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超毒舌グルメVTuberは俺の飯だけ星一千万〜隣の無口美少女を料亭仕込みの家庭料理で餌付けしていたら、毎晩ごはんをねだられるようになった〜  作者: ハイさん
第5章 特定騒動と秘密のキッチン、そして終わらない食卓

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88/90

第88話 春の風

三月。春が来た。


 大学二年の後期が終わり、春休みに入る。


 もうすぐ一年になる。あの夜——隣の部屋のドアの前で、腹を鳴らしながらうずくまっていた女の子に、うどんを差し出した日から。


 ◇


 柚葉からLINEが来た。


『先輩。大将が——先輩の配信を見ました』


 心臓が跳ねた。


『柚葉。見せないって言ったろ——』


『違うんです!! 私じゃないんです!! 板場の若い子がファンで、休憩中に見てたのを大将が横から覗いたんです!! 止められませんでした!!!! ほんとにごめんなさい!!!!!!!!!』


 ——若い板前がファン。料理クラスタでバズった「妖精の手」の動画だろう。


『大将、何て言ってた』


 既読。三分間返事がなかった。


 それから——


『何も言いませんでした。ただ——出汁巻き卵の断面を見て。うなずいて。それだけです。


 でも先輩。大将の目が——嬉しそうでした。


 こういう顔もできるんだなって。先輩の出汁巻きを見て、そう思った顔でした。


 先輩がどこで何をしていても、包丁を握り続けていることが——大将にとっては一番嬉しいことなんだと思います。


 春になったら。一度帰ってきてください。先輩の席——まだ空けてあります。


 柚葉より』


 スマホを閉じた。


 目頭が——熱かった。


 ◇


 夕食後。ちゃぶ台で鈴音と向かい合っていた。


「鈴音」


「……はい」


「春休みに——実家に一度帰ろうと思う」


 鈴音の目が——大きく開いた。


「……実家。……料亭に?」


「ああ。まだ——帰れるかわからないけど。顔を見せるだけでも」


「……」


「……一緒に来てくれないか」


 三秒の沈黙。


「……私が——一緒に、ですか」


「ああ。紹介したい人がいる」


 鈴音は——俺を見た。じっと。長い時間。


「……はい」


「来てくれるか」


「……はい。……みなとさんが帰る場所に——一緒に行きたいです」


 窓の外で、風が吹いていた。まだ冷たい。だが——どこかに春の匂いが混じっていた。

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