第83話 クリスマスの食卓
十二月二十四日。
世間はクリスマスイブで浮かれている。街にはイルミネーションが灯り、カップルがレストランに列を作っている。
俺たちは——六畳間にいた。
「外食、行くか?」
「……いえ」
「クリスマスだし、どこか——」
「……みなとさんのご飯が食べたいです」
即答だった。
◇
クリスマスのメニューを考えた。
洋食にしようかと思ったが——鈴音の希望は違った。
「……和食がいいです」
「クリスマスに和食?」
「……みなとさんの和食が、世界で一番美味しいので」
反論できなかった。
メニューを決めた。
鯛の煮付け。茶碗蒸し。れんこんのきんぴら。ほうれん草のおひたし。そして——鈴音の味噌汁。
二人で台所に立った。俺が主菜。鈴音が副菜二品と味噌汁。
クリスマスソングは流れない。代わりに——二本の包丁の音と、出汁の香りと、鍋が煮える音。
◇
食卓。
和食のフルラインナップが並んでいる。ちゃぶ台の上に、皿が七つ。
「……すごいです。旅館のようです」
「旅館には負ける。器が百均だから」
「……百均の器で旅館の味。……それがみなとさんです」
いただきます。
鯛の煮付けを一口。鈴音の目が——五秒閉じた。
「……煮汁の浸透が完璧です。身の繊維に沿って味が入っている。……醤油は薄口。みりんと酒の比率は——一対一対〇・五。……しょうがの香りが上品です」
分析。そして——
「……おいしいです。……クリスマスに食べる鯛の煮付けが、こんなにおいしいとは思いませんでした」
茶碗蒸し。鈴音の瞳孔が開く。
「……なめらか。……卵と出汁の比率が一対三。具材は銀杏、海老、三つ葉。……蒸し温度の管理が——」
「鈴音。分析はそのくらいにして」
「……すみません。……癖です」
「癖はいい。ただ——クリスマスだから。美味いかどうかだけでいい」
「……美味しい、です。……全部」
小指が跳ねた。左手が膝を掴んだ。
クリスマスの六畳間。イルミネーションの代わりに蛍光灯。ケーキの代わりに鯛の煮付け。シャンパンの代わりに味噌汁。
だが——世界中のどんなレストランより、ここが一番良かった。
「……みなとさん」
「ん」
「……メリークリスマス」
「メリークリスマス」
鈴音が——小さく笑った。もう、笑うことに迷いがなくなっていた。




