第82話 報告
恋人になったことを——報告しなければならない人間がいた。
まず健太。
「知ってた」
「……早いな」
「お前が今朝やたらにやけてたから」
「にやけてない」
「にやけてたよ。マクロ経済学の講義中に二回口角上がってたぞ。お前が講義中に笑うなんて、人類史上初だ」
次にキララ。LINEで。
『おめでとーーーーーーーーーーーー!!!!! 知ってた!!!!! 遅いよ!!!!! 何ヶ月かかったの!!!!! あ、氷室さんによろしくね! 今度三人でご飯行こう! あ、邪魔しちゃダメか! 二人で行ってらっしゃい!』
最後に柚葉。LINEで。
『おめでとうございます先輩!!!!!!
うん。わかってた。先輩が妖精として配信に出た時に確信した。あそこまでやるのは、好きな人を守る時だけ。先輩のことだから。
先輩。氷室さんのこと、幸せにしてください。
フライパンの件、まだ有効ですからね。泣かせたら飛んでいきます。
あと——大将のこと。近いうちに一度、顔を見せてあげてください。元気にしていますが、やっぱり寂しそうです。先輩を待っています。
柚葉より』
親父のこと。
スマホを閉じた。
いつか——帰らなければならない。逃げ続けることはできない。
だが——今は。
今は、鈴音の隣にいることが、一番大事だった。
◇
鈴音にも「報告」があった。
夜。配信の前。
「……みなとさん。リリとして——報告してもいいですか」
「何を」
「……恋人が、できたと」
「……いいのか? ネットに」
「……はい。……隠すものは、もうありませんから」
その夜のリリの配信。
『——本日は、一つご報告がございます。……わたし、リリは——妖精と、お付き合いを始めました』
チャンネルが——崩壊した。
サーバーが落ちた。
復旧後のコメント欄は——もはや読解不能だった。涙の絵文字と祝福と絶叫が入り混じって、どこからどこまでがどのコメントなのかわからない。
その中に一つ、読めるコメントがあった。
『おめでとう。ずっと見守ってた。幸せになってくれ』
シンプルで。短くて。——たぶん、何千人もが同じことを思った夜だった。




