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42 川を渡る1

 翌日、軽く朝食をとった後、早速橋作りの作業に入った。


 橋を作るには、まず川を渡って最初のロープを対岸に渡す必要がある。

 このため、俺たちは水陸両用車を川面に浮かべた。


 とりあえず次元フィールドで覆われていて安全な巫女隊の魔動車を使った。ロープは三鈴AIが作ったもので、つる草と樹脂で作ったとは思えない強靭なものだ。


「よし、出発だっ」


 魔動車はゆっくりと水面を走り出した。

 引き上げたタイヤに仕込んだフィンで推進力を得ている。初めて使ってみたが、ちゃんと機能していて安心した。

 ただ、あまり速いとは言えない。何故ならロープを引いているからだ。水の勢いで引っ張られてしまうからな。

 届けられるのかこれ?


-ロープを引くには推進力が弱いので、ウォータージェットを使います。


 ふ~んっ。なにぃ?

 思わず三鈴AIのサポートが入り、魔動車はガクッと加速した。そうきたか。

 魔動車後部から吐き出している水は明らかに家の水道の水ではない。恐らく次元フィールドで作ったポンプで川の水を吸い上げて吐き出している。いつもの心臓と同じ方式のポンプだろう。とにかく超強力なジェット推進になっていた。


『すっご~いっ』


 運転していた美琴が驚きの声をあげた。


『風が気持ちいわね~』

『さいこ~っ』


 それはいいけど、紫雲も朝霧も何故水着? そんなに気に入ったのか?


「いいじゃない、寒くないんだし」


 確かに、三鈴AIが体温調整までしてくれてるからな! きっと異世界ゲートの穴の数とか調整してるんだな。ほんとかよ。


『今日は、ちょっと暑いんです』


 運転している美琴も水着でいるらしい。

 ああ、なるほど。外の空気を取り込んだりして空調してるのか。三鈴エアコン凄いな。

 もちろん、川には魔物がいるかもしれないので、俺は魔動機関砲にセットした三鈴で監視している。


  *  *  *


 対岸へ渡ったらまず、橋の基礎部分を作る。そして、ロープでシルバースネークの骨を手繰り寄せて基礎部分に据え付ける。この作業は三鈴重機モードなので簡単だ。そもそも、もうちょっと近かったらもっと簡単に橋を渡せたのだが、次元フィールドの限界付近なので安全な方法をとっている。

 それでも思ったより早く、川に骨のアーチがかかってしまった。

 こうなったら、後は上に橋を載せるだけである。次元フィールドで支えつつ、次々と資材を渡していく。

 もっとも、対岸の討伐隊は人力で材木を渡しているので重労働だが。


 これで橋自体は完成だ。後は川を戻って三鈴重機モードで線路の敷設をするだけだ。


『三鈴がどれだけ凄いか改めて思い知った』


 討伐隊と合流してみたら、西園寺が疲れ切った顔で言った。


「とりあえず、シャワーを浴びてくれ。後の作業は三鈴だけで出来る」


『そうか、助かる!』


 討伐隊がシャワーを浴びている最中も、三鈴AIは作業を進めている。今日は橋を作るだけで終わるだろうが、きっちりやり遂げて眠りたい。


 今回、三鈴重機モードについて改めて感心したのは、資材の運搬も可能だということだった。まぁ、考えればそうなんだが、実際に見るととんでもない絵になる。資材が空中に浮いてるからだ。いや、信じられないのは異世界人だけではない。俺たちもだ。


 三鈴が作っている橋の設計図は3Dモデルで出来ていて、どこまで作業が進んでいるのか画面でわかるのだが、次々と線路が敷設されていくのがよく分かる。

 もちろん人間がやったら途方もなく時間がかかるのだろうが、三鈴AIだとスイスイである。

 さすがに、シャワーを浴びている間にできてしまったのには驚いたが。


 三鈴の重機モードはWebカメラの魔石を使っているわけだが、使い切った魔石は交換してあるのでエネルギー的には全く問題ない。

 ただ、問題はないのだが、さすがに納得いかない気持ちもある。このとんでもない次元フィールドの力ってなんなんだろう? 元は誰かの願いだったりするんだろうか?

 原理も分からないものを使うのは何ともむず痒いのだ。


  *  *  *


 ここは、いつもの開発室。

 食後のシャワーを浴びて既に寝るだけになっているのだが、『鏡合わせ』について思いついたことを話していた。


「誰かの願い? 面白いこと考えるわね!」


 荻野に微妙な顔をされた。


「いや、だから巫女の神楽舞で始めるんだろう? あれは巫女が異世界とつなぎたいと願ったんだろ?」

「それは、そう言ってたわね」

「で、その願いを魔石がかなえている」

「そうね」


「でも、魔石の能力は未来を変える力だって話だよな?」

「そこが意味不明なのよ。その力がどうして異世界とつなぐことになるの? なんでも出来る訳じゃないよね?」

「問題はそこだよな」


 荻野の言う通りだ。魔石といえども、決して万能ではない。まぁ、三鈴AI使ってやりたい放題とも言えるが半径10mの有効範囲も含めて限界はある。

 ならば、魔石の機能で何をしたのかだ。


「魔石は、どんな未来に変えたのかな?」


 聞いていた乙羽が難しい顔で言った。


「どんな未来?」

「そう。あるいは、どの未来か」


「ん? ああ、確率を集束させるのか」

「そう。確率分布の中から選ぶ筈だ」


「つまり、異世界とつなぐこと自体は『普通に可能な未来』になるわけだな?」

「えっ?」

「うん?」


「いや、だから魔石があろうとなかろうと、異世界とはつながることがあるってことだろう? そういう現象があるから選べるわけだよな?」

「ええええっ!」

「ほんとかよ!」


「だって、魔石の能力から言ってそうなるだろ。未来を選んでるだけなら納得がいく」

「う~ん、そうかもね」


「まぁ、確かに。だが、そんな現象がほんとうにあるのか?」

「かなり怪しいわよね?」


「しかも、なんでそんな現象が起こるんだ? なんであの異世界なんだ? なんで俺たちの世界なんだ?」


 乙羽の疑問はもっともだ。


「そうだなぁ。俺たちのこの世界と向こうの世界が近いからなんじゃないか?」


「つまり、二つの世界が隣りにあるってことね?」

「そう。あるいは二つの世界は接している?」


「それって、電子雲みたいな世界の分布と別の世界の分布が接しているってこと? 一部重なっているとか」

「それだ! たぶん、一部で重なっている。重なったり離れたりだ!」

「鋭いな! 荻野!」

「えっ? そ、そうかな?」


 俺はやっと合点がいった気がした。


「龍一、さすがにもうファンタジーじゃ済まなくなって来たわね!」

「凄いことになってきたな」


 どんなに奇想天外なことが起こったとしても、その一件で終わってしまったのなら問題はない。二度と起こらないなら、世界ふしぎ昔話が一つ増えるだけだ。だが、日常的に起こっている現象ってことなら話は違ってくる。


 さすがに、この話は椎名研に報告しておくことにした。

 もう、今夜は寝付けないかも。


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