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37 未来を求めて

 原理は不明だが魔石は非常に大きな可能性を秘めていることが分かった。

 氷室助教授は研究のためなら魔物を飼いたいとまで言い始めた。


「未来を変える力と言っても恐らく局所的なものだと思うの。周囲の環境に影響を与えるのが限界の筈。それ以上の必要性がないもの」


 確かに氷室助教授の言う通りだ。

 魔物が作り出した器官であれば、魔物に有利に働くような範囲に限定されている筈だ。というか、それが最も無駄がなく合理的だ。


「逆に、人間が広範囲の影響力を求めるなら、人工の魔石を作る必要があるでしょうね」


「なるほどな」


 椎名教授も頷いた。


「なるほどなじゃないわよ。あなたが作るのよ」


「僕かね? しかし生体神経組織だよ君」

「そこなのよ。だから私が手伝ってあげるわよ」

「頼むよ。生体超伝導体ってだけでおなかいっぱいなんだが」

「だめよ。もっと上を目指すのよ」


 常温で動く超電導体と言ったら、それだけで世界がひっくり返る。氷室助教授は魔石の未来を変える力そのものを解明したいってことだよな? ん、未来?


「あっ?」


 俺は、ちょっと思い出したことがあった。


「何かしら?」


 氷室教授は、ちょっと悪戯っぽい表情のまま俺に振り向いた。


「あ、ちょっと違う話なんですけど、三鈴のAIが非常に優秀で」


「AIかね。そういえば、そんな話だったね」


 椎名教授も関心を持っていたようだ。


「はい。優秀過ぎるんです。最近は、ちょっと先読みして人間をフォローするくらいになってます」


「先読み?」

「ええ、未来を先取りというか」


「怪しいわね。もしかすると、先取りしているというより、未来を正しい方向に集束させているのかも知れないわね」


「なるほど」


 つまり、最良の結果を生む方向に集束させているわけか!

 ということは、それは三鈴AIがやっているというより魔石が三鈴AIを誘導しているということになる。それなら納得できる!


「ますます興味深いわね!」

「そうだな」


 あらためて椎名教授と頷きあう氷室助教授だった。


「それで、異世界の話で他に報告することはない?」


 まだあるだろうという顔で聞いてくるが、さすがにこんなものだったよな?

 何かあったかな? とりあえず、何でも報告だけはしておこう。


「あぁ、そういえば、星降りの……隕石群が襲来する件で相談されました」


「隕石群? 流星群?」


「それが、流星群というレベルではないんです。近くにクレーターが何個もできていて、そんな隕石が毎年落ちてくるらしいです」

「何ですって?」


 いきなり、つかみかかってくる氷室助教授。

 近い近い近い! 嬉しいけど、近い。


「どういうこと? もしかして、あのサンプルの池?」

「はい、そうです。あれはクレーターに溜まった水です。今回も持ってきました」


 そう言って俺は机の上に置いたサンプルを指さした。


「ふうん。なるほどね。つまり、重金属が豊富な隕石群に襲われてるってことね」

「そうらしいです。まだ、見たことないんで信じられないんですけど」


「そうでしょうね」


 氷室助教授は星降りの様子を思い描いているような表情をした。


「大きな池がクレーターだと言われて初めて凄い状況だと知りました。それが沢山あるんです。ただ地球の俺たちには縁遠い話でアドバイスできることは少ないかなと」


「えっ? 何言ってるの? 確かにアドバイスは難しいかもしれないけど、地球でもあったことよ?」


 氷室助教授は意外なことを言った。


「えっ? 星降りがですか?」

「そうよ。信じられない?」

「ええ。まったく」


 そんな俺をみて、ちょっと考えてから話し始めた。


「そもそも、金が地上でとれるのは隕石由来だと言われているわ」


 金って、あの金鉱石の金だよな? 元素記号Auの。


「はぁ」

「地球ができた時にあった金は、重いから地球のコアに沈んでしまってる筈。地表に金の鉱脈があるのは隕石が大量に降ったせいなのよ」


「ああ、そういえば、異世界は金が無駄に転がってました」


 俺の言葉に氷室助教授は、それ見たことかと言うような笑みを浮かべた。


「そう。ということは、古来から地球の何倍もの金属を多く含む隕石が落ちたってことね」


「そうなんですか」

「そうよ。金だけの隕石なんてないの。金鉱脈は地上で長い時間をかけて濃縮されてできるのよ」


 確かにそんな話は聞いたことがある。海水などに溶けた金が濃縮されて金の鉱脈になるという話だ。


「つまり、規模は違っても似たことが地球でもあったと」

「そうね。ただ地球の場合は規模も時期も違ったから、ほとんど忘れられているわね」


「どこかに記録があるんですか?」

「あるわよ。それは古事記。天岩戸伝説があるでしょ?」

「えっ? 天岩戸伝説ですか?」


 俺は意外な展開に驚いた。なぜ古事記?


「あれは、皆既日食の話だっていう人がいるけど、私は信じないわね」


「そう聞きました」

「ええ。でも、わざわざ日食の話だけを神話にして語り継ぐかしら?」


 そう言われると、おかしい気がする。おとぎ話のモチーフ程度のことを神話にするかってことだよな?

 天体ショーについてだけ見ても彗星のようにもっと話題になる話はある。


 氷室助教授は椅子に座りなおして紅茶を要求した。

 椎名教授が紅茶を用意すると、一口飲んでから話を続けた。


「古事記によると須佐之男命は何年も暴れまわっていた。それを天照大神は許していた。すると調子に乗った須佐之男命が更に暴れまわり、ついに天照大神は岩戸に隠れてしまった。そして木々は枯れ、神々が大いに騒いだとある」


 確かに、そんな話だった気もする。あまり詳しくは覚えていない。そもそも、まともに教わっていないと思う。須佐之男命が暴れまわった話なんて、あまり聞いた覚えがない。八岐大蛇の討伐の話くらいか?


「はい」

「この話は、長年にわたる隕石群の襲来と大量の宇宙塵によって太陽が隠れたことを物語っていると思うの。おそらく何年も日が陰り、木々が枯れたでしょう。神話のとおりにね」


 あっ。


「確かに、そう考えられなくもないな」


 椎名教授も相槌を打った。


「そうよ。5分で終わる日食で木々は枯れないの」


 それはそうだ。


「少なくとも、私はそう考えているわ。世界に残る唯一の隕石群襲来の記録だと思う」


 凄い話になってきたが、言われるまでそういう視点で古事記の話を聞いたことはない。いや、もっとおとぎ話的に聞いただけだ。


「神話って、奥が深いんですね」

「神話だから残ったのかもね。人間の歴史って誰が勝ったとかどの国がおさめたとか、人間のことしか語っていない。せいぜい自分の都合のいいように変えるだけ。でも、何かが起こった理由。例えば火山の噴火とか天変地異については何も語っていないことが多いの。だから天岩戸伝説は非常にまれなケースだと思う。あの神話は、人々が日本に来たのは天変地異が原因だったと言ってるんじゃないかしら?」


「本当にそんな気がしてきた」


 椎名教授もですか。

 今までは日本の神話を聞いても正直何が言いたいのか分からなかった。しかし、多大な労力をかけてまで後世に伝えようとした何かがある筈なのだ。それが、やっと見えた気がした。元からあったものに、いろいろと修正されてしまって分かりにくくなっていたのかもしれない。

 まぁ、天変地異の話を、未体験の後世の人間が正しく理解できなかったとしても無理はないと思うが。それを分かっていて神話にしたということか?


「本当ですね。やっと理解した気がします」

「目から鱗ってこういうことですね!」

「まさしく。氷室助教授凄いです!」


「ま、まぁ、私は分子生物学者だから、あくまでも個人的見解なんだけどね」


 氷室助教授は頬を染めて言った。ちょっと可愛い。


 しかし、地球の歴史の中でも異世界ほどではないにしても似たような事が起こっていたということになると話は別だ。


「確かに、他人ごとではないですね」

「そうでしょ?」


「ええ。もし、そんな未来が見えたら変えたいと思うでしょうね」

「そうよ。それが魔石でできるかも知れないのよ。未来が見えるだけでも大変な話なのに結果も変えられるかも知れないのよ!」


 そ、それはそうだろう。


「ポーカーで勝つためじゃないの」

「なるほど」


 すみません、ポーカーで勝つ気でした。いや、ちょっと思っただけですけど。


  *  *  *


 研究室からの帰り道、三人は腑抜けたようになっていた。

 下手に外で話せない内容ではあるし、無言でバスに揺られて帰ってきた。


 それでも、昼食をとって開発室に戻り自分で焙煎した珈琲を飲んでいるとちょっと元気が出て来た。とりあえず、うまいことは正義だ。


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