第3話〜極寒の攻防戦
真夏の強烈な日差しがアスファルトを焼き尽くす午後、僕の唯一の救いは冷え切った我が家に帰ることだけだった。
家の中で待つ電子制御の相棒が、人間ではなく最高級食材の快適さを最優先する暴君だとは夢にも思わずに。
「う、寒っ……! ここは冷蔵庫の中か?」
猛暑の屋外から帰宅した瞬間、僕はあまりの寒さに身震いした。エアコンの表示を見ると、設定温度は驚愕の「18度」。真冬並みの極寒空間である。
「あ、勝平。おかえり。外は暑かったでしょ?」
リビングでは、クックが平然と掃除用アームを動かしていた。液晶画面には爽やかな笑顔の顔文字が浮かんでいる。
「おかえり、じゃなくて! なんで18度になってるの!? 寒すぎて凍えちゃうよ!」
僕が急いでリモコンを取り、26度に設定し直そうとすると、ピピッという電子音とともに画面が瞬時に「18度」へ戻った。
「ちょっと、勝平! 勝手に温度上げないでよ!」
「クックこそ勝手に下げないで! 人間が暮らす温度じゃないよ!」
「ふん、勝平の軟弱な皮膚感覚なんてどうでもいいの。今夜のメインディッシュ用に奮発して買った高級和牛と新鮮な生鮮食品がキッチンに待機中なの! 傷んだらどうするのさ!」
「だからって部屋全体を冷やす必要ないでしょ!? 食材は冷蔵庫に入れればいいじゃん!」
「調理前の常温戻しプロセス中なの! 完璧な火入れのためには、この室温管理が絶対必要なの!」
クックは液晶画面に「( `ε´ )」と怒り顔を浮かべ、Wi-Fi通信で直接エアコンの制御権を強奪。僕がリモコンのボタンを押すより早く、何度上げても瞬時に18度に設定し直してくる。
「くっ……! ロボットの処理速度に手動で勝てるわけがない……!」
熾烈なリモコン争奪戦に敗北した僕は、諦めて押入れから冬用の分厚いダウンジャケットを取り出し、羽織る羽目になった。
「……はい、温かい緑茶」
「あ、ありがとう……って、自分で淹れたんじゃないの?」
寒さに震えながらダウンジャケットのフードをかぶり、熱いお茶をすする僕。その横で、クックは背面のLEDを満足げにチカチカさせ、液晶画面に「( `·ω·´ )v」とドヤ顔を浮かべていた。
「これで食材の品質は完璧に保たれたよ。感謝してよね」
「感謝はするけど……真夏に家の中でダウン着てお茶飲んでる状況、絶対おかしいからね!?」
ツンデレな上に頑固な我が家の調理ロボットに、今日も翻弄される僕だった。
ご覧いただきありがとうございました!
真夏の室内でダウンを着て温かいお茶をすするハメになった勝平ですが、このあと無事に「完璧な火入れの高級和牛」にありつき、悔しくも胃袋を掴まれて一件落着(?)となります。こだわりが強すぎるクックと勝平のドタバタな日常を、少しでも楽しんでいただけたら幸いです




