33 人魚のいる村
天海村は港にそそぐ川の河口に作られた豊かな漁業の街だった。
天海湾は広く、波はやや高めだが漁船が沢山並んでいた。
天海村神社に付いた巫女隊一行は、街の町長兼宮司から大いに歓迎された。
もちろん、巫女たちの遠征は予定されていたことだが、さらに『鏡合わせに成功した巫女』は特別扱いらしい。
『連絡にあった魔動馬車ですね! なんと素晴らしい!』
天野村の宮司瀬端隆が感嘆の声を上げた。
魔動馬車? 一応レールの上を走って来たのだが、神社の車寄せに入ってきたら馬車と思うよな確かに。
ただ、見慣れた馬車とは違い全面をチタン骨で覆われた車体は、どう見ても普通じゃない。装甲車とも言えるのだが見た目はすっきりしてるので重厚感はない。
まぁ、魔動機関砲がついてるからこれだけはちょっと厳つい。
おまけに、来る途中でチタンの角まで付けたので微妙な感じにはなっている。余計なことをしてしまったのではと、ちょっとハラハラした。
『これが魔動機関砲ですか! しっかりした作りですね! 頼もしい!』
そして村長は屋根から突き出している魔動機関砲に期待を込めた目を向けた。当然だよな。ちゃんと持って来てますよ。ご注文の品です。
『あとで、我らが使い方の指導を担当します』
『はい。よろしくお願いいたします』
そんな話の後に、さすがの村長にも気になるものがあった。
『これは、フォレストディアの角ですかな?』
気づくよな当然。思いっきりというか、これ見よがしについている。
もっと驚くかとも思ったが、村長も知っているらしい。興味深そうになでたりしている。そういえば、貴重品とか言ってたか。
『来る途中で討伐したものです』
『それは素晴らしい! やはり依頼をして良かった!』
ドヤ顔の西園寺。感心する村長。
うん? 依頼?
今回の派遣、他にも何か目的があったのか?
* * *
魔動車の話はそこそこに、村長は巫女たちに出していたという依頼の話を始めた。
巫女たちも知っていたようで黙って聞いている。
村長によると最近港の魚が大量死するという事件が続いているのだという。
もちろん、魚が大量死することはよくある話だ。異常気象や藻類の大発生などで起こることもある。ただ、そういう原因の場合は漁師はすぐに気付くらしい。
たが今回の場合は全く原因が思いつかないとのことだった。ちょうどそんな時に、『鏡合わせの巫女』たちが遠征に来るということで最後の頼みで調査依頼をお願いしてみたというわけだ。
さすがに伝統の『鏡合わせの巫女』は他の村もよく知っていて、昔から『鏡合わせの巫女』に知恵を貰うことは普通のことのようだ。神事だしな。
「魔物が原因の大量死は過去にあったんですか?」
確認のため聞いてみた。
『それが、今回のようなものは経験したことがありません。ですが、伝説にはないこともないんです』
歯切れの悪い言い方をする村長。
「伝説ですか」
『はい。人魚を悲しませると魚が大量に死ぬという言い伝えはあります』
村長はおとぎ話のようなことを言い出した。
「人魚ですか!」
「人魚だって~っ!」
「人魚キタ~~~~~~~っ!」
巫女たちより俺たちが盛り上がってしまい、異世界の人間がちょっと引いていた。
『そ、そんなに人魚が好きなんですか?』
不思議そうに聞く美琴。
『普通に魔物ですよ。あまり悪いことはしないと聞いていますが』
紫雲もちょっと微妙な顔で言った。
『討伐対象にはなっていない魔物だな』
討伐隊の西園寺がいうなら、そうなのだろう。
どうも、『人魚』の認識に異世界と地球では大きなギャップがあるようだ。
「なら、大量死が発生したらすぐ調査するとしましょう」
『それが、この数日は毎日なんです』
『なんですって!』
『そんな、もったいない!』
魚の好きな紫雲と朝霧は許せないらしい。
とはいえ、今日は遅いので明日の早朝から調査を開始することになった。
* * *
「私、ちょっと買い物して帰る」
三鈴の接続を切ったあと、帰り際に荻野が言った。
日が落ちる前に村に到着できたので野宿はないので帰るのだが。
「買い物? 付き合おうか?」
「いいのいいの。人魚用の物だから」
乙羽が気を回したが、荻野は断った。人魚について何か秘策があるらしい。
しかし、原因の最有力候補が『人魚』か。まぁ、たぶんジュゴンとかなんだろうけどな。異世界だけに、ちょっと期待してしまう。ジュゴンの魔物でないことを祈ろう。
荻野は寝袋を置いて帰っていった。まぁ、帰りもあるからな。
* * *
翌朝、討伐隊は魔動機関砲の組み立てと教育に忙しく、魚の調査のほうは巫女隊と俺たちが担当することになった。
そして、港に出てみるとそこには確かに大量の魚が浮いていた。
「人魚の涙で魚が死ぬんだっけ? それにしては多すぎる気がするな」
「そうよね~っ」
「人魚、泣きすぎだろ。慰めてあげよう」
そんなことを言う乙羽。どうやって慰める気なんだろう?
『人魚といったら、やっぱり岩場にいるのかしら?』
『村長さんの話だと、そうよね』
『だとすると魚の浮いてる場所とちょっと違うんじゃない?』
朝霧の言う通り、確かに魚が大量に浮いているのは港の外れにある岩場とは場所が違う。
「とりあえず、これを置いてみましょう。昨日買って来たんだ!」
そう言って荻野は手のひらに載せたものを見せた。それは原宿で買ってきたというキラキラのアクセサリーだった。
「流行のネックレス、ブローチ、イヤリング、それとブレスレットよ」
「ほう」
「それ、どうすんだ?」
「あげるのよ」
「ああ、おびき出すのか?」
「人聞き悪いわね。話をするきっかけよ」
なるほどな。興味を示せば来てくれるかもしれない。
早速、異世界ゲートを通して美琴にアクセサリーを渡した。最近いろいろ通しているので、少し拡張しているので問題なかった。三鈴の鏡のサイズまでは拡張できそうだ。
『きゃ~、これ素敵~っ』
『まぁ、かわいわね~っ』
『これ、私も欲しい!』
人魚の前に巫女たちに大人気だった。
「だいじょ~ぶっ。みんなの分もあるから!」
あるのかよ。
どうりで袋が大きいわけだ!
っていうか、自分の分もあるらしい。




