買取トラブル発生中
狩人組合の登録と説明を聞き終えると、解体組は解体場へまっしぐら。
解体用の魔獣を持ち込めば、一日十ラーメで解体指導も受けられるというので、大喜びで手続きをして解体受付に走っていった。各自に渡してあるマジックバックに、解体する用の魔獣を入れてきていたとはなかなか用意周到です。
彼らの姿が解体受付に消えていくのを見送ると、わたしはピニャーシュさんと一緒に各種買取窓口に向かった。
各種買取窓口といっても、どうやらひとつの受付でなんでも買い取ってもらえるわけじゃないらしい。
カウンターには【薬草買取】や【食材買取】などのプレートが置かれていて、それぞれ担当の人が決まっているように見える。
「従魔の買取をおねがいします」
【従魔売買】プレートのコーナーに居たのは、鼠人のおじさん。
ピニャーシュさんよりちょっとだけ背が小さくて、獣相が濃い。ランチューとお顔が似ていて、肌が見えている部分が少ないと言えばイメージしやすいと思う。
彼はセカセカと書き込みをしていた書類から顔を上げて、迷惑そうに顔をしかめた。
長いおヒゲが小刻みに揺れているのは、ご機嫌ナナメだからかな?
「あまり低ランクの魔獣は買い取れんよ」
え、ちょ。ひどくない?
いきなり、低ランク魔獣って決めつけてますよ、この人。
ちょっと――いや、大分ビックリしながら再チャレンジ。
「フォレチェルの買取もダメですか?」
「お前さんのような子供がフォレチェルなんて従属できるわけがないだろう。ちょっとややこしい書類なんだ、邪魔をせんでくれ」
「ええぇ……」
なんというか、取り付く島もない。
シッシと手を払われ、わたしはしかたなくその場を離れた。
どうしたもんかな、アレ。
一瞬、ピニャーシュさんを見上げて、すぐに視線を足元に落とす。楽だからって毎回相談していたら、自分がダメになる。とりあえず、買取の人に売るつもりの従魔を見てもらう方法を考えねば。
窓口にいても邪険にされるだけなので、ポテポテと移動しながら考える。
そこでふと目に入ったのは、さっき会員登録をしてくれた受付の山羊人おじさんだ。持っていた書類の束を、【薬草買取】カウンターの人に渡している。
あ――コレってたぶん、買取トラブルの類なんじゃない?
だとしたら、山羊おじさんに相談できるのでは?
そう考えたわたしは、さっそく山羊おじさんの下に向かった。
「すみません、買取受付で売りたい従魔を見てもらえないんですが、どこに相談すればよいですか?」
山羊おじさんは、さっき登録したばかりの子供が戻ってきて驚いたみたい。
それでも、買い取りの鼠人おじさんよりは友好的な雰囲気だ。
「参考までに、買い取らせていただけるのはどのような従魔で?」
「騎獣にすることも可能なサイズのフォレチェルです」
「……一度、見せてもらっても?」
「構いません」
というか、買い取ってもらうためには一度、召喚しておかないとダメだからね。大した手間でもないので即座に頷き、建物の裏に向かう山羊おじさんのあとを追いかける。
指定された場所に、買い取ってもらうつもりで捕まえたフォレチェルを八頭とも出してしまうと、額に手を当ててお空に向かってため息ひとつ。
「大変申し訳ありません。係の者を連れてきますので、少々お待ちを」
しばらくして連れてこられた鼠人おじさんは、不機嫌な顔で謝ってから事務的に買取手続きだけをやって、即座に戻っていく。
引き渡し、まだ終わってないんだけどいいのかな?
「彼は、だいぶ猫人嫌いをこじらせておりまして……」
「ああ、鼠人に多いの」
「ええ。ですが、あの態度はひどすぎるので厳重注意しておきます」
そう言って山羊おじさんは頭を下げた。
ちなみに、午後からなら鼠人おじさんと鉢合わせせずに済むらしい。次の機会があったら、そうしようと思います。その後、山羊おじさんと入れ替わりで調教師の熊人おじさんがやってきて、やっとフォレチェルを引き渡して買い取りは終了。
フォレチェルたちは、一頭当たり八千四百ルーナと結構な高額で買い取ってもらえたので、懐に大分余裕ができた。ホックホクです。
ただねぇ、なんだか、気持ちだけがどっと疲れたよ。
「年かさの鼠人に多い反応だが、かなり極端じゃったな」
「きっとね、小さいさんにおヒゲを良く引っ張られるんだよ」
たぶん、現在進行形で。
わたしもちょっとヤバかった。ヒクヒク動くおヒゲが気になって気になって、全然目が離せなかったよ。
「アレは、ヤバい」
ヤバすぎる。
「フェリシア嬢は見た目では分からんが、案外、野性味が強いの」
「精神力は、魔石づくりで鍛えたからね。なんとか耐えられたよ」
自分で断言するのもなんだけど、『引っ張りたい』と強く思った。
きっと、衝動のままに襲われる本人はたまったもんじゃないと思うよね。なので、あの失礼過ぎる態度には、怒るよりも先に申し訳ない気持ちになってしまった。
「とりあえず、お互い心穏やかでいるためにも、次からは午後にこようね。ピニャーシュさん」
「うむ。それが良さそうじゃな」
それにしても、鼠人おじさんがほかの猫人さんにも同じような態度なのかな?
だとしたら、同僚の人たちは結構胃が痛い思いをしていそうだね。そのことは、ちょっと可哀そうに思います。(他人事)
「それで、フェリシア嬢。この後のご予定は?」
人さらい集団に攫われてから、二週間近く――奴隷船を逃げ出してからハテノナカ村に着くまでの間、わたしはほとんど気を抜ける時間がなかった。
そりゃあそうだよね。
逃げ出した先は魔獣がたくさんウロウロしている場所で、ピニャーシュさん以外に武術系スキルを身に着けているのは加護を授かったばかりの子がふたり。戦力的に、とても心許ない状況だった。
わたしは武術系スキルこそ持っていないものの、従魔術はそこそこ鍛えていたからね。
おかげさまでハニブーンやビリビリメリノを護衛役と使えたし、いざという時の避難所もあったからなんとか無事にここまで辿り着けた。
とはいえ、従魔に身の回りの護衛を指示しつつ、全員の食と住を賄わなきゃいけなかったんだからダラ~っとするような余裕はなかったんだよ。
なので、今日は久しぶりに息抜きをすることにしているのです。
もちろん晩御飯は用意するけど、それまではフリータイム!
きゃっほう~!!
「ん~……、今日はお休み。せっかくだから薬草採取にいこうかな」
「ああ――魔法薬の勉強を始めたと言っておったな。では、外に行くか」
「うにゃ」
なんか、ピニャーシュさんが「休み、とは?」と呟いているけど、気にしな~い!
やりたいな、と思ったことができるのがお休みですよ、ピニャーシュさん。




