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学園一の清楚聖女(実は重度のゲーマー)、ネトゲで煽り散らしていた相手が俺だと知って学校で震えている  作者: 古沢樹


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8/11

綻び

 学園祭当日。


 校内は浮足立った熱気に包まれ、色とりどりの装飾が視界を埋め尽くしていた。


 だが、その華やかさとは裏腹に、体育館のバックステージに控える白雪零奈の表情は、今にも崩れそうなほどに強張っていた。



「……白雪さん、顔色が悪いわ。大丈夫? 少し休む?」



 実行委員の女子生徒が心配そうに声をかける。白雪は、反射的にいつもの「聖女」の微笑みを張り付かせた。



「ええ、少し緊張しているだけですわ。大規模なイベントですもの、不手際があってはいけませんから。……心配してくれてありがとう」



 完璧な受け答え。


 だが、その指先はドレスの裾を強く握りしめ、かつてないほど激しく震えていた。


 これから始まるのは、プロゲーマーを招いた『アステリア・ファンタジー』の特別エキシビションだ。


 白雪は実行委員長として、運営用のハイスペック端末を使い、大スクリーンでゲームの基本システムを実演する役割を担っている。



「(……あぁっ、もう! ステージの立ち位置、進行表、機材の接続……覚えることが多すぎて、脳内MPが枯渇しそう……っ!)」



 周囲に人がいなくなった一瞬、彼女は「聖女」の仮面を剥ぎ取り、懐から自分の私物スマホを取り出した。


 この極限状態のストレスを中和できるのは、世界でたった一人しかいない。


 彼女は震える指で、カズキへメッセージを連射した。



『ちょっと! どこにいるのよクソ無課金! あんたの冴えない顔を見ないと、緊張でステージ上で吐きそうだわ!』



 すぐに既読がつく。



『客席の中央、三列目にいる。……落ち着け。お前の実力なら、目をつぶってても基本操作くらいできるだろ』



 そのぶっきらぼうな返信を見た瞬間、白雪は小さく息を吐いた。


 指先の震えが、わずかに収まる。



「……ふん、言うじゃない。……見てなさい、あんたに仕込まれたプレイスキルを全校生徒に見せつけてやるんだから」



 高揚感と焦りが混濁する中、放送が「イベント開始5分前」を告げる。


 白雪は、机の上に置かれた運営用の配信端末――自分の私物と同じ機種、同じ色のスマホを手に取った。



「白雪さん、準備はいい? プロの方が入場されるわ!」


「えっ!? ええ、完璧ですわ……!」



 だが、その時。


 舞台袖の騒がしさに気を取られた彼女は、無意識に運営用のMHL変換アダプタ(画面出力用ケーブル)を勘違いして、自分の私物スマホの方へ差し込んでしまった。


 そして、彼女は自分の犯した「致命的なミス」に気づかぬまま、聖女の微笑みを湛えてステージへと歩み出る。



 破滅へのカウントダウンが始まったことに、まだ誰も気づいていなかった。

次の更新は明日の予定です。

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