52 一鈴作戦
ここは夜中の3時過ぎの開発室。この時間になると星降りは終了する。
「この時間なら寝られるわね。シャワー浴びて寝るわ」
「了解!」
荻野は疲れた顔で開発室を出ていった。
「やっぱり、大変なことになったな」
「ああ、伝説の通りってわけだ」
そう言って乙羽は携帯食の残りを口に入れてゆっくりと咀嚼した。
「今はいいが、このまま隕石が増えたらやばいな」
「そうだな。二個同時に来られたらアウトだ」
そういえば、全く想定してないな。
「未来改変装置が欲しいところだが」
「人工魔石も出来てない状態じゃどうにもならないな」
まぁ、まだ夢みたいな話だけどな。
「どんな巨大な魔石が必要になるんだろうな?」
「どうだろうな? 現状の有効範囲は半径10mだからな。ちょっと想像もできないな」
「そうだよな。小さすぎる。ん?」
「なんだ?」
「いや、本当に小さすぎるのかな?」
「どういうことだ?」
「ああ、次元フィールドの有効操作範囲は確かに10mで合ってると思うんだけど」
「うん?」
「確率操作の範囲が10mとは検証されていない」
「そうだったか?」
「次元フィールドは、世界の境界だよ? そう簡単に操作できる対象じゃないんじゃないか?」
「ああ、確かにな。ってことは?」
「隕石ごときなら、もっと遠くても操作できるのかも」
「ああ、そうか。次元フィールドが届く必要ないのか」
「そうだよ。地獄の針落としも、別にフィールドを展開してたわけじゃない」
「お~~~っ! ってことは、小さい魔石でも隕石の軌道をそらしたりできるのかもな!」
「要はコースが外れればいいんだ!」
そんな風に熱く語っていたら、いきなり開発室のドアが開いた。
「あんたたち煩い! いつまで喋ってんのよ!」
荻野が乱入してきた。そんなに、煩かったか?
「で、なに? 何かあったの?」
煩いと言った割には興味津々だ。あと、パジャマのままだけどいいのか? って、聞かないほうがいいか?
仕方なく、今の魔石の能力の話をしてみた。小さくても何とかなる可能性を。
「それ、先に言いなさいよ!」
いや、今思いついたんだけど?
「そうよね。うん、確かにそう。ちょっと迎撃に気を取られ過ぎたわね!」
荻野は目を爛々と輝かせている。
「そうなったら、魔石をありったけ集めなくちゃね!」
「うん? どうするんだ?」
「決まってるじゃない、一鈴を沢山作って住民に渡すのよ」
「一鈴を?」
「にぶいわね~っ、住民の願いは隕石回避に決まってるでしょ~っ?」
「あ~っ、なるほど。そう来たか!」
「そう来たわよ」
「そう来るよな」
俺たちは、さっそくこの件を菅野宮司に連絡して、魔石をありったけ集めてもらうようお願いした。これで、やっと安心して眠りにつける。
* * *
翌日の夜も、当然のように1mクラスの隕石が襲来した。
今夜も2個落ちて来たが、間隔は1時間と短かった。そう、隕石は平均して降ってくるわけではない。一部は引力の関係で集合していることもある。
『魔石は一鈴にするだけで良いのでしょうか?』
技術ネギの風雲寺だ。
「それでいい筈です。住民の願いをかなえるだけですから」
『なるほど。そういう効果があるとは思ってもみませんでした』
『いえ、それはありえますね。今までも街の外のほうが隕石は多かったと思います』
菅野宮司が思い出して言った。
『つまり、以前から一鈴や三鈴の効果が多少あったと?』
『そうですね。ただし、小さい隕石でしたから良かったのかもしれません』
さすがに、魔石の影響力は分からない。今話題にしている1mクラスの隕石にどれだけ有効なのかは不明だ。
「それを、数でなんとか出来るかが鍵ですね」
『はい。でも、それが本当なら、他の街でも希望が持てることになります』
菅野宮司は期待する目で言った。
確かに、隕石の迎撃は天ヶ崎でしか出来ない話だ。しかし、一鈴の作戦がうまくいけば、すべての街で隕石を回避できるようになるかもしれない。
『全力で作ります』
そう言って風雲寺ネギは工房に走っていった。
そして次の夜、1mクラスの隕石は3個迎撃した。
確実に増えているということだ。一刻の猶予もない。
そして、その日の内に百個の一鈴が作られシェルター内の住民に渡された。もちろん、魔石との相性があるので一鈴を住民全員が持てるわけではないが、相性テストは殆どの住民がすでに実施していることなので特に支障は起こらなかった。
* * *
次の夜、百人の一鈴を持つ住民の願いは見事にかなうことになった。
翌日の午後、起きだしたばかりの俺たちに一鈴作戦の結果を早口に報告する菅野宮司がいた。
その夜、1mクラスの隕石は一つも街に落ちることはなかった。また、これを受けて、菅野宮司は暫定ではあるが近隣の街へ隕石回避方法を連絡したとのこと。まだ、1日だけの成果だが、早めに一鈴を作るに越したことはない。ダメもとだからな。
『これで、もう大丈夫でしょうか?』
菅野宮司は、まだ不安のようだ。
「迎撃のシステムは動いていますから1mクラスなら天ヶ崎は大丈夫でしょう。さすがに10mクラスが来たらヤバいですが」
さすがに10mクラスなんて小惑星はそうそう落ちてくるものではない。
惑星誕生の頃からの小惑星帯なら、すでに軌道上から大部分は掃討されているはずだ。また外宇宙から突然現れる場合もあるが、これは軌道が全く異なるので毎年来るようなことにはならない。
ただ、小惑星帯は少しづつ軌道がずれるのが普通だ。そしてその中に大物が残っている可能性は確かにある。
菅野宮司は何か落ち着かない様子だったが何も言わなかった。
実際、その後は街に直撃するコースの1mクラスの隕石はあまりなく、1度迎撃しただけで星降りの三週目を迎えることとなった。




