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超毒舌グルメVTuberは俺の飯だけ星一千万〜隣の無口美少女を料亭仕込みの家庭料理で餌付けしていたら、毎晩ごはんをねだられるようになった〜  作者: ハイさん
第5章 特定騒動と秘密のキッチン、そして終わらない食卓

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第75話 準備

配信出演を決めてから、三日間の準備期間を設けた。


 やるからには完璧にやる。——いや、完璧という言葉は鈴音の前では使わないようにしている。ただ——圧倒的に、やる。


 ◇


 まず配信の構成を決めた。


 鈴音がリリとして進行。俺が「お料理担当」として手元と声のみで出演。顔は出さない。名前も出さない。ただ——「妖精」として。


「……みなとさん。本当に——声を出して大丈夫ですか。……料亭の関係者が聞いたら——」


「大丈夫だ。ボイチェンは使わない。だが、声だけで特定されることはない」


「……本当に?」


「料亭の人間はVTuberの配信なんか見ない。親父はスマホの電源の入れ方すら怪しい」


「……そうですか」


 次に、メニューを決めた。


 配信で作る料理。インパクトがあって、技術が見える料理。家庭の台所で作れるが、プロの技術が光る料理。


「……何を作りますか」


「だし巻き卵」


「……だし巻き卵」


「シンプルだからこそ、技術の差が一番出る料理だ。出汁の引き方、卵の扱い、火加減、巻き方。全部が見える」


「……それだけですか」


「いや。もう一品——造りもやる」


「……造り。……お刺身ですか」


「鯛の薄造り。柳刃包丁で引く。——あの暴露系に見せてやる。素人の家庭料理がどうとか言ったな。俺は素人じゃない」


 鈴音は——もう震えていなかった。


「……みなとさん。包丁……」


「ん?」


「……柳刃、持っていますよね」


「ああ。引き出しの奥にしまってある。料亭を辞めてから一度も使ってない」


「……使うんですね」


「使う」


 引き出しを開けた。柳刃包丁。刃渡り二十四センチ。親父からもらったもの。


 取り出した。布巻きを解く。刃が——鈍く光っていた。手入れはしていたが、使っていない。


「研がないとな」


 砥石を出した。荒砥、中砥、仕上げ砥。三段階。


 砥石に水をかけた。荒砥の上に柳刃を当てる。角度をつけて——引く。


 シュッ。シュッ。シュッ。


 規則的な音が、六畳間に響いた。


 鈴音は——その音を、じっと聞いていた。


「……きれいな音、ですね」


「……」


「……みなとさんが包丁を研ぐ音は……すごく——」


「すごく?」


「……安心します」


 中砥に移った。さらに刃を整える。仕上げ砥で、鏡面に近い輝きを出す。


 柳刃を持ち上げた。光がまっすぐに反射した。


 ——久しぶりだ。


 この包丁を握ると——料亭にいた頃の感覚が戻ってくる。背筋が伸びる。呼吸が深くなる。


「鈴音」


「……はい」


「俺が本気で作った料理を——お前の舌で、ちゃんと評価してくれ。配信の中で。全世界の前で」


「……はい」


「容赦するな。鬼舌のリリとして、俺の料理を斬れ。そして——本当に美味かったら——」


「……美味しいと——」


「言ってくれ」


 鈴音は——頷いた。強く。


「……任せてください」

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