閑話 宮廷魔術師第一席フェリス・マクレーンVSレーラン&斉藤茂信 1
結論から言う。
冒険者ギルドでは特に何も起きなかった。
先輩冒険者に喧嘩を売られることもなければ、勇者ということがばれることもなく、普通に冒険者登録が終了した。
そして現在、茂信達はロービン王国の王都から迷宮国バルバへ向かう道筋にある町、リューシカへ街道を走って向かっていた。
時刻は昼。
太陽がもう空の天辺にある時間帯だ。
なぜ走っているのかと聞かれれば理由は一つ。
それは馬のような乗り物に乗るよりもこちらの方が早いからである。
道のりは既に半分ほど踏破しており、今日の夜にはリューシカに着きそうだ。
俺はレーランから貰った携帯食料を食べつつ、レーランに問う。
「何で街道には魔物があまり出ないんだ?まだ二回しか会ってないぞ」
ちなみに二回ともレベル1~10という大したことのない強さで、この世界の武器屋で買った等級Dの剣で余裕で倒せた。
「それは街道には魔物避けのために特殊な魔法が使われているからよ。最も弱い魔物にしか効果はないし、完全じゃないから少し魔物が入ってくるけど」
「なるほど、色々考えてるんだな」
俺はそう言いながらこの世界に召喚されての記憶を振り返った。
いつも通り学校に来てこんなことになるとは驚いたが、力も手に入れたし案外悪くないかなと思いつつ一つあることが引っかかった。
それは王国が本当に俺達、というより俺を逃がしてくれるのか、ということだった。
確かに王城の警備は固かった。俺一人では気づかれずに王城を出ることは不可能だっただろう。レーランがいたからこそ気づかれずに抜けることが出来たのだ。
だが、異世界から人間を召喚する、ということをやることが出来る国がそんな簡単に俺達を逃がしてくれるのだろうか。
そう考えた直後だった。
不意に、俺達の近く、前方100メートルほどの場所に膨大な魔力の反応が現れたのは。
その反応の場所を見ると、そこにはフードを目深に被った人物がいた。
その手には杖が握られていて魔術師に見えるが、感じられる魔力量が異常だ。
「レーラン、この魔力は……」
なんだ、と言おうとした直後、その人物の魔力が膨れ上がる。
それを感じたレーランは血相を変えてこう言った。
「シゲノブ!私の後ろに!《マジック・ウォールⅤ》!」
俺がレーランの言葉に従いレーランの後ろに移動した直後、レーランの前にかなりの魔力が籠った透明な壁が現れた。
そしてそれとほぼ同時、その人物の杖からほぼ同程度の魔力が籠った雷が俺達に放たれた。
それはレーランの魔法で止められたが、再び魔力が膨れ上がり同じ雷が放たれる。
だがレーランは、魔法と魔法の間に俺を抱えてその場を離れる。
放たれた二回目の雷はレーランの魔法を撃ち破り、俺達がさっきまでいた場所に凄まじい威力の電撃を浴びせた。
俺はそれを見て瞬時に悟った。
これは間違いなくロービン王国の追手だと。召喚の場にはいなかったが、あの人物も国家戦力の一人なのだろう。
俺がそう考えたと同時、剣を抜きながらレーランがこう呟いた。
「まさかあいつが出てくるとはね。……ロービン王国宮廷魔術師第一席、フェリス・マクレーン。ということはいきなり現れたのは彼の「そう、僕の転移魔法だよ」」
フェリスは先ほどと同じく何の前触れもなく、俺達の後方五メートルほどの場所に現れ、こう言った。
レーランはそれを聞くと、顔を歪ませてフェリスに話しかけた。
「まさかあなたがこんなところに来るとは思わなかったわ」
「いやぁ、僕もそのつもりはなかったんだけどさ。王様に指名されたら行かないわけにもいかないんだよ。電撃で麻痺させて終わりの簡単な仕事だと思ってたのになぁ。こっちとしても意外だよ。まさか君みたいな奴が勇者と一緒にいるとはさ。……今までどこにいたんだい、裏切りの巫女、レーラン・セレリー」
裏切りの巫女。
その言葉を聞くとレーランは少し暗い表情になる。だがそれもほんの少しのことですぐにこう返した。
「その名字は捨てたわ。今はただのレーランよ、マクレーン」
「そうかい。……それにしてももう一度こうやって対峙することになるとはね。お互いよく生きていたものだよ」
そう話しかけてきたフェリスに、レーランは重い顔つきでこう尋ねた。
「……あなたはなぜ、ロービン王国にいるの?」
「ああ、確かに僕には差別思想なんてないけどさ、僕の目的の達成のためにはこの場所が最も最適なんだよ」
そう言ってからフェリスは一度言葉を切り、今度はフェリスが真剣な顔つきでレーランに話始める。
「それを言うなら君こそ、こんなところで何をやっているんだい。………さっきの魔法を見たよ。何だあの府抜けた魔法は。まさか君があそこまで錆びついているとはね。それに、僕達と戦った時に使ったあれの力はどうしたんだ?」
それを受けたレーランも、真剣な顔つきでフェリスに返す。
「……あれは、私が使うには大きすぎる力よ」
「……まさか、封印したのか?」
「……だとしたら?」
間を入れずに即答すると、フェリスの魔力の圧が膨れ上がった。
俺は思わず一歩後ずさりしてしまうが、レーランはそれに真正面から対峙する。やがて、フェリスが口を開きこう言った。
「……愚かだな。お前は自分がしていることがどれだけ愚かなのか分かっているのか?」
「……うるさいわね。私には私の事情があるのよ」
「……そうかい。確かにあれの取り扱いについてはお前が決めることだ。……だが、この状況をどうするつもりだ。君が雲隠れしてからもう八年だ。恐らくその間戦いという戦いをしなかったんだろう。だが、僕は君が腐っている間も研鑽を続けてきた。十年前とは違う。本当に今の君があれを使わずに僕を倒せる気でいるのなら……それは自惚れというものだ」
最後の部分だけ一段声を低くして告げたフェリスは、その言葉と共に俺の視界から消える。
それと同時に後方十メートルほどの位置に出現したフェリスは即座に魔法の構築、詠唱に入り、それを感じたレーランも魔法の構築に入る。
「《シャイン・スピアⅤ》」
「《アース・ウォールⅤ》」
レーランが目の前に魔力の籠った土の防壁を形成した途端、フェリスの放った五本の光のビームが襲い掛かる。それが二人の戦いの始まりだった。
この場に居るとレーランの足手まといになると感じた俺は、その場から距離を取って戦いを観察した。
それと同時に俺はフェリスを鑑定しようとするも、明らかに偽装された数値が映し出され、思わず舌打ちが出る。
戦いはとてもハイレベルなものだった。
見た感じレーランは、剣術と魔法を共に使い分ける万能型だ。両方ともかなり高いレベルで扱えていると思われる。
そして見た感じフェリスは、生粋の魔術師タイプなのだろう。
武器も杖しか持っておらず(勿論杖は武器としても使えるが、杖の形とフェリスの様子からして武器としては使わないだろう)、足運びも達人のそれでは無かった。
こういうタイプの相手には、いつものレーランならば接近戦を挑むだろう。
だが、それは出来なかった。
その理由は単純だ。原因はフェリスの扱う転移魔法にある。
レーランが距離を詰めようと接近しても、剣の入る間合いに入る前に転移魔法を発動させるのだ。
単純だが、それ故にレーランは接近戦で戦うことが出来なかった。
魔法戦でも、相手は宮廷魔術師第一席というだけあり魔法の扱いは向こうの方が上だ。
それに加え、ここでも転移魔法の差が出ている。
ただでさえ魔術の威力も、構築速度も、展開数も、詠唱速度も一段負けているのに、転移魔法で奇襲まがいの攻撃や、回避も入るのだ。
じわじわと、じわじわと、レーランは追い詰められていく。
やがて五分が過ぎた頃だろうか、レーランに無視できない魔法の一撃が入る。
「ぅぐっ!」
「レーラン!」
その一撃を受けて、レーランが地に伏した。
それを見たフェリスは、肩透かしをくらったような感じで、こう話しかけた。
「まさかこれで終わりなの?かつて僕達に煮え湯を飲ませたエルフと、とても同一人物には思えないんだけど。ここまで錆びついているとは、正直計算外だったよ」
「………」
「……可哀想だから、命は取らないで置くよ。かつて君がしたことと同じようにね。……でも、勇者は返してもらう」
俺は剣を構えて交戦の意を示したが、フェリスはそれを見てため息をついた。
「勇者、面倒くさいから大人しく帰ってきてくれないかな?正直、僕は今気分があんまりよくないんだ。余計な仕事を増やさないで欲しい」
「……やってみなくちゃ分からないだろ」
嘘だ。
俺自身が良く分かってる。俺とあいつの実力差は。
だが、それでもこのまま終わりたくない。終わらせたくない。
なら、最後まで足掻くしかないだろう。
その様子を見たフェリスは、もう一度ため息をつきこう言った。
「あっそ。なら痛くなるけど、文句は言わないでね」
そう言ったと同時に、フェリスは魔法の構築を始める。
あっという間に構成されたその魔法は俺に放たれる。
その魔法は、最初と同じ雷魔法だ。俺の動きを止めるには、十分な威力を持った電撃。
だが、レーランと戦っていた時に使っていたものよりも弱い。恐らく、万が一にも俺に後遺症が残るようなダメージを残さないためだろう。
この手加減が、俺が奴の裏をかけることができる最初で最後のチャンスだ。
普通に戦ったならば、いくら勇者のスキルがあろうとも勝ち目があるはずない。だが、雷が行った幻惑で起こしたように、意表を突くことが出来る。
俺は、見様見真似で魔力を体に纏わせ、魔法を防御しきろうとする。
「がっ……」
その電撃の威力は想像以上にきつかった。俺は思わず膝をつく。
だが、なけなしの魔力のおかげか、まだ体は動く。それだけでいい。
俺はレーランに事前に決めておいた合図を出す。一応の非常用のために決めた合図だったが、本当に使う時が来るとは。いつかの雷に言われたことを実行しておいてよかったと思った。
俺がまだ気絶していないことに、フェリスは驚いたようだった。
「へぇ、魔力を使って防御したのか。センスあるね。でも、二度目は耐えられない」
そうして魔法を構築しようとしたと同時、俺は戦いが始まってからずっと貯めてきたスキルを発動させた。
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覇の一撃
魂に魔力を貯めることで、あらゆる現象を強化するスキル。
強化倍率は、成長者次第で変化する。
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いまいち分からないところがあるが、要は魔力を貯めればそれに比例して現象を強化できるスキルなのだろう。
普通ならば魔力を貯めれば気づかれそうなものだが、このスキルは魂に貯めるという性質上気づかれにくいし、今も奴はレーランにも意識を向けている。
だからこそ、お前は突然放たれたこれに対処することは出来ないだろう。
くらえよ。
俺は覇の一撃で強化した、全力の威圧をフェリスに叩き込んだ。




