55 古式迎撃システム
乙羽は五重塔が反射望遠鏡だと言い出した。
「えっ? 五重塔が反射望遠鏡ってこと?」
「正しくは、町全体が反射望遠鏡だ」
「マジか!」
「お、驚いたわね!」
俺たちは改めて外壁を眺めてみた。
確かに、この街の外壁は正確に円を描いている。そしてその内側に湾曲した屋根が取り付けられていた。
外壁が高いのはこういう理由か!
「ってことは、ここには副反射鏡がある筈だよな?」
「ああ、相輪の辺りにな!」
そう言って、菅野宮司を見た。
相輪って言うと、この心柱のさらに上だ。
『そ、相輪の付け根には透明なガラス細工がございますが?』
菅野宮司がおずおずと言った。
「それだ! じゃぁ、これは超大口径の反射望遠鏡だ!」
「街自体が反射望遠鏡とは驚いたな!」
「そうね。でも、そんな大きなものが必要なの?」
「ん? 口径が大きくなればなるほど分解能が上がるんだよ」
乙羽がドヤ顔で説明した。
「つまり、超高解像度の反射望遠鏡ってことか?」
「たぶんな。純金の反射鏡なら赤外線で探知していたんだろう。それなら暗闇の宇宙空間にある隕石でも探知できる!」
そういうことか!
いきなり、おとぎ話じゃなくなってきた。これは隕石に特化した迎撃システムだ。
「とはいえ、今じゃ使えないだろうけどな。今でも角度を調整できるとは思えない」
「ああ、そうだな。反射鏡はキャリブレーションする必要があるものな」
正確な望遠鏡の鏡として使うならクエーサーなどを使って精密な角度調整が必要になる。
「千年経ってるんだもん、仕方ないよね」
今はともかく、古代砲とは巨大な反射望遠鏡を使った迎撃システムだったようだ。これなら確かに隕石を迎撃できただろう。昔なら。
「で、この大砲の規模はどうなんだ?」
「まだ分からない。砲弾でもあれば良く分かるんだが」
『砲弾ですか。それなら、あるかもしれません』
菅野宮司は一階の壁際の祭壇までみんなを連れて行った。
『これです。この宝石のようなものが砲弾では?』
見ると、祭壇には、しめ縄のかけられた1mほどもある白い多面体の円筒が鎮座していた。
「これだ!」
乙羽は、これが砲弾だと言う。だが、それは特異な形状の砲弾だった。
いや、砲弾の形はしているのだが、見たことない多面体に成形されていた。表面はチタン骨のような半透明なもので覆われていて、ダイヤモンドのカットのようにキラキラと輝いている。
まるで宝石のように美しい砲弾だった。
その後の調査で、砲弾は約500kgほどの重量であることが分かった。ただ、内部構造については全く分からない。
また、撃ち出す機構も分からなかった。
砲弾に炸薬はなく装填する場所もなかった。いわゆる大砲ではないことがわかる。形式的には俺たちの魔動機関砲に近いものだと思われるが詳細は不明だ。
「単発式の恐らくレールガンあるいはコイルガンのようなものだろうが、コイルガンで500kgの砲弾をあの長さで撃ちだすのは無理だろうな」
「もしかして、超電導を使ってるんじゃないか?」
「そうかもしれないけど」
魔石の常温超伝導体なら使っているかもしれない。しかし、心柱の近くで人間が操作すると考えると人間が耐えられないような磁界を発生する方式は使えないだろう。
謎の発射装置だ。
「いずれにしても、この砲弾で迎撃したとすれば10mクラス以上の可能性が高い」
やっぱりな。
伝説の巨大隕石は10mクラスか!
ん? 以上?
「もっとでかいのも、迎撃できるのか?」
「そりゃ、エネルギー次第だよ」
「じゃ、これで今度の巨大隕石も迎撃できるわけか?」
「たぶんな。まぁ、動けばの話だが」
「とりあえず、魔石を入れてみましょうよ」
時間がない。まずは、動作を確認しなくちゃな!
さすがに一発しかない砲弾を入れてテストはできないが、そのまま魔石を入れてみることになった。
『では、すぐに用意しましょう』
そう言って、菅野宮司は魔石を取り寄せた。
必要な魔石の数は10個だった。
魔石を全部はめ込むと、ヴーンというハムのような起動音がしたあと、しばらくランプがチラチラしていたが、すぐに静かになった。そしてそこには一つのランプだけが点灯していた。
ランプの下には「手動」と書いた刻印が貼ってあった。
「手動? 古代砲よね? なんで日本語なのよ」
「ちょっと雑に貼ってあるな?」
「後で貼り直したんじゃないか?」
刻印がちょっと気になるが、今はそれどころではない。
古代砲のパネルには「自動」の刻印のランプもあるのだが点灯していない。自動ランプの近くには他にも何個もランプがついているのだが、どれも暗いままだった。恐らく自動制御するための機構が動いていないと思われる。当然と言えば当然だ。
手動ランプの下には発射ボタンが付いているが、これも今は点灯していない。これは砲弾が装填されていないからだろう。
「使えるのは手動だけか!」
まぁ、そうだろうな。たとえ手動だけでも古代の大砲が使えるほうがおかしい。
「でも、砲弾を発射できるとしても、固定砲台じゃ隕石を撃ち落とすのは無理ね」
荻野の言う通りだ。隕石を撃ち落とすには軌道を追尾する必要があるからな。
「そうだな。残念だが、これは諦めるしかない」
「仕方ないな」
地球の技術に近い設計のようなので、すぐにでも使えそうに見えるのが歯がゆいところだ。だが、今の地球でも千年経っても使えるシステムなんて作れない。手動でも動くとしたら奇跡に近い。だが、それだけでは隕石の迎撃なんて出来ないのが惜しいところだ。
『そうですよね』
菅野宮司もがっくりと肩を落とす。
『三鈴はどう思う?』
美琴は諦めきれないのか三鈴AIに声をかけた。
-固定砲台だとしても、使える可能性はあります。
三鈴AIは自信ありげに言った。
なんだって~っ?
-大まかにでも角度を設定できれば、巨大隕石のコースを修正して大砲の軸線上に誘導することが出来るかもしれません。
「なんのことだ?」
「誘導? どうやって?」
「まさか、魔動機関砲でやるのか?」
-はい。魔動機関砲で隕石のコースを修正します。直接迎撃ではなく偏向射撃を実施します。コースを修正するだけなら、六台の魔動機関砲でも可能な筈です。
マジかよ。
つまり、巨大砲を可能な限り隕石の軌道にセットしておき、魔動機関砲を使って巨大砲の軸線上に追い込むってことのようだ。
修正可能な範囲内なら迎撃が可能になる。
今回は直上コースだからな。修正もあまり多くはないだろう。それなら、今あるもので何とかなるか!




