30 天海村遠征
街道調査の結果を受けて、街は隣街との交易回復のために遠征隊を派遣することを決定した。
要は隣街までの街道を修復し、魔動車による交易が可能であることを証明してみせようというわけだ。当然、このための遠征隊は巫女隊と西園寺討伐隊が担当することになった。
最初の目的地となった街は、最も距離の短い天海村である。
天海村は天ヶ崎から南に約五十キロほどの距離にある漁師の街だ。まずは一番近い街で試してみて他の街の交易復活の可能性を探ろうという意味合いもある。
このことは既に天海村の了解を貰っていた。街と街を結ぶ電話は切れてしまっているが、無線はまだ使用可能とのことで街と街の協力関係は続いているらしい。
天ヶ崎から天海村へは馬車で1日の旅程になる。つまり、なんとか宿泊の必要のない安全な距離ということだ。もちろん線路が整備されれば魔動車なら1時間ほどで走破できる距離なので交易復活の期待も大きい。
ただし今回は、線路の修復をしつつ魔物討伐もする必要があるので、馬車での移動とほとんど変わらない速度になるだろうとは思われた。
討伐隊の魔動車の完成を待って、一行は天海村へ出発することになった。
* * *
そして、いよいよ西園寺討伐隊にも魔動車が配備された。
『これで、我らも自在に魔物討伐ができるようになるな!』
社務所裏の広場に現れた魔動車を前に満面の笑みの西園寺だ。
『まさしく。これだけの機動力があれば無敵です』
早野が西園寺に並んで言う。さすが副隊長だな。
『でも、線路の補修任務は大変そう』
『ほんとよね~っ、やったことないし!』
柚子と西島は腰が引けてるようだ。
『まぁ、そう言うな。今回は魔動車が走れる程度の暫定補修だ。後からしっかり修復してもらう予定だから安心しろ』
確かに討伐隊の隊員が愚痴るのもわかる。線路の補修など誰もやったことがない。しかも長い間放置されていたものなのだから簡単にはいかないだろう。
だが、魔物がいる状況では一般人による工事ができないのも確かなのだ。
今回の遠征では1日で隣町まで到達できるかどうかは怪しい。場合によっては野宿になる可能性すらある。
『魔物の森で野宿って怖すぎるわね!』
紫雲が正直な感想を言った。
『ほんとほんとっ、乙女の仕事とは思えない』
朝霧も腰が引けている。いや、男でもやばいと思うけど。
『なんとかならないかな~っ、ねぇ三鈴?』
-お任せください!
まじかよ。なんでだよ。
『やった~っ』
『えっ? まさか三鈴がやるの?』
『え~、ってなにがどうなるの?』
素直に喜ぶ美琴、疑う紫雲、混乱気味な朝霧。
『いま、不穏な会話が聞こえたが?』
騒ぐ巫女隊に西園寺が近寄ってきた。
『三鈴が線路の補修を手伝ってくれるそうですっ』
『な、なんだと?』
美琴の安易な言葉に、西園寺は何と言っていいのか分からない。
「おいおい、ほんとかよ」
様子を見ていた俺たちもびっくりだ。勿論、線路補修に使うような資材は直径1cmの異世界ゲートでは送れない。何をする気だ?
「とりあえず、線路補修に必要な作業を俺たちだけで本当にクリアできるか検討してみようぜ」
微妙な空気になったところで、冷静に乙羽が提案した。
一旦社務所に戻って、俺たちと巫女隊、討伐隊が天海村遠征でやるべきことを確認することになった。
* * *
魔物討伐についてはいいとして、まずは線路の補修で必要な作業を確認する。
「まずは、落石、倒木、下草などの障害物の撤去方法だな」
-障害物は次元フィールドを拡大、展開すれば簡単に排除可能です。
魔石の追加でWebカメラに接続した三鈴のパワーが強化された。それで、AIがエフェクトで操作できる能力も強化されたらしい。つまり、次元フィールドという強力なアームあるいは触手を手に入れたようなものだ。
「まるで重機ね」
荻野の言う通りだ。
「ラッセル車だろ」
乙羽の見解も一理ある。とにかくこれで、最初の課題はクリアだ。
「次の課題は、枕木の修復または交換だ」
レールの下に敷く枕木はこの世界の特殊な樹木で長期使用に耐えるという話だが、さすがに経年劣化している筈だ。
-亀裂や欠けの修理に適切な樹脂を用意してもらえれば、次元フィールドで覆って充填することができます。
枕木を次元フィールドの型にはめて樹脂で固めるようだ。石のブロックに近くなるかも。これもクリアだな。
「路面を平らにしないといけないが?」
路面の穴とか、流された土砂とかあるだろう。
-お任せください。路面の石板も樹脂で補修可能です。土砂は周囲から寄せて埋めなおします。
「足りない土砂は、周りからかき寄せるってこと?」
-はい、問題ありません。土砂は圧力をかけて固めます。
本当に重機だな。本気で触手がついてるような気がした。
「いや、でも下草とか、ほんとに払えるの?」
-はい。それについては、前回の線路調査でも実施していました。
「えっ?」
どうも、既に下草の処理とか、じゃまな小石の排除などを三鈴AIがやってくれていたそうだ。そういえば、誰も気にしてなかったな。
「もう実績があるんだ!」
「知らなかったわね!」
『確かにな』
『忘れてたわね』
西園寺や朝霧は思い当たる節があったようだ。
現場でそれなら、俺たちが気づかないのも仕方ない。
俺たちの行動に対する小さい障害を三鈴AIが知らないうちにフォローをしてくれてるのはありがたい。ただ、ちょっと気にならなくもない。
明らかに三鈴AIは先読みして問題に対処している。それは、ありがたいことであり、とても優秀なのだが優秀過ぎる。これはどう考えてもおかしい。
そんな機能は俺が導入した本来のAIには含まれていない。それは理想としてのAIの姿ではあるが、今のAIの仕様ではないのだ。今のAIが、嘘言わないし間違えないなんてありえない。
可能性として考えられることは魔石の存在だけだ。これも魔石の効果なんだろうか? ちょっと注意する必要があるかもしれない。
「三鈴」
-はい。
「これからは、頼んでないことをするときは必ず了解を得ること」
-分かりました。
「それはそうね」
「うん。そうだな」
『え~っ、でも美琴を守ってくれたよ~っ?』
朝霧が言うのは美琴が馬に蹴られそうになった時のことらしい。確かにとっさのことには間に合わないかも。
「そうか。じゃぁ、緊急の場合はあとで報告するように」
-了解しました。
よしよし。こっちの言うことを聞いてるうちは大丈夫だよな?
で、この件はともかく天海村遠征自体は三鈴AIの力でなんとかこなせそうではある。ただ、本当に線路の補修までできるんだろうか?
* * *
ここは開発室。いつものようにコーヒーを飲んで相談している。
「問題は樹脂だよな」
「瞬間接着剤じゃダメかしら?」
「枕木だからな。重い荷物が乗ったら割れそう」
即効で乙羽からダメだしされる。
「そうよね~」
「速硬化タイプのエポキシ接着剤とかどうだ?」
「ううん、いいんだけど、異世界ゲートから送りにくいんだよなぁ」
確かに、直径1cmだからな。
「だったら、熱可塑性の樹脂なんてどう?」
「ホットメルトみたいなやつか!」
「弱いかな?」
「あぁ、あれより硬い奴があるな。高温で溶かして木材に圧入できるだろう」
-それでしたら、融解も容易ですので枕木補修には最適と思われます。
おおAIから「最適」の評価出た!
「よし、異世界ゲートに通る細い樹脂を買って来る!」
乙羽が頼もしい。
これでとりあえず、なんとかなりそうだ。




