しそうな場所にある。要は、ふつうならこの祠のまわりで寝泊まりすることは考えられてない場所なわけだ。
なので、ちょっと一休みするのには良いけれど、野宿するのに向いた地形にはなっていないんですよ。しかたがないので、食事だけは祠のそばで食べて、浜にほど近い草原を本日のお宿とすることになった。
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「――ということで、明日は一日、浜遊びの日です」
「「「「「「おおおおお!」」」」」
朝ご飯を食べながらの発表に、チビッ子たちが歓声を上げる。
昨日のうちにピニャーシュさんとも話し合った結果、『骨休め代わりにいいんじゃない?』ということになったのです。移動中、ほとんど遊んでいた気はするんだけど、長い時間馬車に揺られているのは確かに疲れる。振動関連はマシになったけれど、どうしても狭い場所にこもっているからね。
ここらで、ドドーンと一日遊び倒してうっ憤を晴らしてしまおうという訳です。
まずは浜辺の安全確保から。
コレは昨日考えていた通り、小さな浜の端から端までフォレルーポたちを走らせることにした。
とはいえ、ただ走らせるだけじゃチビッ子たちの満足感は得られない。三頭のフォレルーポの背中に七歳児三名プラスアリーチェちゃん(ギド君と同乗)を騎乗させ、エセレース形式で走ってもらう。
いやね、実際には一番先行する子が決まっているんですよ。
飛び出してくる槍貝にウッカリ当たってしまう事故が起きないように。
なにはともあれ、そんな出来レースには気づかず、キャーキャーワーワーとはしゃぐ声があたりに響いているので問題なさそう。
楽しそうで何よりです。
さてさて、お次は安全確保の仕上げ要員の出番だね。
八歳以上の七名が「槍貝でたぞ~!」と、歓声をあげながら大きなザルを片手に走り出す。
彼らは、フォレルーポたちが走る振動につられて飛び出した槍貝を、どれだけたくさん拾えるかを競う。
優勝者の商品は、なんと【お夕飯のメニュー決定権】。
今まで出さないことにしていたCランクのお肉も出すよと伝えたら、みんなそろって鼻息を荒くしていた。普段の食事にお肉が出ることも少ないそうなので、そのお肉の十倍の値段がするお肉だからね。
鼻息が荒くなるのも納得です。
ちなみに、わたしの手持ちのお肉はD・Cランク。
これは、基本的ににぃにの狩場が人里離れた場所だという部分が大きい。
なにせCランク以上なんて、魔獣領域に行かないといなしからね。Dランクなら、そこそこ人族領域でも見かけるレベルです。
逆に、Eランクまでの魔獣は人族領域でも人里に近い場所にしか存在しない。
そのせいもあってか、F~Dランクまでは、お肉の味に劇的な差はない。正確には味の差はあるんだけど、ランクが一つ上がったくらいだと気づきづらい程度なんだよね。さすがに二つもランクが上がったら、よっぽどの味音痴でなければ気づくと思う。
あ、GやHの味に言及しないのは食べたことがないからなんだけど……
そもそも、このランクの魔獣はとても小さい。丸焼きか姿揚げにすれば食べれなくもないだろうけど、わざわざ食べる気にならないサイズ感なんだよね……
なんとなくだけどDランクまでの味の差って、もしかしたら人族領域でも狩猟可能だというのも関係しているのかも。こう、魔素濃度的なアレコレが原因で、みたいな?
高魔素材はどれも味が良いので、個人的にはその可能性が高いと思っている。
「さて、みんなが遊んでいる間に休憩場所を作らなきゃだね」
「アタシの手伝いが必要って言ってましたけど、何をお手伝いしましょう?」
「サラさんにお願いしたいのは、日よけづくりなんだけど――」
休憩場所は波打ち際からある程度離れた場所に作る。
ただ、足元が砂なので土魔法で固めるのはちょっと厳しい。そこで、サラさんには幻影魔法で日よけを作ってもらおうと思っている。
『幻影で日よけなんて作れるの?』って思うかもしれないけれど、幻影魔法で作った幻はそのつもりで作らなければ光を通さないみたいなんだよね。
前に作ってもらった身代わりの幻も、触れないことがバレなければ本物と見分けがつかないほどの精度だった。透けないんですよ、ちゃんと呼吸していそうでビックリしたしね。
「真っ暗にはならないように光を遮れる幻影を、できるだけ広範囲に……やってみます」
そうして出来上がったのは、ゆらゆらと揺れてきらめく青いドーム状の空間だった。
なんか、水の中から空を見上げているんじゃないかって錯覚しそう。
とりあえず照り付ける太陽を防げて、適当に座ったり寝転んだりできるようになってれば休憩所としては十分だと思っていたんだけど、想定外に素敵な休憩所が出来上がってテンションが上がる。
それじゃあわたしは、休憩に来た子たちの小腹を満たす軽食でも用意するか。
ああ、飲み物も必要だね。




