31 天海村へ1
いよいよ天海村遠征の日がやってきた。
ピンボーン
いつものようにチャイムでドアを開けた。
「お前らおはよう……って、なんだその荷物は」
「何って、二日分の食料とかよ」
「そう、あと寝袋」
こいつら、野宿になったら泊っていく気らしい。
「まぁ、入れ。凄い気合いだな」
「そりゃ、野宿の乙女を生身で放置できないだろ」
「そうよ。魔物だけじゃないのよ」
いや、まぁそうだけど三鈴AIがあるし大丈夫な気がするが?
「いつも、寝るときは水道止めてるでしょ?」
そういえば、そうだった。
水を止めると自動的に三鈴の武器は止まる。まぁ、今日だけ止めなければいい気もするが、何かあるかも知れないから待機しているに越したことはない。
「そうか、夜中も待機するのか。寝る場所は開発室しかないけど」
「かまわん」
「あら、私はここには寝ないわよ。私はベッドを借りる。代わりに私の寝袋を貸してあげるから」
って、開発室に寝るのは俺かよ。
乙羽を見たら諦めろという顔をしている。そうでしょうよ。まぁ、待機するなら、あまり寝れないけど。
「よし、絶対野宿にさせないぞ」
要は、今日中に天海村に着けばいいわけだ!
「そうだな」
「その意気よ」
俺たちは良く分からない決意で出発準備を整えるのだった。
* * *
『全員集合!』
西園寺隊長の声がかかった。
社務所裏には既に魔動車二台が並び、荷物の積み込みも終わっていた。もちろん、交易品としての魔動機関砲も五丁荷台に積まれている。
『これから天海村との交易路確保の任務に就く。いつも通りの働きを期待する!』
『『『『『『了解』』』』』』
『『『三鈴アクティベーション』』』
おお、結構気合が入ってるな! 隣り街との公式任務でもあるしな!
『どうか、彼女たちをよろしくお願いします』
三鈴の中の俺たちに向かって改めて菅野宮司が頭を下げた。そう、俺たちは同行するが公式任務ではないからな。
「わかりました」
-お任せください
三鈴AIお前もか!
『よし、乗り込め!』
西園寺の一声で全員が魔動車と乗り込んだ。
『みなさんのご健闘を祈ります』
『頑張って来いよ!』
菅野宮司のほか風雲寺ネギや魔動車開発スタッフたちも見送っている。いろんな意味で期待がかかっているからな。
『では、行ってまいります。しゅっぱ~つ』
魔動車は巫女隊を先頭にするっと動き出した。
その様子をみる気持ちはそれぞれだが。
* * *
南方にある天海村へは、南門からの出発になる。
街の中央に位置する神社からの距離は同じだが少し違った街並みを抜けいくと、南門に到着した。
『『いってらっしゃい!』』
南門を護っている別の討伐隊員が見送ってくれた。東西南北に別々の討伐隊が配置されているからな。こっちは男の討伐隊だった。
南門から伸びる街道は、西の街道よりも下草が伸びていて背丈よりも高かった。
これでは馬車も走れない。
「街道全体の整備も必要だな」
-はい、お任せください。
思わずこぼれた俺の言葉に三鈴AIが反応した。
そして、おもむろに魔動車の前方の草が刈られ始めた。
巫女たちはレールに乗っていて街道の左側を走っているのだが、線路の右側の草も次々と刈っている。つまり土の街道も奇麗にしている。
どうも、回転する透明なカッターが魔動車のバンパーあたりから出ているようだ。
「これ、普通に草刈り機じゃない?」
「っていうか、倒木とかもスパスパ切ってるぞ」
「次元境界を使った刃物だな」
見ている感じでは、透明な円盤状のもので切っているっぽい。薄い膜にしか見えないが、もしかすると厚さ1マイクロメートルとかいう異常な刃を使ってるかもしれない。
「それって、超鋭い刃ってことよね?」
「たぶん、限界に近い切れ味のハズだ」
なにしろ世界の境界だからな。しかも、刃こぼれなんて絶対しない。
「これ、武器になるよな?」
超優れものの刃物だものな? 名刀だ。いや、それ以上だ。なにしろ、無限に使えるんだ。
「ああ、次元カッターと言うべきだろうな!」
草刈り機かと思ったら、超宇宙レベルの武器だった。おそらく、半径十メートルくらいなら何でも切れる。
そんな宇宙レベルの武器で下草を刈っている俺たちだった。
『あ、マッドボアが飛び出した!』
運転席の美琴が気が付いた。運転席といっても、レールの上を走っているので、監視が主な仕事だ。
「どうした?」
『えっと、マッドボアが飛び出したんだけど真っ二つになって後方に転がっていきました』
「りょ、了解」
草刈りしているところに、マッドボアが飛び出したらしい。当然、次元カッターの餌食となる運命だ。
「早速、武器として活躍してるわね」
「そうみたいだな」
「いい切れ味だ」
-前方の魔物はお任せください。
三鈴AIも思った以上の成果に自信を持ったようだ。これはいける!
『また、飛び出してきました』
さらにまた、マッドボアが飛び出したようだ。当然、また真っ二つになる。
「飛び出し注意だな」
「踏み切りないからね」
「哀れだな」
『こちら、西園寺。聞こえるか?』
そんな様子を見ていたのか、後方の西園寺から無線が入った。
もともと異世界には無線技術があったので、俺たちの世界の無線機を渡しても違和感ないようだ。ヘッドセットで相互に連絡できるようにしている。小さい基盤は日本製だが他は全部異世界で作っている。もちろん巫女も全員持っている。これで、多少離れても連絡がとれるようになった。
「こちら、異界の龍一。何かあったか?」
『マッドボアが出たようだが、いきなり死体が転がっているのはどうしたわけだ?』
確かに、前を走る魔動車の巫女たちにも攻撃した様子がないのにマッドボアが転がっていたら驚くよな。
「ああ、それな。マッドボアが草刈り機に突っ込んできたんだよ」
『草刈り機に? そちらの草刈り機はマッドボアより強いのか?』
草刈り機を実際に見てない西園寺には分かりにくいよな?
「まぁそうだな。いや、新しい武器、次元カッターだ。いまテスト中だ」
『なるほど。また新しい三鈴の武器か! じゃ、気にしなくていいんだな?』
「問題ない、後方監視をよろしく」
『了解!』
後ろの車でどんな噂話をしているか、ちょっと気になる。
「これ魔物狩り機つきの車なんだな」
「楽でいいわね!」
「魔動機関砲いらないかもな」
ほんとだな。
『左後方よりマッドボアの群れ6体接近!』
『討伐隊が対処する!』
『魔動機関砲、いっくよ~っ』
あの声は柚子っぽいな。
ガガガガガガガガシューン
ババババババババッーーン
ギィアーーーッ ギィアーーーッ ギィアーーーッ
ギィアーーーッ ギィアーーーッ ギィアーーーッ
おお、討伐隊も腕をあげてるな。
『右側面からマッドボア8体』
『巫女隊に任せて!』
『『三鈴ウォータージェット!』』
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
ジバッ ジバッ ジバッ ジバッ
ジバッ ジバッ ジバッ ジバッ
グァーーーッ グァーーーッ グァーーーッ グァーーーッ
グァーーーッ グァーーーッ グァーーーッ グァーーーッ
「あれ?」
「あらら」
「ほぅ」
「これ、強化してるよな?」
「魔石でバージョンアップでしょ」
「家電卒業したしな!」
いや、だって、え~っ?
まぁ、魔石追加で次元フィールドが強化されたわけだけど。
『やっぱり、三鈴凄い!』
『頼もしいよ三鈴!』
-恐れ入ります。
「絶好調ね」
「順調順調、これなら野宿は必要ないな!」
「そういうのをフラグと言うんだよ」
「あ、じゃ、前言撤回!」
乙羽に突っ込まれてしまった。
しかし、絶好調なのは魔物討伐である。この派遣の最大の目的が線路の補修なのだから、まだ序の口なのだ。
そしてその後、見事に破壊されたレールが待っていたのだった。




