35 人魚2
翌日、天海港に魚は浮いて来なかった。
これで、ほぼあの池の水が原因だと分かった。
念のため乙羽には池の水を持って研究室に行ってもらった。
討伐隊は毒の池の場所を村長たちに教えるといって出て行った。本当に毒ガスかどうかは不明だが魔動車に乗ったまま遠くから眺めるくらいなら安全だろう。
その間、暇になった俺たちは海岸の岩場に来ていた。
人魚向けの小物を置いた場所だ。
『あれ? アクセサリーがない!』
美琴は自分が置いた筈の岩場を探してみたが見当たらない。
昨日は討伐隊に監視を任せたままだったが何もなかったという話だった。
『確かにここでしたね』
『私はこっちに置きました』
紫雲と朝霧も自分が置いた岩場を探したが見つからない。
「奇麗になくなってるわね!」
意味ありげに俺を見る荻野。
「いやいや、波にさらわれただけじゃないの?」
「ひとつもないなんて変よ」
「まぁな」
『絶対持ってったよ。あれ凄く奇麗だもん!』
まぁ、美琴が気に入ったものと同じだしな。
『人魚も気に入ったのかしら?』
『あれを付けた人魚がいたら素敵!』
魚の被害がなくなったこともあって、そんなのんきな会話になっていた。
波にもさらわれたんだろうけど、一個くらい人魚が持って行ったのかも?
『あ? 奇麗な石を見つけたっ!』
美琴は虹色に輝く青みがかった楕円形の石を見つけた。
「おお、見たことない奇麗な石だ」
『これは貝殻ね』と紫雲。
「へぇ」
『きれいな貝殻ね』
『私も見つける~っ!』
『私も見つけた! きれいっ!』
『やった~っ。私もみつけた!』
三人とも見つけた貝殻を見せ合って大騒ぎだ。
そんなことをしていたら乙羽が研究室から帰ってきた。
分析によると、やはり池の水が魚の大量死の原因だと判明した。
クレーターで出来た池の水が重金属に汚染されているということは、隕石そのものの成分が重金属ばかりだということか。つまり、「星降り」とは単なる隕石群の危機であると同時に重金属汚染の危機ということになる。
思った以上の事態が進行しているのかもしれない。
* * *
『この度は我が街の難問を解決して頂き、誠にありがとうございました』
村長の瀬端は深々と頭を下げた。
天ヶ崎からの遠征隊は街の課題を解決し魔動機関砲の教育も問題なく完了した。依頼完了報告を聞いて素直に感謝の言葉が出たようだ。
『あとは私たちで何とか対処いたします。これで安心して漁ができますよ!」
瀬端は晴れ晴れとした顔で言った。
『お役に立てて嬉しいです』
美琴も本当に嬉しそうだ。
『おや、珍しい貝殻をお持ちですね』
美琴が手に持っていた貝殻に瀬端が気が付いた。
『えっ? そうなんですか。岩場で見つけました』
『ほう。あの辺りには、ないはずですが、"人魚の涙"と言われる貴重品です』
『えっ?』
『人魚の涙?』
『はい。大変珍しいものです』
まじかよ。
「ぐ、偶然だよな?」
「偶然よね?」
「何がだ?」
不思議そうな顔の瀬端に別れの挨拶をして巫女たちは帰途に就くことにした。
まだ日も高いので今日中に天ヶ崎村へたどりつけるだろうからな。既に高速移動が可能になっている。1時間程度で帰れる筈だ。
* * *
ここは天ヶ崎村に帰ったあとの開発室。
「そういやさ、俺が帰ったときに巫女さんたちと一緒にいた奇麗な海女さんは誰なんだ?」
研究室に池の水のサンプルを持って行って留守だった乙羽が思い出して言った。
「なんだって?」
「なんのことよ」
「えっ、だって岩の向こう側にいたじゃん」
「誰もいないよ」
「見てないわよ」
誰かいたのか? 貝殻を見つけてそれどころじゃなかったが?
「2,3人いたと思ったけど?」
「2,3個の貝殻しか見つけてないわよ」
「まぁ、あまり良く見えなかったけどな。足場が悪いし」
実際に岩場を飛び歩いていたからな。映像もブレブレだった。
「ええと、録画は?」
「あ、忘れた」
「誰の録画?」
だめか。毎回記録しとけよ。
「まぁいいか」
「まぁいいよ」
「もういいわ」
とりあえず、調査依頼は完了したしな。
運が良ければ、また会えるだろう。




