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学園一の清楚聖女(実は重度のゲーマー)、ネトゲで煽り散らしていた相手が俺だと知って学校で震えている  作者: 古沢樹


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9/11

聖女の守護者

 体育館の照明が落とされ、数百人の視線がステージ中央へと集まる。


 割れんばかりの拍手の中、白雪零奈はスポットライトを浴びて登壇した。


 その立ち振る舞いは優雅そのもので、純白のドレスが光を反射し、彼女を本当の聖女のように見せている。



「皆様、本日はようこそお越しくださいました。実行委員長の白雪零奈です」



 マイクを通した彼女の美声が館内に響き渡る。


 イベントの進行は順調だった。


 プロゲーマーとのトークが盛り上がり、いよいよ大型スクリーンを使ってのデモンストレーションが始まる。



「それでは、私の方で実際のプレイ画面を投影いたします。少々お待ちください」



 白雪は手元のスマホ――彼女が運営用だと思い込んでいる、自分の『私物』――の画面を点灯させた。


 その瞬間、体育館の壁一面を覆う巨大スクリーンに、眩いばかりの映像が映し出された。


 映し出されたのは『アステリア・ファンタジー』のログイン画面だったが、問題はその上に表示された「通知センター」だった。



『通知:カズキ【クソ無課金】』



 館内が、一瞬だけ奇妙な静寂に包まれる。


 それに白雪はまだ気づいていない。


 彼女は「投影スイッチ」を入れたことに満足し、プロの方を向いて微笑んでいた。



「……お、おい……なんだよあのアカウント名……」


「カズキ……クソ無課金……?」



 客席から、ざわざわとした困惑の声が上がり始める。


 追い打ちをかけるように、画面上で更なる通知が流れていった。



『通知:カズキ【クソ無課金】

 メッセージ:緊張してんのか白雪? 安心しろ、お前が噛んでも誰も聖女(笑)の化けの皮が剥がれたなんて思わないから』



 その瞬間、客席の数人が息を呑む音が聞こえた。


 さらに通知は止まらない。


 白雪が直前に送っていたメッセージのプレビューまでもが、連鎖的に表示されていく。



『通知:送信済みメッセージ

 「あんたの冴えない顔を見ないと、緊張でステージ上で吐きそうだわ!」』



 最前列の生徒たちが絶句し、ざわめきが怒濤のような騒音へと変わっていく。


 ようやく異変に気づいた白雪が、ぎこちなく首を回して背後の巨大スクリーンを仰ぎ見た。



「え……?」



 そこには、自分とカズキがこれまで繰り広げていた、およそ聖女に似つかわしくない罵詈雑言と、依存心の塊のようなやり取りが、これ以上ないほど鮮明に映し出されていた。


 白雪の顔から、一気に血の気が引き、手に持ったスマホがカタカタと音を立てて震え出す。


 昨日までの「バレたらどうしよう」という不安ではない。


 それは、自分の世界が今この瞬間に音を立てて崩壊していく、死に等しい絶望だった。



「あ、あ、ああ…………っ」



 白雪の唇が戦慄き、声にならない悲鳴が漏れる。


 その完璧な仮面が、全校生徒の前で粉々に砕け散ろうとしていた。



「(――終わりだ。私の、人生……っ)」



 頭が真っ白になった白雪は目を閉じ、これから訪れるであろう罵倒と軽蔑の嵐に備えて、ただ身を強張らせることしかできない。


 そして、次のメッセージが読み込まれようとしたその時――



 ガシャーン!!



 体育館に響いたのは鋭い破砕音だった。


 人々の視線が音の方へと集中する。



「おっと、失礼」



 見ると、舞台袖の運営デスク付近で、一人の生徒が片膝をついていた。


 佐藤カズキだ。


 彼はあえて目立つように足を引っかけ、運営用機材の電源タップを強引に引き抜いた。


 次の瞬間、ブツリと巨大スクリーンの映像と照明が消えると、暗幕に覆われた体育館が一瞬で暗闇に包まれた。



 ザワザワ、ザワザワ――



 次々と起こるハプニングに館内が騒然となる。


 その隙に、カズキは素早くステージへと駆け上がった。


 彼はうずくまりそうになっていた白雪の肩を抱き寄せると、その耳元で声を低くして囁いた。



「……後は任せろ。スマホをよこせ」


「さ、佐藤……くん……?」



 白雪が涙のたまった瞳を上げる。



「とにかく俺が何とかするから、お前は聖女のまま、適当に話を合わせろ。……いいな?」



 カズキは彼女の手から私物スマホを奪い取ると、代わりに自分の端末をMHL変換アダプタへと繋ぎ直した。


 運営スタッフが慌てて予備の電源を入れると、再びスクリーンと照明が点灯する。


 そこに映し出されたのは、カズキの無機質なホーム画面。


 通知など一つもない、徹底して管理されたゲーマーの端末だった。



「えー、皆様、失礼いたしました! 今の映像は、本日のエキシビション前の『サプライズ演出』です!」



 ステージ上のカズキはマイクを掴み、何事もなかったかのように堂々と会場を見渡した。



「最近よくある『清楚系キャラの裏アカ流出』というネットミームを模した、プロの方との対戦前のジョーク映像だったのですが……切り替えのタイミングを間違えてしまいました。白雪さんは、あまりに酷い台本だったので、ショックを受けて固まってしまったようです」



 会場に「なんだ、演出かよ」という、安堵と失笑が混じった空気が広がる。


 白雪はその言葉に弾かれたように、震える膝に力を込めて立ち上がった。



「……え、ええ。想像以上に……お下品な内容でしたので、驚きで声が出ませんでしたわ。皆さん、取り乱してしまい申し訳ございません」



 白雪は、先ほどまでの絶望を「ショックを受けた演技」へと昇華させ、ハンカチで目元を拭う仕草を見せた。


 その完璧なリカバリーに、疑いの目を向けていた生徒たちも「可哀想に」と同情の声を上げ始めた。


 聖女の窮地を、一瞬の機転と「悪役」を買って出ることで塗り替えたカズキは、プロゲーマーに向き直ると不敵な笑みを浮かべた。



「お待たせしました。悪ふざけはここまでです。白雪実行委員長の代わりに、この僕が、プロの方との対戦で本物の『技術タクティクス』をお見せしましょう」



 謎の生徒によるプロゲーマーへの宣戦布告に館内がざわめく。


 そしてカズキはステージの椅子に座り『アステリア・ファンタジー』を起動した。


 スクリーンには、装備の装飾を極限まで削ぎ落とし、実用性のみを追求したカズキの『漆黒の剣士』が立っている。



「……佐藤くん、本当に行くの?」



 白雪がマイクを通さず、微かな声で尋ねる。


 カズキは前を見据えたまま、短く答えた。



「お前が俺に何を教わってきたか、全校生徒に見せてやるよ」



 白雪は彼の背中を見つめながら、ドレスの裾を握っていた手の震えが、今度は別の理由で止まらないことに気づいていた。


 だが会場の空気は、いまだ半信半疑の熱に包まれていた。


 対戦相手のプロゲーマー、レオンが不敵に笑い、操作端末を手に取る。



「さっきのジョークは良く出来てたけど、腕の方はどうかな? 悪いけど、素人相手でも手加減はしないよ」



 そしてカウントダウンが始まり、試合が開始された。


 レオンが操るティアランク最上位のアバターが、モーションキャンセルを駆使し、目にも止まらぬ速さで魔法の弾幕を放つ。


 会場の誰もが「一瞬で終わる」と思ったが、カズキの漆黒の剣士は、一歩も引かなかった。


 無数に降り注ぐ魔法の着弾点を見切り、最小限の動きで回避ステップを繰り返す。


 それも単なる回避ではない。


 プロでも難しい、攻撃が当たる直前の数フレームでのみ発生する『ジャスト回避』を、呼吸をするように連続で成功させていたのだ。



「なっ……!? 全段ジャスト回避!!?」



 レオンの驚愕がスピーカー越しに館内に響く。


 その間にもカズキの指先は、まるで精密機械のように動き続けていた。


 無課金装備ゆえの低い攻撃力を補うため、彼は相手の弱点部位だけに、寸分狂わぬ一撃を叩き込み続ける。


 そのプレイスキルは、『アスファン』を知らない者にすら理解させるほどの、超絶技巧だった。



「す、すげぇ……っ」


「プロの方が押されてるぞ……!」



 スクリーンに映る戦いに、体育館全体がどよめきに揺れる。


 圧倒的な火力を誇る「プロ」を、洗練された技術のみで圧倒する「素人」。


 その構図は、会場にいた全校生徒の心を一瞬で掴む。


 それはもはや、ゲーム観戦の域を超えたエンターテイメントだった。



「いけ……っ! そこだ!!」


「佐藤、やれええええっ!!」



 いつの間にか、客席からは割れんばかりの歓声が上がり、白雪はステージの端で、その光景を呆然と見守っていた。


 カズキが画面を操作するたび、端末を持つ手が力強く動く。


 それは自分の醜態を隠すために盾となり、泥を被ってくれた男の背中だった。



「――頑張れっ、カズキ!!!」



 感情の溢れた白雪が、聖女であることも忘れてカズキに声援を送る。


 そしてカズキが放った最後の一撃――相手の最大魔法を正面からパリィして、その威力を上乗せして返す奥義が炸裂した。


 画面に大きく『VICTORY』の文字が躍る。


 一瞬の沈黙の後、体育館が爆発するような熱狂に包まれた。



「「わああああああああああっ!!!」」



 プロを相手に、素人が無課金のアカウントで勝利する。


 その伝説的な瞬間を前に、先ほどの「流出騒ぎ」の不信感は、完全に過去のものへと押し流されていた。


 カズキはほっと一息つくと、まだ興奮冷めやらぬ会場を一度だけ見渡し、後ろで震えている白雪へと歩み寄った。



「……はい、白雪実行委員長。『演出』は、こんなところでいいですか?」



 彼が笑顔で差し出したのは、彼女の私物スマホだった。


 白雪はそれを受け取る時、自分の指が以前のような「恐怖」ではなく、胸の奥から湧き上がる「高揚」と「熱」で震えているのを感じていた。



「ええ……。完璧でしたわ。佐藤くん」



 彼女は再び、ステージの上で聖女の微笑みを浮かべた。


 しかし、その眼差しは、初めて偶像アイドルとしてではなく、一人の少女として、目の前のヒーローだけを熱烈に映していた。

次の更新は15日の予定です。

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