57 巫女キック
巨大隕石は大気圏直前まで迫っていた。
「いいから蹴とばせ~っ!」
『巫女キーーーック!』
カシャ ブンッ クィーン
装填スイッチが入ったのか、鈍い振動とともに砲弾は厚い砲塔に飲み込まれた。
古代の砲弾は正常に装填されたが、さらに心柱のランプも一斉に点灯した。
『はえっ?』
=迎撃装置始動
心柱壁面の全ランプが激しく明滅した。
=主鏡キャリブレーション開始
天ヶ崎の外壁主鏡が次々とクエーサーに角度を合わせていった。
=相輪偏向装置起動
千年ぶりに通電された相輪偏向装置がブンッとうなりをあげる。
=重力加速器始動
心柱全体を構成する重力加速器が高次元フィールドを生み出し始める。
=主鏡キャリブレーション完了
主鏡のキャリブレーションが完了し、ターゲットの探査を開始。
=相転移砲準備完了
心柱に飲み込んだ相転移弾の発射準備完了。
=迎撃準備完了
=目標捕捉
ー対閃光防御スクリーン展開します!
『発射ランプ』が眩く点灯した。
「美琴いけ~っ!」
思わず叫んでいた。
『いっちゃえ~っ!』
パシュ
美琴は思いっきり発射ボタンを叩い込んだ。
上空では巨大隕石が大気圏に突入して強烈な閃光を放ち始めた。
ドッッッッッシューーーーーーーーーーーーッン
地響きとともに古代砲が七次元の超加速を加え、多面体の相転移砲弾は真っ白な心柱を駆け上がった。
宝石のような砲弾は相輪偏向装置で軌道修正した後、あたかも龍が天空に駆け上がるかように大気を切り裂いて上昇した。
空気が震え五重塔が揺らいだ。
『きゃ~~~~~~っ』
バッッッシャャーーーーーーーーーーーーーーッ
天頂から襲い来る光の塊に真っ白な多面体砲弾が着弾すると、一瞬のうちに砕けて巨大隕石の全質量をプラズマ化した。
それは、まるで白色矮星が誕生したかのような光球となり、その内部ではプラズマ粒子が渦巻きイナズマが花火のように走り回った。
ッッッッドッオオオオオオオーーーーーーーーーーーン
少し遅れて衝撃波が地上に到達した。
『『『『『『うわ~~~っ』』』』』』
果敢に魔動機関砲を操っていた迎撃隊も、目の前で繰り広げられる「天変地異」には二の句が継げず、魔動機関砲の座席にしがみ付いて固まっていた。
もちろん、彼女たちは次元バリアと閃光防御スクリーンで護られている。それでも思わず顔を背けてしまうのは仕方ないことだ。
轟音はこだまのように何度も何度も反射して轟いていた。
どうなった? これ、聞いていいのか?
「三鈴! 状況は?」
-何が起こったのか正確に伝えることは困難ですが、対象の巨大隕石は跡形もなく完全に消失しました。
完全に消失したっ?
「ほ、ほんとか?」
-はい、間違いありません。
「や、やった~~~っ!」
『『『やった~~~~~っ』』』
『『『『おおおお~~~~っ』』』』
迎撃隊も魔動機関砲の台座から飛び降りて大騒ぎだ。
天上に発生した眩い球体は急速に縮小して黒い雲へと変わっていった。
『やったよ、りゅういち~っ』
「美琴! いいキックだ~っ!」
『えっへへ~っ』
『お前ら! よくやった~っ。大成功だ~っ』
西園寺の迎撃隊も境内の魔動機関砲台の座席で右腕を大きく振り上げた。
『だいせ~こ~っ!』
『どんなもんだ~いっ』
『ちびった~っ』
巨大隕石の残滓と思われる砂が舞っていたが一陣の風に飛ばされていった。
空にはまだ小さい火球が流れていて、今も真夜中とは思えない恐ろしい情景ではあるが、それでも歓喜の明かりが灯っているように見えるのは俺の錯覚なんだろうか?
-本日の迎撃対象は、すべて無くなりました。
ほどなくして、三鈴AIから報告があった。
『よし。迎撃隊、撤収だ~っ!』
それでも、しばらく空を見上げていた西園寺だったが意を決して号令を発した。
『『『『『『は~いっ』』』』』』
疲れてはいるが笑顔の迎撃隊の巫女と討伐ネギたちは次元フィールドに護られた社務所に退避していったのだった。
* * *
ここは、異世界との通信を終えたあとの開発室。
「それにしても、よく間に合ったわね!」
「ホントだな」
「ああ、まだ信じられない」
-はい。迎撃には失敗する筈でした。五重塔本来の迎撃システムが復活して、最適解を叩きだした模様です。相転移砲の威力が絶大でした。
「相転移砲って拡散弾みたいな奴だろうな?」
「恐らくそうね。隕石は瞬時に粉々になったみたい」
「隕石特化の砲弾だな。対閃光防御は三鈴が展開してくれたのか?」
そう言えば、そうだったな。
-はい。相転移砲という名前から、強烈な閃光が発生すると予想しました。
住民はみんな地下に避難しているからいいとして、地表にいた巫女たちは危なかったな。
「五重塔って、対閃光防御だったんじゃないか?」
乙羽が鋭い指摘をした。確かに、五重塔の屋根も純金製だ。こんな強烈な閃光を発する砲弾を使うなら、操作する人間を保護する必要があるもんな。
良くできたシステムだ。
「しかし、千年放置されてたのに、なんで動いたんだろう?」
「普通はありえないでしょうね」
「無理だろうな」
-起動する確率はほとんどゼロでした。
「確率? 確率かぁ」
殆どゼロの確率。ほとんど。でも、ちょっとだけあった?
「なに?」
「いや、確率の問題なら」
俺は、思わずWebカメラを見た。
「もしかして」
「そうか、魔石の力が働いたのか?」
「巫女キックの時の美琴の願いが届いたのね!」
「たぶんな!」
「あの時か!」
そう、巨大砲はあった。どんなに古い大砲でも十分な性能の大砲が。
だから確率はゼロにはならなかった。
そして巫女の強い願いがあった。
魔石とともに。
「魔石が、この可能性に集束させたんだな」
「そういうことね!」
「ホントかよ!」




