44 刈沢村
刈沢村へ到着して分かった。エレファンタスとその他の魔物は、刈沢村を通って来たということを。
いや、通って来たというより、かすめただけかもしれない。なぜなら、外壁はまだ残っていたからだ。魔物たちの傷跡が生々しいが、なんとか街を護れたようだ。
エレファンタスが直撃していたら外壁は跡形もなかっただろう。
そんな状況なので、俺たちが近づいていくと門の上には呆気にとられたこの街の討伐隊がいた。
なにしろ、俺たちより骨のほうが大きいからな。エレファンタスのスケルトンのように見えるだろう。
『お、お前たち! お前たちは誰だ? それは何だ?』
門の上から誰何された。
『我らは、天ヶ崎から来た「鏡合わせの巫女」と討伐隊だ!』
西園寺が声を張り上げて応える。
『りょ、了解した。直ぐに門を開ける。ちなみにその骨は何だ?』
『これは、エレファンタスの骨だ。直ぐそこで討伐したものだ!』
『な、なんだと~っ。本当か! いや、本当だな! おお、助かったっ! やったな~っ!』
門の上から歓声があがった。
討伐隊以外にも街の住民総出で対処していたようだ。伝説級の魔物に襲われたのだからな、当然と言えば当然だ。あれはスタンピードと言うべき状況だったのだろう。
後で聞いた話だが、この伝説級の魔物は討伐対象ではなく、ひたすら回避することしか考えられていない存在なのだという。それを途中で見つけたから討伐してきたと言ったら普通驚く。
『ちょっと、待ってくれ。門を全開にしにと入れないだろう?』
魔動車2台の上に被せるように乗っているというか、浮いているエレファンタスの骨。さすがに、街の門を全開にしないと入れることができない。両開きでズズズズッとゆっくりと開いていった。
その間に、中の住民にエレファンタス討伐の知らせがつぎつぎと届く。
いろいろと騒いでいるのだが、何を言っているのかは分からない。ただ、同じ単語の言葉は分かるつまり、
『みこさま~っ』
『み~こ、さま~っ!』
『み~こ、さま~っ!』
大喜びで門に殺到する住民たち。
やっと開いた門に静かに入っていく巨大な骨を浮かせた巫女の車。異常な景色になっていた。
「既に、お祭り状態になってるんだけど?」
「巫女がいるだけに、お祭りは不思議じゃないが」
「っていうか、妙にヒートアップしてるよな」
まるで、神輿や山車のようなことになってる。
といって、もうこれ誰にも止められないし、止めたら大変なことになりそうだし、このまま刈沢村の神社まで行くしかないよな?
巫女の行列は周りを街の討伐隊に護られながら静かに進んでいった。
『どもども~っ』
美琴が、開いた屋根から手を振っている。いつの間に、運転代わった?
そういや、もはやレールがないので大通りをタイヤで進んでいる。
『みなさん、ありがとう~っ』
紫雲も、にこやかに手を振っている。
まぁ、確かに巫女たちが出て手を振らないと魔物の骨だけは不気味だからな。
もちろん、後ろの討伐隊も開いた屋根から手を振っている。
『こういうのは、ちょっと慣れないな!』
さすがの西園寺もちょっと居心地が悪いようだ。でも、実際にエレファンタスの討伐に参加してたわけだし堂々としてればいい。数少ない目撃者でもあるしな!
『どうも、ありがと~っ』
『まっかせなさ~いっ』
他の討伐隊員もノリノリで手を振っている。
いや、別に救助に来たわけじゃないけどな~っ。結果的にはそうなっちゃったけど。
* * *
『鏡合わせの巫女様、われら刈沢をお救いくださり、まことにありがとうございます。刈沢神社宮司の守沢隼人です。どうぞよろしくお願いいたします』
刈沢村の神社の拝殿前には宮司を始めとした神職がそろって待っていた。もちろん、巫女たちのことは連絡してあったが、突然の魔物襲来で大変だったようだ。
『天ヶ崎が巫女、向田紫雲です。このような時に、お出迎えありがとうございます』
『同じく天ヶ崎が巫女、今野朝霧です』
『同じく天ヶ崎が巫女、篠崎美琴です』
『鏡合わせの巫女の護衛、西園寺討伐隊だ。よしなに』
西園寺は自分ちを簡単に説明した。一応、今回の遠征の主体は『鏡合わせの巫女』ということになっているらしい。
『こちらこそ、よろしくお願いいたします。この度のエレファンタスの襲撃には肝を冷やしました。本当に感謝しています』
『あ、いや、これは我らの手柄では』
宮司は、当然彼女たち討伐隊がエレファンタスを討伐したと思っている。しかし、それを説明するのはものすごく面倒な状況ではある。
とりあえず、一言では難しすぎる。
『???』
守沢宮司は不思議な顔をしているが、これはゆっくり理解してもらうしかない。
とりあえず、持ってきた魔動機関砲を提供した。
* * *
『なるほど! これがエレファンタスを退治した魔道具なのですね!』
うん、まぁ違ってるんだけど誰も訂正しようとはしない。
まだ組み立ててない魔動機関砲を渡した後、改めて魔動車の魔動機関砲を宮司に見せているところだ。
『こちらの魔動車も、後々提供いただけると?』
『はい、天ヶ崎の菅野宮司より、そのように言付かっております』
紫雲がうまく応えてくれている。
『ありがたい、これで我が街も魔物退治が進むでしょう』
街を護っているだけではだめだからな。周囲の森の魔物も減らしていかなくては交易路が維持できない。
みると、周りにはこの街の討伐隊が興味深そうに見ていた。
『明日は、外壁の門に据え付けて試し打ちとしましょう』
西園寺が言うと、周りの討伐隊から歓声があがった。
とはいえ、今日のところは歓迎会である。
* * *
ここはいつもの開発室。
「私も、あれ食べてみたいなぁ」
歓迎会の会食を見て荻野がポツリと言った。
「さすがに、それは無理だ」
「汁物だったら、いいんじゃないの?」
「お前、それかなり危険な行為だろ!」
「そうかなぁ?」
「まぁ、そうだろうな。スープを濾したものなら大丈夫だろうけど」
-細菌をはじくフィルターを通すことは可能です。
「いいわね。じゃ、あのスープをちょうだい!」
荻野は嬉々として異世界のスープをカップに受け取っていた。
まぁ、見た感じWebカメラから滴ったスープなんだけど。
「う~ん、良く分からない」
「お前なぁ。細菌をはじいてるってことは、アミノ酸もはじいてるだろ」
さっそく乙羽に突っ込まれた。
「あ、そうだった。うまみ成分もはじいちゃってるんだ」
「気づくのおせーよ」
「てへっ」おい。
でも、ちゃんと香りは届いている。




